第156話 【政権の奪取】

<<ルソン視点>>

ヒラと地下室で無血で政権を奪取するための方策を練った。


はっきり言って今の兄や弟には何の力もない。


双方にあるのは、それぞれの味方となるヤコール家とヤシール家の力だけであった。


ヤコール家は先々代を支えていたため、政治力も武力もある。

特に当主のレオは国内でも有数の切れ者として知られている。


ヤシール家は、当主のビルが己の腕力だけで成り上がってきた新興家だ。

ただ、腕力を身上とするだけあって、従える部下たちにも強者が多い。

武力だけでいえば、我が国でもトップレベルであろう。


その他の家はこの2家の勝者に着く形となるため、風見鶏がほとんどだ。





「ヒラ、ヤコール家とヤシール家の双方の力を無力化するには、どうすれば良いと思う?」


「ルソン様、離間の計を用いて、双方がお互いに衝突して力を失ってもらうというのが一般的な発想でしょうが、これは愚策だと思います。


なぜならば、ヤコブにとって本来の敵はロンドーやスパニであり、国内の戦力を削ぐことは短期的には有効であっても、中長期的にはデメリットでしかありません。」


「わたしもヒラの意見に賛成だ。」


「ありがとうございます。ヤコール家とヤシール家も、今は担ぐ神輿が違うため争っておりますが、両家ともヤコブ家への忠誠は間違いありません。


担ぐ神輿が無くなればおのずと、新しい神輿に忠誠を誓いますでしょう。」


「やはり兄と弟を殺すしかないか。」


「あのおふたりは、権力の魔力に取りつかれておられます。

先代とおっしゃっておられました、『あのふたりには為政者としての器量が無い』と。


ですから、もしどちらかを王としてもヤコブの行く末は茨のものとなるでしょう。」


「わたしも、父上から聞いていた。確かに父上はわたしが当主になることを望んでいたが。」


「ルソン様、今こそ決断の時です。


ルソン様がヤコブ家の次期当主となり、この国を守って頂けませんでしょうか?」


「...わかった。どうやらそれしか方法はなさそうだ。」


「ありがとうございます。それでヤコール家とヤシール家の双方の力を無力化する策ですが、まず双方が相手の村を襲ったという偽の情報を流します。


おそらく、ヤシールのビルはヤコールに直ぐに宣戦布告するでしょう。


ヤコールのレオは慎重派ですが、ビルの性格をよく知っています。ヤシールに対処するためにその兵力の大半を出さざるを得ないと思います。


両軍が戦場となる境界で相対したところを、我が軍5000で囲みます。」


「ヒラ、それだと自棄になった両軍が強硬突破を狙い、損害を大きくしてしまうのではないのか?」


「おっしゃる通りです。ですので、同時にもう一計仕掛けます。


両軍が派兵を開始したと同時に、1000名の兵士を使って、兄上様と弟君を急襲し、捕らえます。


ヤコール軍とヤシール軍が相対し、我が軍が囲んだところで、この事実を伝え、同時にルソン様の当主就任を宣言します。

そしてルソン様が軍の撤兵を指示するのです。


多少の混乱と戦闘は起こるやも知れませんが、全面対決になるよりは良いかと思います。」


「なるほど、基本的にはその案でいこう。ただし、ヤコール軍とヤシール軍を無力化するのにはわたしにも考えがある。


10日ほど時間をくれないか。」


「わかりました。それでは、準備を進めておきます。」


「ヒラ、よろしく頼む。」



わたしは、その足でマサル殿のいるヤライに向かった。


2日後、ヤライでマサル殿に会い、今回の作戦について相談した。


「ルソン殿、その相対する2軍をしばらく足止めできれば良いわけですね。」


「その通りです。何か手はありますか?」


「そうですね、ただ足止めだけするのであれば、広範囲バインド魔法で動けなくしてしまえば簡単ですが、今回のケースは圧倒的な力で戦う気をなくさせる必要がありますからね。


そういう意味では、全軍を一気に土壁で囲ってしまいましょうか。


見えない力で拘束されるよりも、いきなり、そり立った壁に囲まれた方が心が萎えますよね。」


「そんなことが可能ですか?」


「大丈夫です。罠用の魔道具を今から作りましょう。

それを事前に衝突する付近に仕掛けておいてもらえば大丈夫です。


あとは衝突直前に起動ボタンを押してもらえばいいように作っておきます。」


「ありがとうございます。どのくらいでできますでしょうか?」


「ちょっと待って下さいね。」


そう言うとマサル殿は、魔石を10数個取り出し、その場で連勤魔法をかけていく。


その様子を見とれていると、声を掛けられた。


「ルソン殿、できましたよ。これが起動ボタンです。」


まだ始まってから20分ほどしか経っていないが、もうできたようだ。


使用方法を詳しく聞き、わたしはその魔道具を持ってヤコブに戻った。



ヤーマン家ではヒラが準備を進めていてくれたようで、兄と弟を捕らえる計画はいつでも実行できるようになっていた。


わたしはヒラに魔道具の説明を行い、魔道具の設置場所と起動タイミング、それに合わせて計略を巡らせた。


そして決行日、それは3方同時に行われた。


1つ目はヤコール、ヤシール双方の境界沿いにある村を襲撃する部隊。

先に双方の襲撃のデマを喧伝し村人を逃がした後、村の農地を外した一部を焼き払う。


2つ目は、デマを双方の中心地にタイミングを見計らって喧伝する部隊。

互いに急襲された印象を強く与えられるようにデマの内容を考えた。


3つ目は、兄や弟を拘束する部隊。

お互いの軍を境界地に出兵させた後に速やかに行う。


実はこの時に緊密な連絡が取れるよう、マサル殿からトランシーバーも借りていた。


そして決行日から3日目、魔道具の起動が全ての決着をつけたのだった。

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