第38話【マリーの正体】

<<ハゲン視点>>

マリー様にユーリスタ殺害を提案し、了承された。

俺は、コペンみたいに失敗しない。

ダゴー公爵家では、俺は新参者だ。

コペンが失敗した今こそ、マリー様に取り入られるチャンスだろうと思う。


昨夜、ユーリスタが、ワーカ領に居るところを偵察に行った。

強弓で、ユーリスタが居る部屋の窓を狙い、自分が狙われていることを悟らせた。

これで、急いで王都に向かってくれればありがたい。

城の中では狙いにくいが、外に出てくれれば、なんとでもなる。


部下を城下において動向を見張らさせているので、動く気配を見させたら待ち伏せの準備を始める手筈になっている。


まぁ、襲ったのは昨夜なので、まだしばらくは動けないだろう。


しかし、ユーリスタの殺害を提案した時のマリー様の剣幕は、とんでもなかった。


俺が、この仕事に就いたばかりの頃、前任者から、マリー様のことを色々聞いている。

彼女の琴線にふれないように、注意してくれたのだ。

実際、彼はその琴線にふれ、戦地に送られてしまったのだから。


その琴線が、ユーリスタである。

マリー様は、ダゴー公爵家の1人娘であり、若い頃は、ハローマ王国でいちばんの美人と持て囃されていたらしい。

また、彼女は類い稀なる教養を備えた才色兼備として、次期王妃になると誰もが思っていたそうだ。


彼女自身も幼少時代からそう言われ続け、そうなるように努力もしてきた。

彼女にとっての不幸は、ライバルらしいライバルがおらず、挫折を知らなかったことだろう。


そんな彼女は、15歳になって大陸一と言われる、キンコー王国王立アカデミーに入学した。

彼女は、当然自分が首席で学年の代表になると思っていたが、実際に入学すると、彼女が首席ではなかった。

そう、ユーリスタが首席だったのだ。


この辺りのことは、当時彼女に付き添い一緒にキンコー王国に行った元侍女が詳細に語ってくれた。

この侍女もまた、マリー様の怒りに触れ、理不尽に解雇された1人なのだ。

その恨み節も多分にあるのだろう、酒を飲ませてやったらペラペラと喋ってくれた。


マリー様は、意気消沈しながらも、ユーリスタを追い抜こうと、最初の頃は頑張っていたそうだ。


だが、ユーリスタとの差は開くばかり。

ハローマ王国ではあれほど持て囃されたのだ。

2番手なんて彼女のプライドが許さないし、なによりハローマ王国に知れたら、どんな風に言われるか。

そう、彼女は人生初の挫折を迎えたのだ。

しかし彼女は、自身が挫折したことに気付かない。

公爵令嬢に、それを告げる者などいないからだ。


彼女は、自分が最も優れていると思い込んでいる。

いや幼少から思い込まされている。


彼女は、自分より優れた人間がいることが許せなかったし、信じられなかった。


彼女は、近習の者に箝口令を引き、国元には隠し通そうとした。


誰かが、漏らしてしまうのではないか?

そう思いだすと、全ての人間が敵に見えてくる。


そうして1年も経つ頃には、疑心暗鬼に囚われるようになり、近習の誰もを信用しなくなった。


やがて、彼女は部屋にこもってアカデミーにも行かなくなった。


全ては、ユーリスタが悪い。

何か不正をして、わたしを貶めようとしているに違いない。

彼女が、そう思い込むまで時間はかからなかった。


やがて彼女は、病気を理由に、アカデミーを退学して、公爵家の別荘で療養することになる。


だが、そんな形で落ちていく自分を、彼女のプライドは許さない。

やがて、彼女は妄想の中で、「自分は、アカデミーに通っている。

本当は、自分が1番なのに、ユーリスタが卑怯な手を使って自分を追い落としている。

それに誰も気づいてくれない。

これはキンコー王国の陰謀だ。

きっと王太子である生徒会長のネクターが後ろで糸を引いているのだ。」という設定を勝手に作ってしまう。


こうして、マリーは、キンコー王国、ネクター王、ユーリスタを敵対視するようになった。






まぁ、俺にとっては、出世のチャンスがようやく巡ってきたわけだから、ユーリスタには、感謝しているがな。


<<マサル視点>>

姿を隠したまま、屋敷の中に入った。

門は固く閉ざされ、警備も厳重だが、空中から門を越えてしまえば、なんてことはない。


残渣の強い3階の窓まで上昇し、中を覗く。


その部屋には、男が1人いるだけだった。

「ファインダー」の残渣からいって、昨夜の賊は、彼で間違いないだろう。


俺は、その男に「スリープ」と「拘束」の魔法をかけて、外に連れ出した。

もちろん、男の姿も消してある。


そのまま、空中を駆けてワーカ領まで戻った。

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