第60話【カトウ運輸の大躍進2】

<<ユーリスタ視点>>

マサル様が発案し、会頭として運営されているカトウ運輸ですが、目覚ましい発展を遂げている様ですね。

ナーラ領から始まった物流ネットワークは、カトウ運輸がタカツー領の危機を救ったあたりから急速にキンコー王国内に広まりました。


マサル様の発案から進められて私が引き継いだ行政改革についても大きな成果を上げていますが、そこで大量生産された作物や特産品は、物流ネットワークが無かったらこんなに王国内に流通しなかったでしょうね。


かつて王国内で問題視されていた3都市「ホンノー自治区」「サイカーの街」「マーズル領」についても無事に物流ネットワークに加わり、王国内での物流網は確固たるものになりました。


また、マサル様の視野は王国だけにとどまりませんでした。

「大陸中を1つの物流ネットワークで繋ぎ、情報や物の流れ、人々の交流を活性化することで各国間の友好化を進め、争いの無い世界を作っていきたい。」という彼の願いは、今まさに実を結ぼうとしています。


現在大陸にある14ヶ国のうち、10ヶ国は物流ネットワークに参加しています。


残りの4ヶ国については、交渉が難航しているようですが、いずれ入ることになるのでしょうね。


物流ネットワークが繋がったことでのメリットをいくつか紹介します。


1つ目は、やはり物が手に入り易くなったということでしょう。

これまで行商人が村々を廻り、細々と繋がっていた物流が、一気に大量に運べるようになりました。

これにより、各村々で大量に生産しても出荷できるようになり、ハーバラ村で成果を出した改革を積極的に取り入れ、生産量を飛躍的に増やし、大量出荷することが可能となりました。


2つ目は、いろんな地域で新しい生産物が生まれ流通するようになったことです。

今まで地元や周辺地区としか交流が無く文化や技術が停滞状態だったところに、遠くの地域から文化や技術等を含めたモノが入ってくると、それらをまねて各地が新しいモノを生み出しつつあります。


例えば、ハーバラ村で生産された「オドラビットのハンバーグ」が、海辺の街で「オドイワシのつみれ」として名産になったとか。

オドって、汚いとか腐ったみたいな感じ悪い意味で使われる言葉です。

オドラビットは、肉が固くて傷みやすく直ぐに臭くなる害獣なんですけど、血抜きをしっかりし、ペッパーをすり込んで臭みを取り、肉を細かく刻んで香草とかと一緒に丸めて焼くんです。

