264.泣き落とし作戦、失敗&母の引退

 午前九時、無雲はマッハで市役所に電話した。国民健康保険課の女性職員に泣き落とし作戦を決行した。隣のM市では問い合わせ発行をしてくれた事も話した。週末に精神科に行かないと薬が無い事も話した。すると……


「当市ではそのような発行の仕方はしていませんので、退職証明書か社会保険資格喪失証明書をお持ち下さい」


 ……冷たいな、I市。


 医療事務員をやっていた時にも薄々感じていた。っていうか評判だった。M市は何だかんだで優しいけど、I市の職員は厳しい・怖い・冷たい、と。


 というわけで、泣き落とし作戦は失敗に終わり、おいたんを叩き起こして前職場に電話させた。すると……


「事務員が出勤するのは午後なので午後また連絡下さい」


 使えねぇ!!


 はぁ。これは立て替えコースなのだろうか。嫌だなぁ。十数万円の立て替え。そんな訳で、無雲は白目を剥きそうな感じでこれを書いています。


***


 話は変わって、一昨日から体調不良の母の話。


 母は、いつものめまいでまた倒れた。いつものめまいとは、ストレスと疲労から来る危険性は無いめまいの事であります。


 内科に行くと、「この時期めまいの人多いんだよね~」と言われ、仕事は四日間休みを貰っていた。


 しかし、母は二月にも同様の症状で倒れている。わずか二カ月後にまた倒れた。もう、スーパーマーケットで働き続けるのは限界に見えた。


 父から見ても、母はもう限界に見えていると言っていた。


 母は現在七十三歳。今の職場は残業が多く、青果コーナー担当なので重い荷物も運ばねばならない。働かない一部のパートのしわ寄せが母ともう一人の同期の人に掛かっていて残業が多くなる。


 母の同期は愚痴っぽく、母にいつも仕事の愚痴を延々と話すそうだ。


 母は、身体もメンタルも限界を迎えたのだろう。


 そして、ついに引退する事を決めた。


 今出ているシフトの分はその通り働いて、後は有休消化して退職する、と。


 母が専業主婦から脱皮して外で働き始めて三十年あまり。今まで母は頑張ってきた。家計のため・ゆとりある生活のため・自分のためにも頑張ってきた。


 もう、いいんじゃないだろうか。


 ただ、何もしないで家に居たらボケてしまうので、今は無雲が担当している夕ご飯作りを母にもやってもらう事を提案した。そして、その分無雲は創作活動に専念させてもらう事を提案した。そうしたら、口の重い父が凄い勢いで反論してきた。


「お前は集中すると作業をやり過ぎるんだ。疲れて具合が悪くなるのは目に見えてる。お前は何でもやり過ぎる。そうしたらまた医療費がかさむんだぞ!! そんな創作活動に専念だなんて許さん!!」


 父の強烈なジャブをくらいました。その通り過ぎてぐうの音も出ない。


 今、無雲が作業を切り上げる目安は夕ご飯を作る時間です。十六時には作業を切り上げて夕ご飯を作る感じ。母が仕事を辞める分、世帯収入も減るので、無雲が外に働きに出るという案も考えなかったわけではないが、これに関しても前に父の猛反対にあったので、もう口には出さない。


「お前が外で働くと余計に金(医療費)が掛かる」

 

 と、父にどストレートを浴びせられたのだ。


 確かに、無雲は外で働くとゼプリオンの量が爆増して、飲み薬も増えて、さらに常にめまいと戦っているので内科にもしょっちゅう行くようになる。あちこちが痛むようにもなるので、痛み止めも常に服用するようになる。


「あんたはもう外で働かない方がいいと思う」


 とは母の意見だ。今の穏やかなメンタルの無雲を見ていてそう思ったのだろう。穏やかとは言っても、カリフォルニア・ロケットをMAX容量で飲まないと死にたい病が出てくるので、万全の体調ではない。


「情けない……自分で自分が情けない……」


 と、無雲は嘆く。今やっている個人事業でもう少し稼げるようになるにも、きっと時間が掛かる。でも、それを頑張っていくしかない。とにかく曲を作る・ブログに良コンテンツを投入する・ココナラで仕事が来る事を祈ってSNSでの立ち居振る舞いを変なものにしない。など、出来る事をやるのみだ。


 やっと、オーディオストックのコンピレーションアルバムに曲が収録されたり、ちょっと流れも上向いてきている。この流れに乗って行くしかない。


 両親は、無雲が元のとんちんかん状態に戻る事を何よりも恐れている。薬でポーっとしている無雲を見るのももう嫌なのだと言う。


「あんたが元の状態に戻ったら、お母さんはショックで死ぬかもしれない」


 というのは、母の本音だろう。


 ここはもう、おいたんに新職場で頑張って働いて来てもらうしかない。繁忙期は週六勤務だそうだ。繁忙期じゃない時は、土日祝日カレンダー通りの休み。


 今は繁忙期だそうだ。おいたん、いきなり週六勤務からスタートするから、しんどいだろうけど頑張ってこい!!


 無雲家の転換期だ。春だから、新たなスタートにはいい季節だ。母には趣味でも持ってもらってボケないようにしてもらおう。


「編み物でもしようかしら?」


 編み物でも何でもいいからとにかく老後を楽しんで下さい。そして無雲のために長生きして下さい。とにかく長生きしてくれ。それだけは頼む!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る