第50話 突然の公示人たち

 晴れたその日、俺はクリクと遊びに出かけた。


 竜王の背に乗って王城に帰還してから数日。久々にクリクに会えて城下を散策。外に出て行く服は用意してもらえて、俺は小間使いからペットに昇格か?


 城下は、ブルクルタ王国の城下だけあって、街並みは綺麗だし、様々な国の商人が集まって商店街も市場も大きい。色んな種族が混在して、それを見るだけでも飽きない。


 エルフの村から来たクリクは、少年の姿のなりなのに俺より年上だから何度か城下に来ているという。クリクなりに城下での遊び方があるらしく、俺を案内してくれた。


 広場の大きな噴水の縁に腰掛け、露店で買った串焼きの肉をクリクと並んで食べる。


「うま——っい! 」


「城の食事は豪華で上品過ぎるし量はあるけど、疲れるもんね」


 同感だ。あれから数日間、アーネスの部屋でほぼ軟禁状態だった。イチャイチャしまくってた。部屋と言っても間取りがあって、ほとんど屋敷と言っていい広さ。平民の俺には世界が釣り合わない。


「やっと外の空気が吸えた感じがしてるよ〜」


「新婚生活六日目のセリフじゃないよ。今の、アーネスが聞いたら怒るんじゃない? 」


「……後生だから黙ってて」


 それは怖い。冷や汗が出る。


 二日前、俺とアーネスの署名が揃って正式に夫婦になった。クリクまで証人に名を連ねて。略式ながら結婚が成立した。


「結局、まだ誰が王位を継承するか揉めてるんでしょ? 」


 クリクが食べ終わった串をチョイチョイと振る。


「そうなんだよなー。ザリアデラ王妃は急に竜の牙を持って帰ったのはマールクとか言い出すし」


「驚きだよね、偽物用意してたりさ。で、マドリアス王子は自分よりもアイネイアス姫アーネスが相応しいとか言い出すしね」


 二度目の冷や汗が流れる。マドリアスにかけられていた魔力を封じる呪いは聖剣によって消え去った。アイネイアス姫と同等に近い魔力が解放されて、第一位継承権に相応しい立場に躍り出たのに——それなのに竜の牙を持ち帰ったのはアイネイアス姫だと主張するし。聖剣を持って呪いを断ち切った事などの功績も大きい。


 アーネスはマドリアスの使いの立場で魔星の谷に行ったのに。


「どうする? サイ、アーネスが女王になったら、サイはブルクルタ女王の夫だよ」


 クリクが小声で言った。俺は冷や汗が止まらない。


「今、それ、忘れたいんだけど……」


 と、おどおどしながらクリクから串を取り上げてゴミ箱に捨てに行こうとすると、噴水の縁に座る俺たちの目の前にドカドカと公示人たちが現れた。


 大きく「ガランガラン」と、銅の厚いベルを鳴らして広場に群衆を引きつけた。俺はクリクを引っ張り群衆の群れに紛れ込もうとしたが、既に取り囲まれたように人々がギュウギュウの壁になった。先日の大流星群に続く竜王降臨騒ぎで、城下はいつも以上に噂に敏感になっている。


「公示である! いざ聞くがよい! 我が国王陛下におかせられては、此度、アイネイアス姫のご結婚が正式に成立を迎えられた事を国民に通達すると共に——」


 いきなりの公示が始まった。広場に集まった群衆は、おめでたい祝報に大歓声が上がった。


 盛り上がりに合わせて、公示人が大きな絵巻を群衆に見せつけた。俺とアーネスの署名の様子を描いた肖像画。


「婚姻の相手は、サイ・ベクタート氏。先の竜王降臨にて、アイネイアス姫と帰還し……」


 ——お、俺の名前〜〜〜!!


 クリクが小さな身体を武器に、絵巻の前にしゃしゃり出て「よく似てるじゃないか」と言った。


 俺はクリクを引っ張り、大急ぎで噴水の中を厭わずバシャバシャに濡れながらその場から逃げた。


 完全に当事者とバレた。俺の顔と肖像画の俺が同じ顔な事に気がついた群衆の一部が騒ぎ出して、俺たちの背中を指差すと更に騒ぎが激しくなった。公示人もまさかの本人登場!? にパニック。


 城中の魔力を持った人間の変身でもして出かければ良かった!!





——————————————————


(注)現代の噴水は、パイプが上に向けてたくさん立ててあるから、危ないから噴水の中に入ったらダメだよ!遊べる噴水はオッケー!

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