第347話【修学旅行2】

<<マサル視点>>


通常、転移したばかりの時はパニックになることが多い。


普通は自分達の住む世界が全てであるため、新しい環境を受け入れられないからだ。


当然のことだがせいぜい彼らが知っている異世界とは天国や地獄くらいのもので、これについても非常にあいまいなものである。


なので召喚者の扱いを間違えてしまうと自暴自棄になって自殺してしまうことも多いそうだ。


今回のケースはもっと複雑だ。そっくりな環境に移転したため転移したことにすら気付いていない。


元の世界に戻すにしても別の異世界に転移させるにしても全てを理解させたうえで納得させる必要があるのだ。


もう一つ厄介な事実がある。14歳という不完全な年齢であることもそうだが、修学旅行中の1学年200名近い人間が同時に狭間に転落してしまっている。


これでは彼ら全てに真実を納得させることは非常に困難であるのだった。





<<弥生視点>>


修学旅行も2日目。昨日の動物園楽しかったなあ。


パンダはいなかったけどシロクマも可愛かったし。祥子ちゃんはアザラシが康子ちゃんはキリンが好きなんだって。

シロクマの前でもキリンの前でもいっぱい写メ撮ったよ。


アザラシには水をかけられて散々だったけどね。


他にもゾウやアライグマ、何かよく分からない鳥や爬虫類もいたけど、わたしが知らないだけかも。


動物を見て回った後はお土産物を売っている売店に行って見て回る。


修学旅行中なのでお小遣いもあんまり無いし、勝手に買うことも難しいからお気に入りのぬいぐるみを買うことだってお預けだったの。


ホテルに帰ってきたら食事。ボリュームいっぱいのバイキングスタイルでお肉やサラダ、和食が食べ放題だった。


男の子達は大喜びで「そんなに食べられるの?」ってくらい机に皿を並べていたのよ。


男の子達が漁った後の大皿は結構散らかってるからちょっと嫌だったな。


冷めた魚の切り身とか煮物とかも出来れば温かい方が良かったけど200人もいるんだからしようが無いよね。


お風呂は最高だったよ。ひろーーーい湯船にみんなで一緒に浸かってお喋りするの。


人数が多いから入れる時間が限られていたのが残念だったけど、気持ちよかったなあ。


お湯はちょっと黄色っぽかったけど、いろんな温泉があるんだね。


「弥生ちゃん、身体大丈夫?」


昼間突然寝てしまったり、ぼんやりすることが多かったから皆んなが心配してくれる。


「全然大丈夫!ありがと。」




今日は朝から歴史資料館に行く予定。


実はわたしこれが一番楽しみだったの。


こう見えてわたし歴史は得意科目なんだ。特に江戸時代から明治維新あたりが大好き。


江戸時代の生活を再現したブースでは大興奮。当時使っていた道具や着物なんかがたくさん展示されている。


「あっ、これお婆ちゃん家で見たことある。あっこれも教科書に載ってた。」


もう楽しくって仕方ない。


「ほら早く行こうよ弥生ちゃん!」


祥子ちゃんや裕子ちゃん、康子ちゃんはあんまり興味が無いみたいで、早く次へ行こうって急がせるのよ。


名残惜しいけど時間に制限もあるし次のブースへ行こうって思った時、ふと目に着いたものがある。


キリンレモンの瓶。右から書かれたカタカナの『ンモレンリキ』のラベル。


これお婆ちゃん家で見たことがある。蔵を建て替える時にいっぱい空瓶が出てきたもの。


後で調べたら昭和初期に売られてたものだって。


右から書かれたカタカナ文字って昔っぽくってかっこいい。


だけど待って!ここは江戸時代の庶民の家よね。どうして昭和初期のものがあるの?


博物館の人に聞きたかったんだけど近くにいなかったし、祥子ちゃん達も先に行っちゃったんで、そのまま次のブースへ急いだんだ。


次のブースでもその次でも違和感はあったんだけど、まあいいかって感じで出口にゴーーール。


売店で明治維新のステッカーとか印籠とか買った。


「印籠って買う奴いるんだーーー」って皆んなに笑われたけど、せっかく来たんだしね。


祥子ちゃんとバスに向かって歩いていると、祥子ちゃんがトイレに行きたいって言ったから、ひとりでバスに向かったの。


そしたら急に眩暈がして、あっ倒れるって思った時、誰かが支えてくれた。


「大丈夫?」


キャッ、私好みの若いおじさん。20代後半くらいかな。結構カッコいいよー。


「ありがとうございます。」


「君、あのバスに乗ってる修学旅行生?」


「はい、そうですけど。」


「そうなのか。身体大丈夫?違和感無い?」


「大丈夫?大丈夫だと思います。」


「そうか、気を付けるんだよ。」


「あっ、ありがとうございました。」


おじさん、いやお兄さんに昇格だな。カッコいいお兄さんはそのままどこかへ行っちゃった。


バスに乗り込むと康子ちゃんが話しかけてきた。


「さっき抱き付かれて、おじさんに声かけられてたよね。大丈夫だった?」


「あー、ちょっと眩暈しちゃって、あの人が支えてくれたの。カッコいいお兄さんだったでしょ。」


「ふーーーん、弥生ちゃんってああいうおじさんが好みなんだ。へーーー」


別に年上好みでもいいよねーーっだ。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る