園児編 第19話 あの子を落とせ〜人見知りっ子編⑨〜
わたしの名前は
好きなことは本を読むことです。
嫌いなことはお外で遊ぶことです。
そんなわたしがいまはお外にいます。
その理由はわたしはある男の子から逃げ出してしまったのです……
少し話は遡ります。
「ふゆ、最近楽しそうにしてるけどいいことあったの?」
この声の人は、わたしのママです。
わたしのママは自慢のママです。
まず、とっても綺麗です。
そしてママは絵本を描くお仕事をしています。
ママの絵本がわたしは大好きです。
そして、何よりママは優しいです。
いつもポカポカの笑顔を見せてくれます。
まるでお日様みたいな笑顔です。
お日様はあんまり好きではないけど……
そんなママがわたしは大好きです。
「ママーあのね。わたし、保育園でお友だちができたの」
お母さんはわたしの話をいつもニッコリして聞いてくれます。
「どんなおともだちができたの?」
「おとこのこなの。とっても優しくて、一緒に絵本を読んでくれるの」
「それはよかったわね。なまえはなんていうの?」
「うーんとね、さとうあつきくん」
「そう。あつきくんって名前なのね。」
「そうなの♪ それでね、それでね。そのアツキくんとわたし絵本を作ったの」
「まぁ! 自分で絵本を作ったの?」
「そうなの♪ だからママも見て」
「わかったわ、今度お母さんにもちゃんと見せてね」
「うん♪ 絵を描いているあつきくん、すっごい必死だったの。すご〜く頑張ってた。
わたしのお話をおもしろいって言って、一生懸命に描いてくれたの。それでね。それでね。すっごい楽しかったから、わたしママと同じようにお話を作る人になる!」
「まぁ! それはいい夢だわ。ふゆならきっとなれるわよ」
わたしの夢はお話を書く人になる。
そう、いまここで決まった。
わたしのお話に絵を描いてくれるのはアツキくんがいいな……
「ママ! おしごとがんばってね! バイバイ!」
「ふゆも元気にしてるのよー」
ママと話しているのは保育園に向かう途中だったので、保育園に到着して、そこでママとはバイバイになった。
「はるせんせー! おはようございます!」
「ふゆちゃん! おはよう!」
保育園のお部屋に入って、荷物を自分の決められた場所に置いて、あることに気付いた。
「あれ!? ここに昨日置いておいたはず……」
あつきくんと一緒に描いた絵本がきのうわたしの場所に置いておいたはずなのに、無くなっていたのだ。
「アツキくんのところにあるのかな?」
わたしはアツキくんの場所にあるのかな。と思ってみたところアツキくんのところにもなかった。
「あれ!? どこいっちゃんたんだろう? わたしとアツキくんが頑張って作った絵本」
わたしはすごく焦った。
どうしよう私無くしちゃったのかな……
わたしとあつきくんが作った絵本を。
それもあつきくんは必死に頑張って描いてくれた絵を。
それがどこにもない……
わたしはどうあつきくんに言えばいいんだろ……
でも、無くしたのは正直に言ったほうがいいってママが言ってたような……
ふと、わたしの視界にあるものが見えた。
それはいっぺんの紙切れであった。
あれ!? これどこかでみたことあるような……
そして、その紙切れを辿っていくとそこにはゴミ箱があった。
え!? これって!? アツキくんとわたしが一緒に創った絵本…………
そのゴミ箱にはわたしとあつきくんの絵本がビリビリに破かれた状態だった。
わたしは絶句した。
どうして、こんなふうになっちゃったの……
とわたしが考えているとき、後ろから明るいお日様のような笑顔を向けた男の子がいた。
そう。さとうあつきくん。
わたしはあつきくんを見た瞬間にパッと体が動いて走り出した。
あつきくんから逃げるように、わたしは息もつかずに全力で走った。
大っ嫌いなお外に出た。
お日様はまだ東に傾いて、わたしに意地悪してくる様子はない。
わたしはひたすら走った。
辿り着いた先はお庭のアスレチックの一番上。
一片の紙を握りしめて。
わたしは悲しくて、悲しくて、大量の涙を流していた。
あつきくん…………せっかく一生懸命描いてくれたのにごめんね…………
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