組立(4)

 ヨコウラが、窓から外を見ている。空には青しかない。

 視線を下に移動させると、広大な空間がある。ひたすらに平らな地面。周りは高い壁で囲われていて、その壁もひたすらに平ら。広大な空間は立方体の形に切り取られているが、天井は無い。地面も壁も茶色で、空だけが青い。

 ヨコウラから見える壁は三辺。残りの一辺は、ヨコウラの足下にある。ヨコウラは壁の上から広大な空間を見渡している。地面も壁も茶色いので、ダンボールの中を覗いているみたいだな、とヨコウラは感じた。二週間後には、このダンボールの中に数万人が集まる。国王の生誕祭と、難民救済法の公布式に参加するためだ。ヨコウラの正面に見えている壁と地面の接線部分にあるゲートから、数万人がなだれ込んでくる。数万人に踏みつけられる茶色の地面と壁はレンガでてきており、一週間前に修繕作業が完了したようだが、相変わらずの茶色で、違いは何も分からない。税金の無駄遣い、という意見が出てもよさそうだが、そのような意見は聞いたことがないので、目に見えない効果があるのだろう。

 外を見るのをやめて振り返るヨコウラ。ヨコウラがいる部屋の中を清掃業者が掃除している。部屋の出入り口付近には、たくさんの清掃機器が置いてある。この部屋は、生誕祭や公布式などの様子を国の重役たちが眺める部屋になる。部屋の中に置かれている物は、清掃機器を除けば、椅子と机しかない。どの椅子と机も煌びやかに施されている。

 ヨコウラの指が、目の前にある椅子の装飾部分を撫でる。ヨコウラの指の痛覚を刺激するものが無い滑らかな曲線、滑らかな表面。装飾部分に指を押し付けるヨコウラ。装飾部分が指にめり込み、ヨコウラの痛覚を刺激した。自らの意思で痛みを望み、痛みを得ることは、小さいころ時々あったな、とヨコウラは思い出す。例外無く、何かに耐えているときだった。

 「念入りに掃除してくださいね。日本で一番偉い人たちが、この部屋に集まります」

 ヨコウラは清掃業者に言った。突然話しかけられた清掃業者は、少し驚いた顔をしたが、短く返事をしながら頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る