日常に本を足し算すると
岩水晴檸
序章 暖かい日の日常
これは高校一年の夏の終わりの頃のお話。日差しは俺の真上からさんさんと降り注ぎ地面に落ちていく。夏も終わりかけ、太陽は穏やかな暖かさを感じさせるようになった。
俺は朝から部活の先輩である岐路先先輩と一緒に買い出しに行ってきた。
さっき先輩と別れ、今は誰もいない昼の帰り道をトボトボと歩き、家まで足を進めている。
乾いたコンクリートは微かに熱を帯びているようで先の方のコンクリートを見ると熱が立っているのがわかる。
「秋近くでも歩くと暑いな」
小さな声で呟いた。
しばらくすると白塗りの壁が見えてきた。
「はぁ、ようやくついたか」
壁と統一された白色の門を開けると数段の階段を登る。その奥には三階建ての家が建っている。そう、これが我が家だ。
扉を開けてよたよたと中に入って
「ただいまぁ……」
と言うと一番最初に反応したのは緑だった。
「あ、琉夏。少し遅かったね、帰ってくるの。」
「あぁ、ごめんな。結構買い足さなきゃいけないものがあってさ」
そう事情を説明するとふぅ〜んと言ってリビングに行ってしまった。
靴を脱ぎ、あとを追いかけるように俺もリビングに入る。
3人がけのソファは窓の近くで太陽がよく当たる所は緑の特等席になっていて、その隣にあぁ〜と唸りながら腰を下ろした。
座ってすぐにキッチンからいそいそと出てきた楓にびっくりされた。
「あれ?!琉夏さん帰って来てたんですか?!すいません気づきませんでした、おかえりなさい!」
「おう、ただいま」
そんなに小さな声でただいまをしていたのだろうか。いや、まぁ、小さかったな。
そんなことを思い返しながら座っていたがなにもしてなければこの時期の太陽はただただ暖かい。
緑は暖かさのあまりウトウトし始めた。
そのウトウト顔を眺めながらのんびりしていると楓がチャーハンを持ってきて、俺の前のテーブルに置いた。
「お昼まだですよね?どうぞ!たーんと食べてください!」
楓はニコニコしながら俺と向かい合うようにして床に座った。
「ありがと!いただきます!」
黄金色と表現すべきだろうか、レンゲですくい上げるとポロポロと落ちていくパラパラチャーハンをまず一口頬張った。
「うん!めっちゃうま!!」
左手でグッドの手を作って突き出した。
楓は「やった!」とグッドを返してきた。
黙々と食べ続けていると廊下から階段を降りる音が聞こえてくる。
ガチャっとリビングのドアを開けるとともに寝起きでボサボサ髪の水希が姿を現した。
「ふぁ〜。琉夏おかえりぃ〜。買い物はどうだったぁ?」
他人事のように話してはいるが水希も本当は買い物に来なければいけなかったのだ。
なのにこいつは朝起こしても起こしても起きなかったから仕方なく置いていったというのにこれだから困る。
「あのなぁお前がいないだけでこっちは荷物かさばって大変だったんだぞ!少しは反省したらどうなんだ」
レンゲで水希を指しながら軽く説教する。
「う〜ん。ごめんごめんって。怒っちゃやだよぉ」
甘えた声でそう言いながら俺の後ろから抱きついてきたが揺らいだりしない。反省の色も見えないのでほっぺを引っ張ってやった。
「いだいいだい!!!」ともがく水希。
その光景を楓は笑みを浮かべながら見ていた。
「ニヤニヤしてどうした?」
水希のほっぺを引っ張りながら楓に質問すると表情を直して答えた。
「いえいえ!仲良いな〜と思いましてね、つい表情が緩んでしまいました〜」
……仲良い、か…。
俺は水希のほっぺから手を離した。
彼女はうぅ…と頬を抑えてうずくまる。
言われてみれば、そんなこと意識したこともなかったが俺たちはなかが相当いいのかもしれない。緑は寝ていて、楓は水希を労わるような言葉をかけている。そんな水希は涙目で頬をまだ抑えていた。
「確かに仲良いな、今家にいる全員がこの部屋のたくさんある家のたった三畳ぐらいに固まってるんだもんな」
暖かく平和な日常はこの先、もうちょっとだけ続くのであった。
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