第247話【セラフの意外な一面】

<<イリヤ視点>>

お母様が始めたお茶会。すごく人気があるみたいで、参加希望が殺到しているみたい。


ほぼ毎日開催されていて、初めはお母様やユーリスタさんも参加していたのだけど、公務もあるし無理になったみたい。


それを見ていた何人かの貴族夫人が『お茶会事務局』なるものを結成して、お母様達に代わってお茶会を仕切ってくれるようになったのよ。


人数もどんどん増えていって、数ヶ月経った今では『お茶会事務局』のメンバーだけでも50人くらいいるみたい。


これにはお母様もユーリスタさんも大喜び。


『お茶会事務局』のメンバーにはサンズ子爵夫人も混ざっておられる。

そう、小学校で一番最初に友達になって、今でも仲の良いリアンちゃんのお母様です。


リアンちゃんもお母様と一緒にこちらに来ることが増えたので、2週間に1回くらいは一緒に遊べるようになったの。


リアンちゃんもレスリー君も今は中学生。


レスリー君は、キンコー王国の騎士団に見習いとして入って頑張っているみたい。


この前久しぶりに会ったら『特例で修業させてもらってるんだ。』って、鼻息荒く自慢してた。




先日のお茶会『新作レシピを楽しむ会』で、我が家の料理長の会心作『イチゴムース』がハローマ王国の『チョコレート・ブラウニー』に負けたのよね。


わたしも戴いたんだけど、確かにあの『チョコレート・ブラウニー』ってケーキ、とっても美味しかった。


チョコレートって、ちょっと苦みがあるけど、甘い紅茶によく合うのよね。


それがふんわりした触感と、しっとりした触感のふたつが楽しめるのよ。これは反則だわ。


『イチゴムース』もとっても美味しかったのよ。だけど少しお腹がすいた時間帯だったのが最大の敗因ね。


落ち込んでいた料理長も3日経って再起動したみたい。


『こんどこそ頑張って1位に返り咲いてやる。』って、目に炎が見えたわ。




「イリヤ様、これは如何でしょう。」


「うーん、美味しいのだけど、どこかで食べたことのある触感なのよね。


新作レシピの発表会だから、少し評価が落ちるかも。」


「やっぱりそうですか。わたしも気になっていたんです。」


料理長が大きく肩を落としている。


「今の季節だと、キーウィが旬で美味しいんです。あれはこの国でしか栽培していませんし、充分に勝てる素材だと思うんですが。...」


「何か問題でもあるの?」


「いえね、そのままじゃ芸がないですし、果実酒にするには、時間が足りません。


ジャムにしてクッキーやパンにつけるかぐらいしか思いつかないんです。」


「ゼリーにしてみたら。」


「ゼリーか、そうですね良いかもしれません。簡単に作れるところが受けるかも。


早速やってみます。」


早速、料理長はキーウィを摘みにいったみたいね。



それから3日後、厨房を通りかかると、料理長が下を向いてうなだれていたわ。


「料理長さん、どうしたの?」


「これはイリヤ様。

いえね、この前アイデアを頂いたキーウィのゼリーを作っているのですが、どうしても固まらなくて困っているのです。」


料理長が指さす方には、たくさんのボールと半固まりのキーウィの残骸は残っていた。


「おかしいわね。固まりそうなものだけど。」


わたしもやってみたのだけど、やっぱり固まらない。


ふたりで悩んでいると、セラフちゃんが通りがかって、わたしに声を掛けてきたの。


「イリヤちゃん、何をしてる?」


「セラフちゃん。実はね、このキーウィって果物をゼリーにしたいんだけど、どうしても固まらないの。」


セラフちゃんは、キーウィを眺めておもむろに包丁で細かく砕いています。


無言での作業に、料理長もわたしも、固唾を呑んで見守ります。


鍋を手にしたセラフちゃん、水を入れて加熱の魔道具で沸騰させます。


そこに先ほど砕いたキーウィを入れ沸騰させ、しばらくして水で溶いたゼラチンを鍋に入れて混ぜました。


よく混ざったところで、魔道具から鍋を下ろし、鍋を水につけて冷やします。


その後、冷蔵の魔道具に入れてしばらく待つと、なんとゼリーが出来ていました。


「そうか、火にかける必要があったんだ。


そういえばレモンも火にかけないと固まらなかったっけ。」


料理長は思い当たる節があったようです。


早速3人で、できたばかりのキーウィゼリーを試食しました。


「「美味しい。」」


「色もいいし、これはいけるわ。」


セラフちゃんも満足そうな顔をしています。


「でもセラフちゃん、こんな料理方法よく知っていたわね。」


「向こうでは、いろんな星からお供えが届くから、その作り方も覚えておく必要があるの。」


そうか、マリス様のところに届く様々な世界からのお供えを扱っているから、知っているんだ。


なるほど。


「セラフ様、ありがとうございます。助かりました。またお力をお借りできますでしょうか?」


料理長、土下座せんばかりの懇願。


「うん。」


言葉少なに料理長に声を掛けたニヒルなセラフちゃんは、厨房を後にするのでした。




もちろん、次の『新作レシピを楽しむ会』でキーウィゼリーが優勝したのは報告するまでもありませんが。


一応念のため。

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