第127話【ランスは宮廷魔導師長を超える?】

<<ランスの担任教師ステファン視点>>

わたしは、今日からこのクラスの担任になったステファンです。


今年で教師生活5年目のベテラン教師です。


1年生を受け持つのも3回目ですから、もう慣れたものですね。


1年生はまだ幼いので教師がきちんと行動を決めてあげなくてはいけません。


結構甘やかされて育った子が多いので、最初からガツンといった方がいいですね。


昨日の入学式では、皆さん初めてのことばかりで緊張していたのか、大人しくしていましたが、今日はどうでしょうか?


教室の中では、きっと大きな声で騒いでいるに違いありません。


過去2回がそうでしたから。


この曲がり角を曲がるとそろそろ声が聞こえてくる頃ですね。


……聞こえませんね。


今年の子達は大人しい子が多いのでしょうか。


もしかして、まさか伝説の『黒板消し落とし』をするというのか!


これは困りました。

わたしとしたことが、対処方法を勉強不足です。


しかし教室に行かないわけにはいきません。


わたしは意を決して教室に向かいます。


わたしが罠に掛かったら、わたしの威厳はどうなるのでしょうか?


いや、罠を見破った時の生徒達の落胆ぶり。

気力を落としてしまわないでしょうか。


どうしましょう!!


迷っている内に、とうとう教室の前まで来てしまいました。



恐る恐る扉の上を確認します。


黒板消しが、…… ありませんでした。


わたしの今までの葛藤を返してください。


ゆっくり扉を開きます。


教室の中は、静かなものですね。


机にはそれぞれの名前を書いた紙が貼ってあります。


皆さん大人しく自分の名前が書かれた机に座って、扉をくぐったばかりのわたしを見ています。


わたしは教壇まで行き、教室内を見渡しました。


「皆さん、入学おめでとうございます。


皆さんの担任になりました、ステファンです。

この1年、一緒に頑張っていきましょう。」


いちばん前の席に可愛いい男の子を見つけた。


えーっと名前は、ランス・カトウ。

あっ、英雄マサル様の息子さんね。

確か飛び級でまだ3歳だっけ。


「ステファン先生、よろしくお願いします。」


……まあぁ、やだこの子本当に3歳?

しっかりしてるし、可愛い過ぎ。

先生鼻血出そう。


思わず鼻を摘んじゃった。


「ランス君、よろしくね。」


明日からの授業が楽しみだわ。



次の日、クラスの皆んなで自己紹介合戦をしました。


皆んなの顔をお互いに覚えてもらわないとね。


「じゃあ、自分の名前と好きなものと嫌いなものを教えてくださいね。


後、魔法が使える人は、使える魔法を教えて。」


一応魔法が使えるかどうか、確認することになっています。


自己申請と、水晶による魔力量測定は、必須になっています。


1年生で使える子は今まで1人もいなかったけど、もし暴発したらまずいですから。


「じゃあ、アイル・アリストさんから順番にお願い。」


「アイル・アリストでしゅ~。皆んなよろしくお願いしましゅ。

しゅきなものは、お父様とお母様でしゅ。

嫌いなものは、お兄ちゃんでしゅ。

だって意地悪ばっかりしゅるんだもん。


魔法は使えません。」


"す"が上手く言えないのね。

無茶苦茶可愛いいわ。

だから1年生の担任はやめられないのよね。


「じゃあアイルちゃん、この水晶玉に触ってみて。」


透明の水晶玉が、薄い青色に変わっていく。


「だいたい30くらいかしらね。

1年生だと標準くらいよ。

問題ないわ。


じゃあ次は………」


出席番号順に名前を呼んで自己紹介してもらいます。


やっぱり貴族の子供は、しっかりしているし、魔力も高い。


まぁ高いって言っても、まだ発動出来ないレベルだけどね。


「それじゃあ、最後はランス・カトウさん。


ランス君、お願いね。」


「ランス・カトウです。

よろしくお願いします。

僕はまだ3歳です。叔父様達が薦めてくれたので、少し早いですが、小学校に入学しました。

歳下ですが、皆さんよろしくお願いします。


好きなものは、狩りと訓練です。

将来は魔法騎士か冒険者になりたいと思っています。


嫌いなものはありませんが、勉強はちょっと苦手です。


同い年の妹のイリヤが、隣りのクラスにいるので、僕同様、仲良くしてあげて欲しいと思います。


既に何人か友達ができているので、1年生全員と友達になりたいと思います。


魔法ですが、少し使えます。」


えっ、魔法が使える?


あんまりにも利発な挨拶だったから聞き漏らすところだったわ。


でも、まだ3歳よね。

いくら英雄マサル様の息子さんでも、魔法が使えるって。


「ランス君、どんな魔法が使えるの?」


「そうですね、いろいろ使えますが、この教室内だと重力操作が無難ですね。


今少しやってみても良いですか?」


「良いわよ。」


わたしは軽い気持ちでOKを出しました。


ランス君は、教卓の上にボールを魔法で浮かせて持ってきます。


他には箒が4本。それぞれ2本づつ教卓の左右へ。


大したものです。

これだけでも、十分魔法使いとして通用するでしょう。


拍手をしようとした瞬間、わたしは信じられない光景を目の当たりににしました。


教卓を身体に、ボールを顔、4本の箒は手足になって、それらが踊り出したのです。


子供達は大喜びです。


でも、これって、6つの重力操作を同時にやってるんですよね。


我が国の最強魔術師と言われる宮廷魔導師長が、同時に4つまで魔法を発動させることができるって、習ったことがあります。


6つ同時ですよね。まだ3歳ですよ。


「………ラ、ランス君。分かりました。すごいです…ね。


もう大丈夫ですよ。」


「分かりました、先生。

じゃあ片付けますね。」


ランス君が手を振ると教卓は静かに元の位置に戻り、ボールや箒も元の位置に戻っていきました。


「じ、じゃあ、水晶玉に手を置いてもらえるかな。」


あれだけの魔力操作ができるのです。

魔力量はどうでしょうか。


この水晶玉は、宮廷魔導師長の魔力量も測れる優れものです。


いくらなんでも大丈夫でしょう。


《バリンッ》少し遅かったようですね。


全てが規格外と言われる英雄マサル様の息子さんは、3歳で既に宮廷魔導師長を超えちゃていました。

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