すると、とっても美味しく頂けます。

繁殖力が異常に高いオドラビットならいくら狩っても大丈夫です。


オドイワシもオドラビットみたいな海の嫌われ者なんですけど、ある人が「オドラビットのハンバーグ」を見てビンときたのが、「オドイワシのつみれ」です。

今では、その人の住む街の名産品として大陸中で食べられています。

そうそう、最近ではオドラビットもオドイワシも養殖に成功したそうですね。


3つ目は、物流センターの役割です。

大量に物が出荷され、それを購入する地域も増えます。

余剰になった物は物流センターや各領地の倉庫で保管され、年間を通じて安定した量を市場に流せるようになりました。

物流センターの卸売り機能も重要な役割を果たしており、これにより各地域の商人や職人は、様々な地域の様々な商材を自由に扱えることになりました。

地域の商業や工業の発展にもつながるわけです。

これにより、品質も価格も供給量も安定して行きました。


4つ目は、文化交流です。

国を跨っての物流ネットワークですから、他国の物もたくさん入ってきます。


自国の商品を売り込む為に、商人や役人達が各国を訪れたり、出店を他国に作ったりします。

人の出入りが多くなると、当然文化交流が起こりますよね。

この文化交流でもたらされた新しい情報や技術が、それぞれの地域で別の技術等として芽吹いています。



まだまだありますが、これらがマサル様が提案され、自らの手で大きくされたカトウ運輸のもたらしたモノです。

あっそうそう、特許制度と国際裁判所も大活躍です。

これらが無ければ、今頃大陸中で大きな戦争になっていたかも知れませんね。


ちなみに、国際裁判所の初代所長は、わたしの父であるアーノルド・ワーカだったんですよ。

ちょっと自慢です。


<<アーノルド・ワーカ視点>>

もう6年くらい前になるかのお、キンコー王国の宰相職を辞め、ワーカ領を息子に譲って隠居していた儂のところへ、国際裁判所の初代所長の話しが来たのは。


はじめは断っておったのだが、ネクター王やハローマ王国、トカーイ帝国からも頼まれたら、しようが無い。

当時は、娘のユーリスタもキンコー王国の行政担当大臣になったばかりだったし、何か手伝ってやりたい気持ちもあったんじゃよ。


さて、引き受けたのは良いが何をどうすれば良いのか全くわからん。


引き受けると連絡した1週間後だったか、マサルと名乗る青年が、ネクター王の書簡を持って儂のところへ来おった。


儂がネクター王の書簡を開けると、「彼の名はマサルという。彼が今回の行政改革自体の発案者であり、最大の功労者だ。また国際裁判所の発案者も彼だ。国際裁判所の役割については、彼に聞いて欲しい。

なお、これは秘密厳守でお願いしたいが、彼は、この世界の人間ではない。

マリス様の使徒だと思ってくれて問題ない。

頼んだぞ。」

と書いてあった。


意味が良く分からないが、ネクター王の書簡に間違いない。


儂は、目の前で畏まる青年に声を掛けた。


「ようこそ、マサル殿。儂がアーノルド・ワーカじゃ。」


「アーノルド様、お目にかかれて光栄です。わたしはマサルと申します。

書簡にもあったと思いますが、わたしはこの世界の者ではありません。

女神マリス様により、日本という異世界の国からこの世界に召喚された者です。」


「うむ、その辺りはおいおい聞きたいところじゃ。

まずは、お疲れであろう。確か儂が書簡を王都に出したのは1週間前だったと思うが、こちらに来られるのがえらく早いのではないかな?」


「アーノルド様からの書簡をネクター王から拝見し、空を走ってまいりました。本日の朝に出ましたので、4時間くらいでしょうか。」


「空を走ってきた?そんなことができるのか?」


「はい、今お見せしましょうか。ちょっと失礼します。」


彼はそう言って3階の窓から飛び降りた。かに見えたが、そのまま沈むことなく空中に留まり、まさしく空を走っていった。

見えなくなるところまで行った彼はすぐに窓から戻ってきた。


「こんな感じです。最近使うようになったんですが、空の上だと道も森も関係無いので非常に楽なので助かっています。」


事も無げにそんなことを言う青年に、儂は好感を持った。


これ程の魔術を使えるのであれば、もっと様々な術を使えるのであろう。

ただ、彼はそれを自慢することもなく、傲慢でもなく普通の人間として接してくれている。

また、彼の人懐っこい話し振りも儂を安心させるには充分だった。


ちょうど昼時だ。今までキンコー王国では昼食をとるという習慣がなかったが、最近ナーラ領や王都では昼食をとることがはやっているらしい。

儂も昼食を摂るようにしてみたが、これが実によい。

昼食を摂ることで、強制的に昼休憩をとることになる。

これにより朝と昼の仕事にメリハリができる。

腹に食べ物を入れることで、昼以降の空腹感が満たされ、夕方まで集中して仕事に取り組めるようになった。


ワーカ領でも昼食の制度を取り入れるようになると、今まで昼に表に出ることが少なかった役人や職人達が昼食を求めて外に出ることになり、閑散としていた昼間の街が活気づくという副産物まであった。


「マサル殿、昼食を一緒にどうじゃ。」


「ありがとうございます。実は朝食も摂らずに出てきたので空腹でしようが無かったのです。」


「そうか、では食堂に行こう。」


儂は昼食を取りながらマサル殿の世界の話しを聞いた。


その世界の優れた技術は儂を驚かせるに充分ではあったが、それ程の高度な文明を持ち発達した技術力があるにもかかわらず、何故大きな戦争が起きないのかが儂には不思議でならなかった。


そのことを率直にマサル殿に聞いてみた。


「アーノルド様のおっしゃる通り、過去にわたし達の世界でも世界を2分するような大きな大戦争が2度ほどありました。

その教訓を元に作りだされた制度が、国際連合と国際裁判所なのです。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る