第45話 ブローチを返すよ
竜王はマドリアスの魔力を封じていた呪いが解放されたのを見届けた。人間の馬鹿げた話も、満更嫌いじゃないみたいだ。なんせ、気分が暇なのだろう。
「我はもう帰る」と突然言って、テラスへの間口をさらに壊して広げ、魔星の谷へと帰っていった。
俺たちはそれをしばらく見届けた。
多くの家来達は、主要な者を残して王の間から追い出された。追って沙汰するというやつだ。
俺もトンズラしようと、テラスから庭園に降りる階段を使おうと考えた。テラスの方に向かうと、アーネスが駆けつけてくる。マズい。
「アーネス、全て終わったな。良かったな」
ムッとした顔をしているアーネスは、まだ俺に用がある様だ。だけど、平民の俺には耐えられない。役割も終わって、これ以上は身に余る……。早くここから逃げ出したかった。人生でなかなか見られない物を十分に見たし。これ以上見たくないし。
「サイ、どこに行く」
ちょっと怖い。
「いや、自分の家に戻って修繕でもしなきゃと思ってる」
「……そうか」
納得しない顔をしていながら、アーネスは返事をする。何か言いたげに口を噤んで俯くアーネスに、分かってもらえた様な気がした。
それならと……
「アーネス、これ返すよ。お前にこそ似合う物だからな」
俺は、記念品に押し付けられた青い宝石のブローチを取り出して、アーネスのブラウスの襟元に取り付けた。
うん。大きな青い宝石……アーネスの深い青い瞳と同じ色だ。
この絵を目に焼き付けて、俺はここから去って行くんだと、俺は……多分ちゃんと笑顔だ。
アーネスの顔を見ると、キョトンと気が抜けて惚けた顔をしている。
「? 」と、アーネスの眼をまじまじと覗き込むと、突然アーネスが俺の服の襟を両手で掴んで引いた。
アーネスの顔が近づいてあの時みたいに目を瞑るから……俺は魔が刺したんだ。懐かしい気がして、お別れのキスのつもりだった。
「じゃあな」と呟いて、アーネスの唇から離れたと同時に、俺に絶体絶命のピンチが訪れた。
「ガーグル、サイを捕らえよ!! 」
俺はすっ飛んでくるガーグルにあっという間に組み伏せられ両脇を背中から捕らわれると、目隠しに簀巻きまでされて何処かへ連れて行かれた。
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