青年編 第3話 あのとき

 俺、佐藤篤樹さとう あつきが10歳の時、ある日の夜7時半ごろ、俺の家のリビングにて。


「にーにー。みてー」


「のんちゃん絵を描いたの?」


「みてー」


「うん! 凄いね! よくかけてるね! のんちゃん天才だな!」


 のんちゃんこと希が描いたのはただの丸、されど丸。俺は兄バカなんだろうか……のんちゃんのやるべきことなすこと全てがすごいと思ってしまう。

 小さい子の成長速度は凄まじいのがある。


 最近になっては、簡単な会話もできるようになってきたし、服は自分で着ようとするし、フォークやスプーンを使って、食事をしようとする。

 手伝ってあげようとすると逆に泣いてしまうこともある。

 少しずつだが自律してきたようだ。

 今はお絵かきをしていて、できたものを俺に見せてくる。

 うん! 上手くないとか上手いとかはどうでもいい! 絵を描いていることが重要なのだ。



「ふたりともーー! もうそろそろお片付けしなさいよーー」


 この透き通った声の持ち主は俺の母さんである。


「わかったよー! のんちゃんお片付けしよーか!」


「ん」


 俺は希が自分で片付けるのを補助する形でお片付けをした。


「のんちゃん。よくできました! えらいえらい」


「えへへへへ」


 俺は希が片付けをできたことを純粋に褒めてやり、頭を撫でてやった。



 よしよし。


「…………えへへ」



 俺は希を抱き抱えたまま、ソファに座り、希のことを愛撫してやる。


 希は撫でられてとても気持ちよさそうにしている。



 その様子を見たのか、白い猫ことユキが俺の座っている隣へとやってきた。

 俺は体をスリスリとしてくるユキもよしよしと撫でてやった。


「ミャー♪」



 ユキも俺に撫でられてとても気持ちよさそう。


 俺に抱き抱えられた希はユキが来たのを見て、自分もやってみたいと思ったのか、ユキを一生懸命に撫でている。


「よしよし」


 希は俺の真似をしてユキを撫でている。撫でられているユキはというと


「ミャー♪」



 希に不器用ながらも頭を撫でられて気持ちよさそうにしている。


 小さい子と動物のほっこりした場面を俺が堪能しているところにあの人物がやってきた……



「のんちゃん! パパと一緒にお風呂に入ろう!」



 やってきた人物。それは俺の父、佐藤大樹さとう ひろきである。


 突然登場してきた父にユキは歯を見せて威嚇をしている。この父ユキにめちゃくちゃ嫌われている。まぁ、そんなことは置いといて……


 前までは希もお風呂は体を拭くか、大きな桶にお湯を張ってお風呂に入れているのだったが、3歳になって、ようやく大人の介助があって普通のお風呂に入れるようになったのだ。



 愛娘と一緒にお風呂に入りたい父。

 そして、その愛娘はというと…………



「パパ、やー」


 あら! 困ったことに……もう反抗期……

 父さんはあまりの出来事に口を開けっぱなし


「…………」



「パパ、やー」


 グサッ!


 あなたのパパ何も言ってないよ? のんちゃん。



 希のあまりにも酷い言葉に父さんをがっくしと膝をおって、四つん這い状態になった……


「パパ、やー! にいに、いいー!」


 バタン!



 あらあら! とどめを刺しちゃうの?

 三発のクリティカルな攻撃によって、父さんは意識を失った。



「にいに! おふろー!」


「…………」


 俺の意思だけではこれは判断しきれない……とりあえず母さんにいいか聞いてみないと。


「お母さん! のんちゃんと一緒にお風呂に入っていい?」

 

「あらあら、兄妹仲良くお風呂? それはいいわね! いいよ! 母さんが許してあげるわ! そのかわり何かあったらいいなさいよー」



「はぁい!」

「ん」


「うん! 兄妹仲が良くて母さんはとっても嬉しいわ!」



 というわけで俺と希は一緒にお風呂に入ることになった。


「のんちゃん、自分で脱ぎ脱ぎできる?」


「ん。ほら」


「おぉ! 凄いね! えらいえらい!」


 よしよし。


「えへへへ」


 やっぱり俺は兄バカなのだろうか……この妹本当に天才なんじゃないのか?



「じゃあ、入ろっか」


「ん」


 俺は自分の体をささっと速やかに洗った。


 続いて、俺はのんちゃんの頭を優しくシャンプーで洗ってあげた。


「のんちゃん。目を瞑ってくださいね〜。今から洗い流しますよ〜」



「ん」


 ジャー。ジャー。ジャー。


 俺はのんちゃんのおでこに自分の手で壁を作って、出来るだけなんちゃんの目元に水が行かないように、髪についたシャンプーを洗い流してやった。



「はい! できましたよ〜」


「ん。あっと」



「どういたしまして! じゃあ次は体を洗いますねー」



「ん」


 俺はそういうって、弱酸性のビオ◯イを手に取り出し、手で泡立てて、希の体を優しく洗ってあげた。



「のんちゃん。じゃあお湯で流しますね〜」



「ん」


「はい! のんちゃん終わったよ!」


「ん。あっと」


「うん! どういたしまして! じゃあ、のんちゃんお風呂に入ろっか!」


「ん」



 俺はのんちゃんを抱き抱えて一緒に湯船へと浸かった。



 ざぶーーーん。



 湯船には満タンのお湯が張ってあったので、俺と希の体の体積が加わることによって、お湯が湯槽から出て行ってしまった。



「のんちゃん。きもちいいですか?」


「ん。きもちー」




 こうして、10分間くらい40度くらいのお湯に仲良く浸かっていた。



 そんな時にあるものを見てしまった……


 それは……



 希の称号には【アツキの嫁】が追加されていたのだ……

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