俺と彼女と甘々な幼馴染
@山氏
第1話 幼馴染
「将太! 遊びに行こ!」
玄関を開けると家の前に、笑顔で立っている女の子がいた。俺の名前を呼び、家から出てきた俺の手を掴む。
小学校で同じクラスで知り合いになり、よく家に遊びに来る女の子。
俺は外で遊ぶのはあまり好きではなかったが、彼女が無理やり俺を連れまわしていた。
「今日は家でゆっくりしたいんだけど……」
「いいからほら、行くよ!」
彼女は俺の手を引っ張り、俺を外に連れ出した。
「おい!」
目を開けると窓から日が差し込み、少し眩しい。
懐かしい夢を見た。小学校低学年の時の記憶。
「なんであんな夢……」
俺は近くに置いてある携帯を開き、時間を確認した。
「やべ……」
いつもならすでに家を出ている時間。俺は慌ててベッドから出て、制服に着替える。
家を出て学校に向かった。通学路にはすでに何人かの生徒が歩いている。
人混みは嫌いだ。動きにくいしうるさい。しかし遅刻ギリギリのこの時間なら仕方がないことだとは思う。
ふう、とひそかにため息をつく。周りを見渡せば人、人、人。
俺は学校の昇降口にいた。もう十月だというのに人の熱気が伝わってきて暑さを感じる。さっさと靴を履きかえて教室に向かいたいのだが、人が多くてそれどころではない。
もう一度ため息をつく。先ほどとは違い、大きく。その瞬間、背中に衝撃が走った。振り返ると、髪を肩ほどまで伸ばした少女が笑顔で立っている。
「っはよー。珍しいじゃん、あんたがこの時間に登校してるなんて」
「……お前か、おはよ。てか、あいさつで叩くなよ。体がもたん」
彼女は愛莉。小学校からの付き合いで、明るく、いかにも体育会系という雰囲気を醸し出している。家の都合とかで部活には所属していないが、見た目どおり運動神経はかなりいい。いわゆる幼馴染というやつだ。家も近く、小中と一緒に登校していたものだが、いつだったか付き合っていると勘違いされたことが原因で一緒に登校することはめっきりなくなってしまった。お互いに付き合う気はゼロのため、そういう噂が立つと全力で否定するのだが、恥ずかしがっているだけと軽くあしらわれることが多い。俺達からしたら迷惑な話である。
「え~、いいじゃん別に」
愛莉は笑いながら俺の背中をバンバン叩いてくる。正直かなり痛い。俺は痩せ形ではあるがひ弱なわけではない、と思う。が、それでも痛い。
こういうスキンシップを人前で恥ずかしげもなくしてくるから勘違いされるのではないか、と思いもするのだが、それが愛莉のいいところでもあるので軽々しくやめろとは言えない。
「人混みも少なくなってきたし、早く行くぞ」
まだ人は結構居たが、これ以上叩かれるのは嫌なので逃げるように下駄箱に向かった。
「待ってよ~。どうせ教室同じなんだから一緒に行こうよ」
後ろで愛莉が言っているが気にせずに靴を替え、教室に向かう。俺たちの教室は、昇降口からは少し遠い位置に存在している。校舎は上から見るとカタカナのコの字で建てられており、そのコの下の先だ。昇降口がコの右上に当たるため、結構歩かなくてはならない。
愛莉は俺の隣に並んで歩いていたが、ニコニコしているだけで話しかけては来なかった。
教室に入ると、真っ先に金髪の男が目に入る。彼は教室の前でクラスメートと話しており、俺たちに気が付くとニヤニヤしながら近づいてきた。正直、気持ち悪い。
「おうおう将太、朝から愛莉ちゃんと仲良く登校たぁ見せつけてくれるじゃねーか」
「お前、今日は学校来てるんだな。いつもは昼に来ればいい方なのに」
彼は蓮。髪の毛の色から教師から目をつけられており、よく口論をしているところを見かける。そのためか、あまり学校に来ていない。来たくないだけが理由な気もするが……。
顔はいいため、学校に来ると女生徒によく声をかけられているところも見かける。別に羨ましいとは思わないが、なぜこんなのがモテるのかは理解できない。
「そろそろ学校こねーと単位たりなくなるからな。仕方なく朝からいるってわけだ。なんなら一緒にサボるか? まだ単位には少しだけ余裕があるんだ」
「俺はお前と違ってマジメなんだよ。サボるとかありえねえ」
「つれないねぇ、愛莉ちゃんもなんか言ってやってくれよ」
愛莉は蓮を見ると、ため息をついた。
「朝からサボりの計画なんて聞きたくないわよ。まともに来たときくらいちゃんと授業受けていきなさい」
