第41話【瘴気の正体】

<<マサル視点>>

穴の中は、ヨシーノの森の時と違い、底から瘴気が吹き出しているようだ


底に到着すると、そこには巨大な魔方陣が刻まれている。


魔方陣は機能しており、瘴気を吐き出している。


魔方陣自体は古いものみたいだが、上に溜まっていた埃が最近払われている形跡がある。


たぶん大量の埃で機能しなくなっていたのだろうが、埃が払われたことで再起動したようだ。


タブレットを使って、魔方陣の紋様を検索する。


写真を撮って検索ボタンを押せばいいだけなので簡単。


検索結果が出た。これは古代魔方陣のひとつで、「瘴気発生の陣」というらしい。


魔族が他領を侵略する時に使用していたもので、これがあったことにより、魔族の支配範囲が急速に広がったとのことだ。


後に反撃を開始した人間により、破壊されていったので現存しない、と検索結果にあるが、ここは深い森の中であり、早い時期に埃が溜まって機能を停止したことから、見逃されていたのだろう。


とりあえず、さくっと魔方陣を破壊しておいた。

吹き出していた瘴気は、徐々に薄くなりやがて消えた。


さて残る問題は、誰が魔方陣を再起動させたかだ。

ここに魔方陣があることを知っているということは、魔族か?

辺りを見回して何かしら手掛かりが無いか探してみたが、残念ながら手掛かりらしきものは無かった。


俺は地上に出て、瘴気が完全に消えていることを確認してから、ホンノー自治区に戻った。


<<カイン視点>>

執務室で書類に目を通していると、アベルの従者の1人が呼びに来た。

アベルの部屋に入るとマサル殿がいた。

「マサル殿、ご無沙汰しております。」

「カイン殿もお元気そうでなによりです。」

軽い挨拶を交わした後、アベルから質問された。


「カクガーの森の中から、瘴気を発生させる魔方陣が見つかった。

マサル殿が発見されたのだが、魔族が人間の領地に侵略してきた時に設置され、その後機能を止めてから今まで忘れられていたものらしい。

おそらく1000年以上前の話だ。

カクガーの森と魔族で何か、知っていることがあれば、教えて欲しい。」


アベルからの質問に対して、記憶を辿っていく。


「これは、俺の祖先から代々受け継がれている話になるのだが、そう1200年程前のことだ。

魔族とホンノー人がカクガーの森で共存していた時期があったらしい。

当時のカクガーの森は、まだ瘴気も濃く魔族が住むに適した土地であった。

ホンノー人は、当時力を持ち始めた人族に住処を奪われ、カクガーの森に追いやられて来た。

ホンノー人は、それまで人族と変わらない力しか持たなかった為、数の暴力に負けたのだ。


カクガーの森に追いやられたホンノー人は、濃い瘴気に苦慮しながらも生活基盤を築いていった。

先住民である魔族に従属することも良しとし、生きることを最優先させた。


結果、300年程の時を経て、ホンノー人はカクガーの森の瘴気を克服すると共に、異能の力を得るもの達が現れ始めた。

その後200年程の間にホンノー人の大多数が異能の力を持つようになる。


力を手に入れたホンノー人は、カクガーの森を拠点として力を付けていく。


その中には魔族との間で交わった者達もいた。

彼等は、好戦的な魔族の本能を受けついでいた。


時折人族の里を攻め、攻め返されを繰り返すようになった。

長い長い戦いの末、200年前のキンコー王国との最後の戦いに至ったところからは皆も承知のことと思う。


魔族はその高い能力を持つ反面、生殖機能が弱かったため、長い年月の間に徐々に数を減らし、それまでに全滅したと言われていた。

瘴気も段々薄れていく中で、魔族にとっては住みにくい環境になっていったのも一因であろう。


実は、モーリ将軍は魔族と血の交わりがある一族の末裔であり、彼が現在のハローマ王国の地に落ち延びた時、一緒に魔族の生き残りもいたという噂があったそうだ。


あくまで噂の域を出ないが、混血であっても魔族の血が色濃く出ている者もいたみたいだから、まんざら噂だけでも無いかも知れない。」


俺は、ここまで話し終え、皆の反応を待った。


「では、その者が魔方陣を再起動させたと。 いや200年も前の話だ。そんなわけはなかろう。」


アベルの言葉に一同が頷く。


「もし、その子孫に魔族の血が濃いものが現れていたとしたら!」


あくまで推測ではあるがと前置きして話すマサル殿の言葉に、その可能性も否定できないなと思うのであった。


<<アベル視点>>

カインの話しを聞いて、俺も思うところがあった。


「マサル殿、もし魔族の末裔がダゴーに残っていたとして、今回魔方陣を再起動させた理由は何だろうか?」


俺の問いかけにマサル殿は両手を首の高さに持ち上げ首をすくめる。


「先日ユーリスタ様襲撃の時に捕まえたハゲンがおかしなことを言っていたのを思い出したのです。

マリーに付き添ってキンコー王国に行った侍女の1人が言っていた話の中で、「マリーは、物の怪が付いたように、ある日を境にユーリスタ様に対する言動が豹変した。」というところです。

もし、何かの魔術でマリーが操られた上でのことだとしたら、その目的が見えてきませんか?」


「なるほど、マリーを先導させネクター王もしくはユーリスタ様を亡き者にし、ハローマ王国とキンコー王国の間で戦争を引き起こさせるということか。」


「そうです。魔族の子孫が残っていたとして彼等は、キンコー王国、ハローマ王国どちらにも恨みがあります。

うまく戦わせることで双方を疲弊させることができれば、彼らにとっては思うツボでしょう。」


「しかし、それでは今回の魔方陣との関連は?」


「おそらくですが、今回ハローマ王国からキンコー王国に行政改革の技術支援の依頼が出ていましたよね。

この依頼がうまく成果を上げれば、両国間の親密性は今より高まることでしょう。

これは、彼等にとって都合が悪いはず。であれば、カクガーの森を越えられなくなれば良いわけですよ。」


「なるほど、それで瘴気を出して魔物を増やしたわけか!!」


マサル殿はその通りだと言わんばかりに大きく頷いた。


「となると、マリーを洗脳したのは、当時キンコー王国に付き添っていた侍女の1人で、今もハローマ王国の中枢で情報を集められる位置にいる者に絞られるな。

よし、探してみよう。」


そう言うなり、マサル殿は宙を飛ぶように、いや実際に飛んで窓から出ていった。

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