第10話【調査結果を報告する】

<<ジャン視点>>

目の前に竜がいる。


咆哮することもなく、威嚇してくることもない。


ただ、マサル殿と睨み合っているだけだ。喉が渇いて張り付き、身体はピクリとも動かせない。


いや、動かしたら間違いなく殺されるだろう。


そんな中で思考だけが冷静なのがもどかしい。


どのくらい経ったか、20分いや実際には12、3分だろう。


突然天から暖かい光が差し込み、

しばらくすると光と共に竜が消えていた。


何が起こったのか思考が追いつかないが、助かったことだけは実感できた。


「さあ予定通りナーラに戻ろうか。」


マサル殿の言葉に我に返り、部下の様子を見る。


やはり、まだ立ち直れていない。

ピクピクする足を引きずりながら、ひとりひとり声をかけて回り、小一時間かけて全員が戻れる状態まで回復した。


とりあえずアイカ村まで戻って宿を取る。


ここまで皆黙って歩いた。


マサル殿は、何か思案し続けていた。


もしかしたら竜と何かあったのかも知れない。


落ち着いたら聞こう。


今日はいろいろあり過ぎて、とにかく寝たい。


翌朝、少し遅い朝食を皆でとった。


昨日は竜と遭遇したにもかかわらず、全員無事だった事は、僥倖以外のなにものでもない事を皆で噛み締め、神に感謝しながら食べた。


食べ終え、マサル殿に昨日のことを聞いてみた。


「実は竜が俺に話しかけてきた。


詳しくは、ヘンリー殿や領主様を含めてナーラで話したいが、ジャン殿が言っていた通り、あそこがプラートで間違いないようだ。」


な、なんと、やはりわたしの勘は間違っていなかった。


ご先祖様、ジャンはやりました、やっとプラートを見つけることができました……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ………



「ジャン殿、さっさと戻ってきてくれ。

そろそろ出発するぞ!」


マサル殿の声に我を取り戻す。


危なかった、どこか遠くに行ってしまうところだった。


そんなわけで、体力が回復した我々は、その日の夜遅くにナーラに到着したのだった。


マサル殿には、我が家に宿泊頂いた。


それにしても、マサル殿は不思議なお方だ。


立ち居振る舞いは、上級貴族並み、いや、ある意味それ以上の繊細さを感じるが、屋敷内にある日常魔道具などをこわごわ扱うなど世間離れしたところもある。


特にあのプラートで見た魔法なんて人間離れしていると言ってもおかしくなかった。


遠い国の出身と言っていたが、一体彼は何者だろうか?


翌朝早くにお城に使いを出して、ヘンリー団長に面会の予約を入れた。


面会の刻限に合わせてマサル殿と共に面会場所である城の会議室に向かった。


顔見知りの門番に会釈し、ヘンリー団長に面会する為に登城した旨を伝える。


門番は我々に関する用件を預かっているらしく、マサル殿を来客室へ案内し、しばらく待つ様に告げた後、わたしにヘンリー団長の執務室に向かうように指示した。


ヘンリー団長の執務室に入ると、領主様と団長の2人がいた。


2人に挨拶をすると、ソファーに掛けるように指示された。


「ジャンご苦労だった。マサル殿は来客室に来ているのだろか?」


肯定すると、「領主様もマサル殿には興味があるとのことだったので、御同席頂くことになった。


さて、マサル殿と同行してもらったが、どうであった?」


「謎は多いですが、我々に敵対する気配は全くありませんでした。


それどころか、伝説で伝えられているプラートの都付近で、竜に遭遇した時には、卓越した身体捌きで、我等4名助けられた程です。」


「ちょっと待ってくれ。


今話しの中に、プラートや竜という名前が出てきたが! いったいどういうことがあったのだ。」


ヘンリー団長が、わたしの言葉を遮って質問してきた。


「報告そのままの状況に遭遇したのですが、申し訳ありません。


わたしもそれ以上のことは理解できていません。


ただ、マサル殿は竜の言葉を聞いたとの事なので、なんらかの情報を得ていると思われます。


マサル殿は今後のことについて、団長、領主様と相談したいと仰っていました。」


「わかった、今から会おう。兄さん(領主様)時間は大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。今すぐ会おう。