蓮が驚愕した表情で愛莉をみた。そして、俺と愛莉を見て深く、深くため息をついた。人の顔を見比べてため息とは失礼なやつだな。
蓮はため息をついたかと思うと「ふっ」と何かを悟ったように短く笑った。
「愛梨ちゃんまで……。カップルそろって俺の敵かよぉ……」
「カップルじゃない!」
俺の声と同時に愛莉の声も耳に届く。愛莉のほうを向くと、やってしまったといわんばかりの顔で俺を睨み付けている。その顔を見て、俺は図らずともはもってしまったことを自覚した。
「ほらな、息もぴったり」
「息がぴったりだからと言って付き合ってると思うなよ」
「そうそう、私はこんなのと付き合ったりしないわ」
愛莉も俺を指さしながら同意する。しかしその同意の仕方はどうなんだ。俺の人間性を否定されている気がするのは気のせいか。
「席つけよー」
後ろから野太い声が聞こえる。俺たちのクラスの担任、小林だ。彼は見た目は大柄で、いかにも運動系教師のなりをしているが、国語教師である。彼の授業は生徒に評判はいいが、無駄話が多いため正直退屈で俺は寝て過ごすことが多い。無駄話が多いのが評判がいい理由なのだろうが。
俺は自分の席に向かった。席は廊下から二列目の後ろから二番目。可もなく不可もなくといった感じか。目の前には愛莉が座っているし、右横には蓮が座っている。
「なあ将太。今日の昼、ちょっと付き合えよ」
先生が前で話している中、蓮はかまわず俺に話しかけてくる。
「別にかまわないけど、昼休みなんかあるのか?」
「いや、昼飯を持ってくるの忘れてただけなんだけどよ」
彼は長い髪をわしわしとかき回し、笑った。
「なるほどな。まあ別に構わないけど」
昼食用のパンは持ってきていたが、食べれなくなるくらいに遅くなるわけはないだろう。
「サンキュー。それとよ、今日お前が来る前に女の子がお前を探してたぜ? まだ来てないって言ったら帰ってったけど」
「俺に? 誰だよ?」
「俺が知るかよ。学校にほとんど顔出さないのに他のやつの名前と顔なんて覚えてねーよ。あ、でも顔は可愛かったぜ? よかったじゃねーか」
「まあ、急用ならお前にでも伝えるだろうしその内顔出してくるだろ」
「そうなんじゃね? 正直興味ないし。じゃあ俺は寝る。久々に朝から顔出してるから眠いぜ」
それだけ言うと、蓮は机に突っ伏した。朝から学校に来てもこれではあまり意味がないのではないか。かくいう俺も授業中はまともに聞いていないわけだが。
「よかったじゃない、可愛い女の子があんたに用事なんて」
蓮との会話を聞いた愛莉が振り返って俺に話しかける。可愛い女の子、を強調した気がする。
「いいか悪いかはまだわかんないだろ? 何の用事かもわかんないんだし」
「可愛い女の子が用事ってだけでちょっと嬉しくなったりしないの? あんたホントに男?」
「正直嬉しいけど、誰だかわからないから怖い。わかってたらもっと違ったかも知れないけど」
「そんなもんなの。つまらないわね」
愛梨は興味がなくなったように体を前に向きなおした。俺もそれに倣い、教卓の方を見る。
小林がまだ何か話していたが、最初の方を聞いていなかったため、何を話しているかはわからない。俺は話を聞くのを諦めて横にいる蓮と同じように机に突っ伏した。
チャイムが目覚まし代わりに俺を起こす。ホームルーム終了のチャイムだろう。俺は体を起こして、教卓の方を見る。まだ担任は何か話しているようだ。
「……よし、朝のホームルームはこんなもんでいいだろう。じゃあまた授業でな」
そう言って担任は教室を出て行った。
途端に教室内が騒がしくなる。クラスメイトは所々で固まって雑談に花を咲かせる。俺は先ほど蓮の言っていた俺に用事のあるという女生徒を待ってみることにした。
……来ない。もうすぐ一限目が始まるというのに女生徒が来る気配がない。
「まあその内来るだろ」
誰に言うでもなく呟くと、前にいた愛莉が反応してこちらを向いた。
「やっぱり気になってるんだ?」
少しニヤけているのに腹が立つ。
「そりゃあ気持ち悪いからな。すっきりしておきたい」
「そういうことにしておいてあげるわ」
愛莉はニヤけた表情のまま前に向き直る。
結局授業が始まるまでその女生徒が現れることはなかった。
授業終了のチャイムが鳴り、教室内は昼休みの騒々しさに包まれる。
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