第23話【閑話アカデミーにて】

「リザベートさん、この資料を教員室までお願いできますか?」


「エリザ先生、承知しました。エミリー、手伝ってくれる?」


「いいよ。一緒に運ぼう。」


アカデミーに入学して3ケ月、初めての学生生活にも慣れてきたんだ。勉強も運動も何もかもが楽しくってしょうがない。


同郷のエミリーとは、親友として仲良くしてもらっている。


それ以外にもいろんなところからきている友達ができた。


貴族の子もいれば、大商人の子や大きな工房の子もいる。


まだ、貴族と庶民の壁は厚いみたいで、みんなぎくしゃくしているけど、わたしはどちらも経験しているから、全く違和感がない。


気軽に声を掛けるからみんな驚いている。


「リザベート様は、公爵家なのに、みんなと気軽に接する事がお出来になるのですね。


少しうらやましいですわ。」


ゴリョウ領の伯爵令嬢であるユマール嬢がため息をつきながら話しかけてきた。


「ユマール様、リズでいいよ。


わたしもユマールさんって呼んでいい?」


「ユマでお願いします。


いつも親しい人にはユマって呼ばれてますの。」


「じゃあユマ、わたし家柄ってよくわからないのよ。


公爵家って言っても養女だし。


わたしのお父さんとお母さんは昔冒険家で、わたしが生まれてからは行商人をしていたから。」


「存じてますわ。あの有名な『赤いイナズマ』のライアン男爵と夫人のマリアン様が本当のご両親でしたわね。」


「そうなの。わたしは2人が有名な冒険者だった事をつい最近まで知らなかったんだけどね。」


「わたしは、出入りの吟遊詩人に子供の頃からよく聞いかされておりましたのよ。


王都をいやキンコー王国を滅亡の危機から救った英雄ですもの。


上映されているお芝居も何回も見ました。」


「なんだか恥ずかしいわ。わたしも負けないように頑張らなくっちゃね。」


「リズもすごいじゃないですか。


入学試験だんとつでトップだったそうですよ。


ユーリスタ様、マリアン様の再来だって、教員室で大騒ぎしていましたよ。


さすがサラブレッドだって言って。」


確かに先生方には、お父様やお母様、ユーリ様のことをよく聞かれる。


誇らしくはあるんだけど、目標が高くてちょっと大変かな。


まあ、わたしなりに頑張ろう。


「リズ、ところでナーラ領の寒村で様々な実験が行われているって聞いたんだけど、何か知っておられますか?」


「知っているも何も、わたし入学前にそこに行ってお手伝いしていたよ。」


「まあ、そうですの。


優秀な学者様が外国から来られて指導しているとか。」


「マサルさんのことね。


わたしの命の恩人で、ものすごくかっこ良くて、何でも知っている人なの。」


興奮して話しをしていると通りがかった先生が話しかけてきた。


「リザベート君、君はナーラ領の改革のことについて詳しいの?


実は私も興味があってね。


是非聞かせてくれないか?」


土木学ローバー先生だ。


「機密事項も多いので話せる内容は少ないですが。


その村には、川に沿って小麦畑があるんですけど、川が小麦畑よりも少し低いところにあって、水を引くのが大変なんです。


特に水位の下がる夏場は、釣瓶で水を上にあげるだけで何人もの男の人が必要みたいです。


それで、マサルさんが、水車っていうもの考え出して、それを使って水を自動的に小麦畑まで引き上げる案を作ったのです。


村の職人さん達が総がかりで1号機を作って動かしてみたら、水が2メートルも下の川から何もしなくても水のちからで上がってくるのです。


みんな驚いたり喜んだりで、今頃何個も作って設置していると思います。」


「それはすごい発明だな。


生産量が大幅に上がるぞ。


わたしも是非見てみたいし、参加してみたいな。


そうだ、リザベート君、研究会を立ち上げてみないか?


顧問にはわたしがなろう。


他の専門分野の先生方も巻き込んで、そのプロジェクトを応援したい。」


なんか、話が大袈裟になってきた気がするんですけど。


そして数日後、わたし達の研究会「次世代の農村を考える会」が発足し、初代会長はわたしになった。


ローバー先生はもちろん行政学のマール先生、農業学のマイケル先生、食品学のレイン先生等々多くの先生が顧問に名を連ねている。


学生ではもちろん、エミリーもユマも参加している。他にも商人や工房の子たちもいっぱい。


「次世代の農村を考える会」が、少しでもマサルさんの手助けができるようになれば良いなぁと思う今日この頃です。

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