第190話 【スパニの立て直し】
<<ラモス視点>>
「お初にお目にかかります。キンコー王国で公爵位を賜っております、マサル・カトウと申します。」
「……カトウ殿、今急に現れたのは魔法か?」
「そうでございます。『光学迷彩』と言います。」
「もしかして、クルー達を捕まえてくれたのもそなたか?」
「はい、ハリー殿と一緒に拝謁する予定でしたが、こちらで物々しい気配がありましたので、姿を消して入らせて頂きました。
陛下の危機が迫っておりましたので、勝手ながら、魔法で拘束しました。」
「ではわたくしの傷を癒して頂いたのも、カトウ公爵様でございましょうか?」
「ええ、残念ながら、近衛兵の方を全て救うことは出来ませんでしたが。」
侍従長のみならず、近衛兵までもか。
「実はわたしも王宮に入る際に襲われまして、カトウ公爵様の御子息に助けられましたし、カチア嬢も御子息達に助けられたのです。
それだけではありません。バァイフ家を襲った山賊達も、御子息達の活躍で全員捕らえられ、ロンドーの牢に収監されております。」
「それでは一連の騒動は全てカトウ殿達のおかげで終息したと。」
「陛下、その通りでございます。
もしカトウ公爵様達が居られなければ、わたし達の命も亡くなって、この国はクルー達にいいようにされていたと思います。」
なんということだ。儂達の失態を名も知らぬ他国の有力者が救ってくれるとは!
「カトウ殿、改めて礼を言う。本当にありがとう。」
「ラモス陛下。頭をお上げ下さい。
全てはカチア嬢をたまたま見つけたわたしの子供達が見つけた偶然から始まったことです。
こんなに大きな話になるとは思っていませんでしたが、あくまでも偶然が重なっただけの事です。
あまり、お気遣いの無きよう。」
この御仁、大層器の大きい人のようだ。
そう言えばジャボ大陸の『人族』がロンドーやヤライ、ヤコブに入っているとハリーが言っていたな。
「ハリー、もしかしてこのカトウ殿が、ロンドーやヤライ、ヤコブを活性化させたお方か?」
「そうでございます。カトウ公爵様が会頭を務められるカトウ運輸という商会が、3国に先進的な文化をもたらし、3国間の交易のみならず、ジャボ大陸との交易も仕切っておられます。」
「そうか、この御仁が居られるのであれば、さぞかしまっとうな商売を行っておられるのであろうな。」
「わたしも、今回の件でロンドーのアーク王とお会いしてきましたが、カトウ公爵様とはすっかり打ち解けておられました。
カトウ公爵様は、ロンドーのクーデターも防がれたそうです。」
「もしや、我が国がヤライに攻め入った時も?」
「そうです。あの時は敵対したことになってしまいますが、ヤライの陣地構築に協力しておりました。」
「そうか、確かに多くの兵を失ったのだが、思えばあの時強硬に軍部が出兵を主張した時から、この騒動は始まっていたのかも知れんな。
儂が軍部をもっと押さえておけば、重税を強いることも、徴兵を強化することも無かったのかもしれん。
ハリーも反対しておったな。」
儂がうなだれているのを見ていたのか、カトウ殿が言葉を紡ぐ。
「ラモス陛下。
ジャボ大陸でも長い間小規模な戦乱があちこちで続いていました。
武力による争いは何も生まないのです。残るのは疲弊した民と荒廃した土地のみです。
ただ、国同士が争わないと文化や文明が発達しないのは過去の歴史を見ても明らかです。
わたしは、武力でなく経済力で国が競い合う『経済戦争』を各国に提案してまいりました。
適切に経済を大きくすることは、民を豊かにさせ、国の安定につながりますし、更に国を発展させることに繋がりますでしょう。
既にロンド、ヤライ、ヤコブの3国はジャボ大陸に使節団を送り、あちらの様々な文化や生産技術を取り入れて経済的に裕福な国へと変わりつつあります。
この機会に、スパニもこの『経済戦争』に加わりませんか?
わたし達もお手伝いさせて頂きます。」
「陛下、どうかご決断ください。わたしもカトウ公爵様が言われる『経済戦争』で3国やジャボ大陸の国々と競い合ってみたいと思っています。
今の我が国を立て直す道はこれしかないとも思っています。」
確かにハリーの言うとおりだ。この国はあまりにも疲弊しすぎているし、腐りきってしまっている。
抜本的に手を入れていく必要があるだろう。
だが、各領主が搾取しか考えていない今、国を富ませることなど可能だろうか?
「カトウ殿、話は分かりました。
ただお恥かしい話しですが、我が国の領主は腐りきっており、領民からの搾取しか考えておりません。
中央の役人は清廉な者に入れ替えることも可能ですが、領主は………」
「………そうですね、少し荒っぽい方法ですが、『中央集権制』を取り入れてみてはどうでしょう。」
「『中央集権制』とは?」
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