ただ、内容が内容なだけにマサル殿が控えている来客室の方がいいだろう。


来客室であれば結界設備がしっかりとしている。そちらに行う。」


こうして領主様、ヘンリー団長、わたしの3名でマサル殿が待つ来客室へと向かった。




<<マサル視点>>

来客室に通され席を勧められたので、それに従ってソファーに腰掛けた。


この世界の礼儀作法は全くわからないが、まぁ日本で失礼に当たらない程度だったら問題ないだろう。


最初にこの国の礼儀作法を知らない事を伝えておこう。


出されたお茶を飲みながらしばらく待っていると、ドアをノックする音がし、一呼吸おいてドアを開ける音がした。


ドアからジャン、ヘンリー団長、それともう一人男性が入ってきた。


ヘンリー団長の態度から推測して、その男性が領主だと判断し、立ち上がってお辞儀をした。


領主とヘンリー団長は、向かいの席へジャンは隣に立った。


「マサル殿、ご苦労様でした。


こちらはナーラ領領主のクラーク・ナーラ様です。


今回の探索は大変だったとジャンから聞き及んでおります。


まぁお掛け下さい。」


ヘンリー団長が声を掛けてくれた。


「ヘンリー様、労いの言葉ありがとうございます。


領主様、初めましてわたしはマサルと申します。


本日は大変貴重な時間を頂き有難うございます。


わたしは、遠い異国の地から参りましたばかり故、こちらでの礼儀作法を存じあげません。


失礼があるやもしれませんがご容赦願いたく思います。」


ヘンリーと領主に挨拶をして、3人が座るのを待って座った。


「いやいや謙遜なさるな、マサル殿。


実に素晴らしい所作をわきまえておられるようだ。


もしかしてマサル殿は、どちらかの国の王室もしくは上級貴族に連なるお方ですかな。」

と領主様に声を掛けられた。


「いえ、わたしは一般庶民の出自です。

わたしの国では、これくらいの礼儀作法であれば、成人を迎える頃には常識の範疇です。」


「それは、素晴らしい!

行き届いた行政と教育システムを採用しているのでしょうな。

ぜひ詳しくご教示頂きたいが、その前に今回の調査結果を報告して欲しい。」


「わかりました。


ただ、一つお願いがあります。


わたしがこれから話す内容は全て事実ですが、みなさんの常識から考え、とても信じがたいことだと思います。


わたしの話しを信じるか信じないかは別として、他言無用を守って頂きたいのです。


よろしいでしょうか?」


「わかった。


他言無用をお約束致そう。


ヘンリーも、ジャンも良いな。」


「「御意でございます。」」


あんな話しが出回ったら、パニックになるに違いない。


異世界から来たとか、本当は隠しておきたいが、隠したままで竜や創造神とのやりとりを話す方が、もっと嘘くさくなるだろう。


ここは包み隠さず話した方が得策だろう。


上手くいけば、こちらでの大きな後ろ盾を得られるかもしれないしな。


「では、まずわたしの出自から話させて頂きます。


わたしは、この世界の人間ではありません。


わたしは元いた世界で死亡して、創造神マリス様にこの世界に呼ばれました。


ヘンリー様もご存知のリザベートさんとお会いしたのもその時です。


彼女がビッグベアに襲われている、まさにそのタイミングで、その現場に呼び出されたのです。


わたしは、リザベートさんを助けたいとマリス様にお願いし、転生では無く転移としてこちらの世界に降り立ちました。


マリス様から、ビッグベアを倒す為に必要な体力と剣技、魔法を授けて頂き、ビッグベアを倒してリザベートさんを救出した次第です。


その後は、騎士団の皆さまがご存知の通り、リザベートさんをナーラにお連れする途中でヘンリー様やジャン殿と遭遇しました。


ここまでがわたしの出自になります。ここまでは、よろしいでしょうか?」


「俄かには信じがたいことだが、これまでにリザベートに聞いた話しやジャン達からの報告を総合すると、マサル殿の話しを信用した方が辻褄が合うようだ。


わかった、話しを続けて下さい。」


ヘンリー団長が肯定してくれたので、話しを進める。


「ヘンリー様と別れた後、ジャン殿以下騎士団の方達とヨーシノの森に戻り、ライアン殿達の埋葬場所や魔物の発生場所等の調査を行いました。


しばらく調査していると、瘴気であろう黒い霧が立ち込める場所があり、その発生源を探しました。」


「補足します。瘴気と断定した理由ですが、騎士タリャがその霧を大量に吸い込み、魔人化する手前の症状を発症した事でそう判断しました。


もう手遅れだと思って殺害しようとしましたが、マサル殿の浄化魔法で事なきを得ました。


もしかすると魔物の大量発生は、この瘴気が原因ではないかと推測し、発生源の調査を実施した次第です。」


「な、なんと、マサル殿は浄化魔法も使えるのか!


