第188話 【クルーの悪あがき】
<<スパニ宰相ハリー視点>>
屋敷に戻って来た。
早急に王宮に向かい、陛下にお目通りを願うつもりだ。
「ハリー殿、既にランスが山賊のアジトを包囲してから3日経っています。
クルーが察知して待ち伏せしている可能性があります。
わたし達が護衛しましょう。」
たしかにカトウ公爵様の申し出は有り難い。
他国の王家に連なる有力者に護衛をして頂くのは心苦しいが、大事の前の小事とさせて頂こう。
「申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせて頂きます。」
「では、準備をしますので、わたしのトラック馬車で行きましょう。」
準備はすぐに終わったみたいで、時間を待たずに、我々は王宮に向かった。
「お止まり下さい!!」
王宮の門を潜ろうとした時、馬車が門番に止められた。
「ハリー様、申し訳ありません。
陛下より戒厳令が出ておりまして、なんびともここを通すなとのことです。
申し訳ありませんが、裏門にお巡り下さいますでしょうか?」
「戒厳令と!!
何かあったのか?」
「申し訳ありません。わたしは何も聞かされておりません。」
これ以上聞いても、何も出てこないだろう。
あったとすればクルーの謀反か。
いやそれは考えにくいが。
とにかく陛下の元に急ごう。
馬車は裏門に向かって急がせた。
「ハリー殿、気をつけて下さいね。
裏門の中に兵士が20人ほど集まっています。
あと、王宮の最上階にある部屋でも10人ほどの兵士が固まっています。
もしかすると、陛下が拘束されているのかもしれません。」
カトウ公爵様の言葉に、わたしはクルーの謀反を確信した。
「わたしは先に陛下の救出に向かいます。
この馬車は強力な結界が張ってあるので、物理、魔法両方の攻撃を防ぎます。
わたしが連絡するまで、この馬車から降りないようにお願いしますね。
ランス、イリヤ、ハリー殿を頼んだよ。」
「「お父様、了解です!」」
「ハリー殿、行ってきます。
『光学迷彩』」
カトウ公爵の姿が消え、扉が開いてすぐに閉じた。
よくわからないが、陛下とわたしに危機が迫っているのは確かなようである。
「ハリー様、僕達がお守りしますので安心して下さい。」
幼いランス君の言葉に、わたしは一抹の不安を感じていた。
<<マサル視点>>
光魔法『光学迷彩』で体を隠した俺は、王宮内の陛下が捕らえられているであろう部屋へ急いだ。
屋上庭園からその部屋の窓越しに中を確認する。
兵士達に混じり青白い顔をした長身の蜥蜴の獣人が1人。
そして彼等に囲まれるように、王冠を被った獅子の獣人がいた。
蜥蜴の獣人が獅子の獣人を見下ろし笑っている。
「陛下、もう終わりです。この国はわたしが頂きますよ。
ではさようなら。
うっ、け、剣が動かない。」
蜥蜴の手に握られた剣が獅子を貫こうとした時、俺は転移で移動し、その剣を掴んでいた。
風魔法で蜥蜴を含む兵士達を一ヶ所に吹き飛ばし、『バインド』魔法で拘束した。
縛られたままの王の周りと、蜥蜴達の周りに別々の結界を張り、トランシーバーでランスに連絡する。
「ランス、聞こえるか?」
「あっ、お父様聞こえるよ。」
「こっちは終わった。
そっちはどうだ?」
「うん、兵士達に囲まれているけどね。
でも大丈夫だよ。今から無力化するから。
僕もお父様みたいに『光学迷彩』が使える様になったんだ。
無力化したら、全員馬車に載せてお父様のところへ行くよ。」
「分かった。無理をしないようにな。
あっそうだ、こちらに来る時はイリヤにも『光学迷彩』を掛けてやってくれ。
その方が不審感を持たれないで良いと思う。」
「分かったよ。じゃあね。」
しばらくしてハリー殿と『光学迷彩』で姿を消した子供達が入ってきた。
「陛下ご無事でしたか。」
「ハリーか。クルーが、謀反を起こしおったのじゃ…が……」
ことの顛末とわたし達のことは、ハリー殿が上手く説明してくれるだろう。
<<ハリー視点>>
カトウ公爵様が消えてから馬車には、わたしと彼の子供達が残された。
馬車がそのまま裏門に差し掛かると、大勢の兵士達が行く手を遮るように馬車の前に出てきた。
「止まれ!不審な馬車。中を改める。
おー、これはこれはハリー様、こんな裏門から密かに入宮とは、いかがなされましたかな?」
クルーの側近であるサリーがわたしを蔑むような目を向けている。
馬車を囲む兵士達の持つ槍が一斉にわたしに向けられた。
わたしは一緒に馬車の中にいるイリヤちゃんを見た。
さぞかし怖がっているだろうと思っていたが、予想に反してニコニコしている。
不審に思っていると、彼女は「お兄ちゃんが、すぐに終わらせてくれますよ。結界もありますしね。」と、のほほんとしている。
そうだ、ランス君が馭者席にいたはず。
助けてあげなくては。
ランスくんを室内に呼ぼうと馭者席を見ると、そこにいるはずのランスくんが見当たらない。
わたしがランスくんを探していると、周りを囲んでいる兵士の妙な動きに気付いた。
兵士達が何の前触れもなく次々に気絶していくのだ。
槍を持った兵士が次々に膝から崩れていく。
「何をしている!馬車を攻撃してハリーを仕留めるのだ!」
何が起こっているのか全く分からないのは、わたしもサリーも同じだ。
焦ったサリーが兵士に檄を飛ばす。
最前列にいた兵士が槍で馬車を突いて来たが、その槍は馬車の10 数センチ前で鈍い音を立てて止まった。
何度も槍を突き立てるが結果は同じだ。
そうこうしている間に、兵士達は全て崩れ落ちてしまった。
「いったい?……… 」ドタッ
サリーもその言葉を最後に崩れ落ちたのだった。
サリーが立っていた場所には、和かに微笑むランス君が立っていた。
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