第171話 【ダージリンと馬車】

<<ヤライ族族長カーン目線>>

マサル殿に連れられてジャボ大陸に到着した。

到着というか、景色が変わっただけというか。


とにかくジャボ大陸のマサル殿の屋敷に来た。


屋敷の中を地下からリビングまで移動したが、驚くことばかりだ。


全ての窓にガラスがついている。

そこまでは、ロンドーの王宮もそうだ。


ただガラスの透明度が高過ぎる。

ガラスが入っていないのかと思ったほどだ。


そして廊下でも昼間の外のように明るい。


蝋燭や燈明の灯りではない。


魔道具により照らされているようだ。


途中トイレの前を通ったが、全く臭いがしない。


マサル殿に聞くと、用を足すと勝手に水で流されて行くらしい。


下水道という川のようなものが各家庭の地下に流れていて、その流れが排泄物を一ヶ所に集め、そこで綺麗に処理する施設があるらしい。


家に排泄物が溜まらないのであれば、臭いがしないはずだ。


下水道とは別に、上水道というものもあり、こちらは飲める綺麗な水を各屋敷に運んでくれるという。


わざわざ井戸や川に水を汲みに行かずとも、キッチンの中で蛇口というものをひねると水が適量出てくるらしい。


下水道も上水道も、貴族の屋敷だけでなく庶民の家にも引かれているという。


我がヤライいや亜人大陸で1番進んでいるロンドーですら、想像で出来ない技術水準だ。


リビングに着くと、透明度の高いガラスをふんだんに使用した調度品がたくさんあり、今頂いている『ダージリン』というお茶も大変美味しい。


全く生活水準が違う。


マサル殿のいう改革というものを実施すれば、ヤライでもこのような生活が実現出来るのだろうか。



しかし、この『ダージリン』は美味い。


もう飲み終わってしまうのが惜しい。


ちびちびと飲んでいると視察の準備が出来たようで、皆で外に出ることになった。


名残り惜しい『ダージリン』を飲み干していると、使用人の1人に声を掛けられた。


「お茶はお気に召されましたか?」


「とても美味しく頂いた。」


「それは良かったです。

また視察からお戻りになられましたら、お出しさせて頂きます。」


ここの使用人は、わたしの心が読めるのか?


でもこの『ダージリン』をもう一度飲めるのはありがたい。


使用人に礼を言って、皆に続き外に出た。




<<アーク視点>>

視察には馬車で向かうらしい。

また驚くような移動の魔道具があるのかと思ったのだが、少し肩透かしだ。


確かに馬車の装飾は素晴らしいものだが、真似が出来ないほどでもない。


しかし、馬車が1台しかない。


これでは全員が乗るのは不可能だ。


「カトウ公爵殿、馬車はこの1台だけですか?」


「そうです。中は広いので、どうぞお乗り下さい。」


不思議に思いながらも、馬車に乗り込んだ。


馬車に入ると大きな扉があり、それをくぐると大きな部屋になっていた。


先ほどお茶を頂いたリビングくらいの大きさはあるだろうか。


確かに馬車に乗り込んだはずだが。


後ろからきたルソン殿が説明してくれる。


「アーク殿、これはマサル殿の開発した『トラック馬車』という魔道具を内臓した馬車ですよ。


カトウ運輸の配送に使われています。


なんでも空間拡張という魔道具が使われているみたいですね。


わたしも原理は分かりませんが、こちらの上級貴族には個人所有している方もいるようです。」


ルソン殿が知っているということは、こちらではそれなりに知られているということか。


わたしも欲しい。

後でカトウ公爵に相談してみよう。


わたしは窓際に座って外を見る。


乗り込みが完了し、扉が閉められた。


これからどのくらい移動するのか分からないが、これなら快適に移動出来るだろう。



馬車が動き出し、車窓の景色が流れる。


全く振動が無い。全く屋敷の中にいるようだ。


窓の景色が流れるのが不思議な感覚になる。


窓から見える街の景色は我が国とは別次元だ。

清潔感があり、行き交う人々も生き生きしている。


子供達が自由に遊んでいる姿が印象的だった。


我が国では、子供が外で遊ぶなど考えられない。

危険が高いこともあるが、各家庭では子供も大切な労働力なのだ。


やがて、大きな門をくぐると街を出て広い空間に出る。


街を出ても広い街道が引かれており、旅の安全性が感じられた。


これであれば、街間の交流も盛んになり、ますます街が栄えるだろう。


そんなことを考えながら、何となく車窓を眺めていると、景色が下に消えていく。


やがて、窓からは青い空しか見えなくなった。


えっ、もしかして、空を飛んでいる!?


さすがにこれだけ驚かされると、感覚が麻痺してしまったのかもしれない。


焦りながらも、カトウ公爵ならあり得ることかと思い込み、周りを見渡した。


周りでわたしと同じように窓の外を見ていたルソン殿が目を丸くして声も出ないようだったので、これはジャボ大陸でも異常なことなのだろうと少し安堵したのだった。

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