まあマリス様の加護があると考えれば不思議ではないか。


とにかく、騎士タニャを救ってくれて感謝する。」


領主様から感謝の言葉を頂き、話しを続ける。


「小一時間ほどで瘴気の発生源は、見つかりました。


直径1メートルくらいの洞窟です。


風魔法で、シールドを張り中に入って行きました。


少し進むと地面に縦穴が空いており、そこから瘴気が溢れていました。


降りる道具の持ち合わせもなかった為、わたしだけがフリーフォールの魔法で、下に降りる事にしました。


ゆっくりと辺りを見回すように降りて行きました。


瘴気は途中まで濃くなっていきましたが、だいたい6分目を過ぎると薄くなり始め、下に着いた時には全く瘴気を感じなくなりました。


下には古代の街跡があり、真ん中にある神殿から放射状に5本の街道が伸びていました。


街の規模はおおよそ直径5キロメートル程でしょう。各街道の先はそれぞれ洞窟につながっていました。


上から確認しただけなので洞窟の中がどうなっているのか不明ですが、一度ジャン殿のところに戻り今後の対応を相談することにして、上に戻りました。


途中瘴気の出口を探りましたが、見つかりませんでした。」


ここで一旦言葉を切った。



「ジャン騎士、今の話しにあった古代の街跡は、君の家に代々受け継がれているプラートの古都によく似ていると思うがどうか?」


「はい領主様、わたしも話しを聞き間違いないと判断しました。


正式に調査団を派遣し、古文書との突き合わせは必要かとは思いますが。」


「わかった。ヘンリー、すまないが調査団の準備を進めてくれ。」


「承知致しました。この会談が終了次第、早速手配を致します。」


「ふむ、ではマサル殿続きを頼む。」


「承知しました。


ジャン殿達の元に戻って、こちらに帰還しようと思った矢先でした。


突然大きな地響きが起こり、そこに体長が20メートル程の竜が現れました。


なんとか初撃を回避した時、竜が語りかけて来ました。


わたしがそれに答えると、竜はわたしが竜の言葉を理解できる事に驚いたようでした。


その後竜と念話で話し始めると、マリス様が会話に混じって来られました。


話しを要約しますと、


太古にこの世界を作られたマリス様は、プラートの都を中心に5つの大陸を作り、それぞれで発展した文化を融合させて、より高い文化レベルにしていこうとしていたのですが、目を離した隙に、突然変異で現れた魔族にプラートを乗っ取られていたそうです。


既にマリス様は介入出来ない状態だったので排除出来なかったとの事です。


その頃の人類は、既に五大陸に別れており、プラートを介した文化交流が行われ無くなった事で、2000年経った現在でも予定よりも文化の進度が500年以上も遅れてしまっているそうです。


マリス様いわく、


「文化が発展し人々の生活が充実することで、神への信仰をもっと集められる世界にしなくてはいけないが、この世界は文化が停滞しており、これ以上の発展が望めそうも無い。


この調子だと一度全てをリセットして作り直す必要がある。


そうならないようにしたいので、文化を大きく進展させるために力を貸して欲しい。」


との事でした。


以上が、わたしの知る限りのことです。」




「「「………………………………………………………………………………………………………………………」」」




「ふむ、俄かには信じがたいことだが。


ただ、昔王都で学んでおった時に王より聞いた話しと似ているのは間違いない。


あれは、王家とそれに連なる者の一部にしか伝わっておらぬ話しのはず。


しかもその時の内容よりも具体的で辻褄が合っている。


よし、マサル殿の話しを全面的に信用し、早急に王都に赴き王に報告して今後の策を考えよう。


その前に、マサル殿の世界の話しをじっくり聴かせて欲しい。」


話しが信用されたようでとりあえずは良かった。


大事になりそうな予感しかしないが、マリス様との約束でもあるし、頑張ってみますか!

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