第二話 え? 俺が第二王子の専属侍従???

#単語__・__# なんだろう? 二日酔いかな。頭がボーッとして思考が全然働かないや。だって明らかに異世界なのに、動揺する気力もない。まぁ、いいか。どうせ飲んだくれてそのまま寝ちまって、今は夢の中なんだろう。目が覚めたらまたいつものモブキャラな毎日が始まるんだ。だったら、今の内にセレブ気分満喫しとこう。それで、目が覚めたら小説ネタにして書くんだ。へへ、あんな事があっても筆を折るつもりもねぇや。下手の横好き、てやつの典型だな。今の内に、この目に焼き付けておこう。


「熱は大分下がったみたいだ。良かった。ゆっくり休むといい」


 その優しい声と眼差しに、安心してコクリと頷いちまってる俺。ラディウス、第二王子かぁ。それにしてもこんなにハッキリとロイヤルブルーからルビーレッドに変化する瞳って凄い神秘的だよなぁ。目が覚めたら、宝石の名前を調べてみよう。彼はニコニコして俺を見つめてくれてる。なんだろう? 凄く安心するんだ。自分はここに居ていいんだ、ていう愛情・所属の欲求が満たされている感じがする。それに、彼がまとう高級なスイーツみたいな香り、凄く癒される……。香水かな? お香かな?


 あと、今気づいたんだけど、凄く寝心地が良いベッドに寝かされてた。キングサイズ、ていうのかな? 四人は余裕で寝られそうだ。桜色の枕も敷布もふかふかなんだけど適度に弾力があって。布団は凄く軽くてふわふわだ。きっと、最上級の羽毛なんだろうな。藍色の牡丹と金色の葉が豪華に描かれている。しかも! だ。天蓋付きベッド、てやつだろ? これ。紺色のベルベッドのカーテンン、眠る時に閉めるんだろうな。今はベッドの四隅の柱に銀色のリボンで蝶結びにして留められている。


 男の癖に宝石とか花にやたら詳しいのは、物語を書く時に必要になって、色々調べている内に詳しくなった、てやつな。色なんかも結構詳しいかな。象牙色の壁と天井、天井が高いなぁ。広い部屋だ。二十畳くらいあるかな……。


「疲れてきたみたいだね。ゆっくり休んで。大丈夫、ここに入れるのは僕と執事だけだから。何かあったら、頭の上にある棚に置いてある呼び鈴を鳴らして。すぐに駆けつけるから。後、水とコップもそこに置いてあるよ」

 

 あぁ、なんて素敵に微笑むんだろう? 花が笑う、て。こういう笑い方を言うんじゃないかな。……いやいや、そうじゃなくてまずお礼言わないと!


「……あの、何から何まで、有難うございます」


 見事な黄金色の髪だよなぁ。絹糸みたいに繊細でしなやかで、首のあたりまで軽く波打っている。待って、まだ行かないで! 


「ううん、気にしないで」


 と彼は軽く右手をあげて部屋を後にした。あーぁ、まだ行かないで欲しかったな。だって、目が覚めたらきっと渋谷の公園のベンチか路地裏だ。大体において、王子が従者もつけないで一人でうろついたり、得体の知れない俺なんかを城(?)にあげて看病したり、ぜってーありえねー設定だよな。さすが夢だ。でも、異世界転生ファンタジー小説としてならいけるかもしれないよな。この部屋、灯りはやっぱりシャンデリアかな? 窓はどんな感じなんだろう? ……駄目だ、眠くて瞼が落ちそう……。寝たら駄目だって、こんな……貴重な……夢……。


 唐突に訪れた強い睡魔に、成す術もなく身を委ねた。




「お目覚めですかな?」


 次に目を覚ましたら、渋谷の公園か路地裏……では無く。眠る前と変わらないベッドの上だった。続いて声をかけて来たのは、ヒョロッと背が高く、白いワイシャツに黒スーツをビシッと着こんだ男だ。いささか不機嫌そうに見えるのは、細い銀縁眼鏡と真一文字に結ばれた唇のせいか? クリーム色の肌に切れ長のハシバミ色の瞳、褐色の髪をオールバッグにしている。冷たいまで端正な顔立ちだ。


「やぁ、気分はどうだい?」


 そのフルートを思わせる声、俺を気遣わし気に見つめるルビーレッドの瞳にトクンと鼓動が踊った。


「はい、お蔭様で。本当に、何とお礼を言ったら良いか……」


 うっとりとしながら答えた。そう言えば、言葉も普通に通じてるなぁ。思いの外長い夢だ。


「そうか。良かった。でも無理は禁物だよ」


 何て優しい方なんだろう、王子様……。


「体が完全に回復したら、君にお願いしたい事があるんだ」

「はい、私に出来る事なら喜んで!」

「それはとても有り難い。僕の専属侍従になって欲しいのだ。いずれは執事に、と思っている」

「あぁ、専属侍従ですね! 御安い御用でごさいま……て、へっ?」


 危うく安請け合いしそうになって、すんでのところで我に返った。俺が、何だって?

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