第286話【トレスでの歓待2】
<<トレス王国王妃 サルベスタ視点>>
先日、国王である夫のトレクシスから、『サーガの光』教団及び我国貴族の人身売買に関する大規模な摘発を行ったと聞きました。
『サーガの光』教団については以前から黒いうわさが絶えませんでしたが、今回解体にまで追い込めたということでひと安心です。
これで民にも安寧が持たらされるでしょう。
今回の事件を解決に導いたのは王都警備隊長のミラベスタとその部下のクラシケラだと聞きました。
ミラベスタのうわさは民達からよく聞いています。
真面目で民を思いやるその性格はまさしく王都の守護にふさわしいと思っていました。
惜しむらくは、彼が平民の出自であったことでしょうか。
本来であればこのような優秀な人材は騎士として王国を守るべきポジションについて欲しいところですが、保守派の官僚も多く、なかなか登用することは難しいところでした。
今回の活躍で、ミラベスタが騎士に登用されたのは、今後の騎士登用に関して一石を投じることを期待したいものです。
さて、今回の事件解決に大きく貢献した者がミラベスタ達以外のもいたようです。
ラスク星のマサル殿なる人物がそうです。
ラスク星と言えば古代に我ら祖先が暮らしていた地であり、忘れ去られた伝説の星です。
実際にあることは分かっていましたが、その星に文明と呼べるものがあり、我等と同じような人族が存在するとは思いもよらないことでした。
我王家の始祖、シンゲン様が『ロケット』なる乗り物を作って、この星に移住されたのが3000年前。
その時一緒に来た100名ほどが、我国建国当時の全住民でした。
そこから年月と共にシンゲン様の御子達がの10の国が興こし、人口も増えていきました。
我トレス王国はその中でも、シンゲン様を初代王に戴くこの国の盟主です。
今もトレクシス王を中心として全ての国の安寧秩序が守られているのです。
今回、『サーガの光』が人身売買する奴隷を求めて、ラスク星の植民地化を企て、実際に忌魔術を使って古代の魔獣をラスク星に送り込んだそうです。
しかし、ミラベスタやマサル殿の活躍により、その野望は未然に阻止され、『サーガの光』が解体に追い込まれたというわけです。
しかも、ラスク人であるマサル殿がこのシンゲン星まで来て解決に大きく尽力したというではありませんか。
人類はおろか、知的生命などいない未開の地だとばかり思っていたラスク星から、自らの力でここまで来たというのです。
ミラベスタは、マサル殿がシンゲン様と同じ『地球』という星からの転移者だという話したと言います。
それが本当であれば、マサル殿はすでに失われたシンゲン様の知識を持っているやも知れないのです。
本日、マサル殿がトレクシス王に謁見に来られるそうです。
マサル殿は、ラスク星にいくつかある国のうちの1つの国王をされているそうです。
先程ラスク星から戻ったミラベスタの報告によると、数時間後にマサル殿が家族を連れてこちらに到着する予定だと聞きました。
御子達は10歳くらいだといいます。わたしもアルベスタを連れてご挨拶したいと思います。
ラスク星のお話しを聞かせて頂き、王妃として、ラスク星人の皆さんと末永く交流させて頂けるような礎を作っていきたいと思うのです。
<<トレス王国第4王女アルベスタ視点>>
お母様から、今日は重要な来客があるので同席するように言われました。
なんでも、我等の太古の故郷と言われている伝説のラスク星から王家の方が来られるそうです。
わたしと同い年くらいの子供もいるということなので、わくわくしています。
お母様と一緒に1級客室まで向かいました。
お母様が部屋をノックすると、ドアが内側から開けられます。
入ってすぐのソファーには、お父様と同じくらいの男性と、お母様と同じくらいの年齢の女性、その向かいには、わたしと同じくらいの男の子と女の子が座っていました。
「遠路はるばる、よくお越しくださいました。わたしはこの国の王妃、サルベスタと申します。この子は末娘のアルベスタと申します。」
「アルベスタです。よろしくお願いします。」
お母様の挨拶に続いてわたしも挨拶します。
「この度はお招き下さりありがとうございます。マサルと申します。」
「ご丁寧にありがとうございます。マサルの妻のリザベートです。」
「長男のランスです。」
「長女のイリヤです。よろしくお願いします。」
男の子がランス君で、女の子がイリヤちゃんか。
ふたりともそっくり。双子ちゃんかな?
わたし達は用意された椅子に腰かけ、皆んなでリビングテーブルを囲みます。
あちらのメイドがお菓子を持ってきて下さいました。
「サルベスタ様、お近づきのしるしに、お菓子を作ってまいりましたの。是非ご一緒にいかがですか?」
「まあ、美味しそうです。これはアップルティア?では無いですね。でもよく似ています。」
「これはアップルパイと言います。マサルさんの故郷の星の料理だそうで、今わたし達の星で大変流行っているのですよ。」
「もしかすると我が国のアップルティアの原型かも知れません。マサル様の故郷の星は『地球』とおっしゃいましたか。
我星の始祖シンゲン様も『地球』の出自と聞いております。」
「そうですね。このアップルパイも地球でよく食しているお菓子ですから、おそらくアップルティアというそのお菓子も元は地球の物でしょうね。」
わたしはアップルパイを口に入れました。
甘くてサクサクで美味しいです。
アップルティアは、見た目はよく似ていますが、上に載っている果物が少し違いますし、もっちりしています。
お母様がメイドに指示し、アップルティアを用意させました。
「このアップルティアと言うお菓子もすごく美味しいです。」
イリヤちゃんがアップルティアを美味しそうのほおばっています。
「こちらのアップルパイもすごく美味しいです。」
「このアップルティアに使われている果物はパパイヤのようですね。
アップルはあまり温暖な気候では育たないので、おそらくシンゲン様はこの星に移住した時にアップルの代わりに温暖な気候で良く育つパパイヤを代用されたのでしょう。
パパイヤは汁気が多いので、サクサクにならずにしっとりともちもちした食感になったのかも知れません。
でも、甘くてとても美味しいですね。」
イリヤちゃん達のお父様ってとっても物知りです。
ランス君も両方を食べ比べながら満足そうな顔をしています。
「リザベート様、明日からこの星の観光をご案内させて頂きたいと思っておりますが。」
「サルベスタ様、ありがとうございます。すごく楽しみにしておりましたの。」
「それは良かった。じゃあ、女子供だけで観光いたしましょうか。
男性陣は今後の友好についてお話しがあるでしょうから。」
「よろしくお願いいたします。」
「「ふふふふ」」
「では、後ほど晩餐の席で。」
ランス君とイリヤちゃん。なんだか仲良くなれそうな気がします。
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