第34話 竜王の再生
アーネスは、カッコいいな……
魔剣から斬撃を放ちこの場を制したアーネス。アーネスの為に魔剣を作っていた時の胸の高まりを思い出す。あんなに恍惚な気持になれたことは無い。
先代と父親もが出会わなかった君主はアーネスなのかと思いながら……サイは首を振った。もう十分自分の役割が終わったはずだ。ただ、この時をこの目で見る事が叶った事を幸いと感じた。
ググランデと側近たちは縄を掛けられた。他の兵士たちは精霊の森で自身が一度は死んだと感じた経験とググランデの強行に疲弊していたのか、為すすべもなくその様子を見守った。
やがて兵士たちは次々と武器を地面に投げ捨てた。ググランデは、地面に目を落として悔しさを滲ませた。
「やっぱり、ガーグルはアーネスの味方だったんだな」と、サイは自分が部外者だったのかと思って自嘲した。
人間たちの茶番劇に竜王が深い息を吐いたかと思うと、巨体を震わせると突き刺さった槍を体の内側から赤い炎を上げて焼き捨てた。
「とんだ邪魔が入ったな、サイホーン……」
脳に直接響くような重厚な声で竜王は俺に向かって話しかけた。
「あぁ、しかし、もう間も無く始まる」
サイの口が勝手に動いた。頭の中にサイホーンがいる。サイとサイホーンの同調が始まる……。
サイは竜王の方に飛ぶように翔けると、クリクとアーネスを竜王のところに招いた。
全ての者が天を見上げた。星々の瞬きの間を流れ星が走っては消えた。初めは間隔の間流れ星がとめどなくなると、まるで雨のように流星が絵を描き始めた。
——大流星群だ。
人間の戯事、精霊の森、魔星の谷すらも小さい……天上の大きさに心を打ちのめされる。圧倒的なスケールに囚われ事から解放される錯覚が心地いい。
大流星群が始まると精霊たちがそれに呼応して歌を歌い始めた。
アーネスもクリクも、皆、天を見つめた。壮大で幻想的な天体現象に驚きを隠せない。
「竜王、約束だ」
「そうだな。お前が精霊と契約してまでここで待ち望んだ事だ——願いを叶えよう」
竜王の古くなった身体がゴリゴリと音を立てて、天空を仰いだ。
竜王が魔力を高めた。地鳴りをも起こす竜王の魔力に、多くの者は恐れてをなして膝をついた。アーネスが再び、マールクに結界を張れと叫んだ。
サイとアーネスとクリクは、サイホーンの魔力で結界を張ると、竜王が流星の一つを引き寄せた。空気までもが塊のように震え、精霊たちの歌がそれに共鳴する。
流星は目を開けられないほどの光を放ち、魔星の谷に落ちようとしている。地に落ちる前に燃え尽きるか、または竜王の——
竜王の開いた口の上に、魔力によって速さを落としながら流星は激しく光をまき散らす。そしてゆっくりと竜王の口を通り身体の中に入った。
大流星群の一つの流星が、隕石として竜王の身体に入ると、その激しい光を保ちながら竜王の身体を燃やし始めた。
竜王の魔力と隕石の重力が相殺し合うエネルギーが魔星の谷を震わし地割れを引き起こす。サイ達も結界の中で身を守るようにお互いを抱き寄せ合う。
竜王は、胸の中にある隕石を光らせながら自らも青白く光り輝いた。
そして、竜王の身体は艶々とした青い宝石のように姿を変えた。鱗の一枚一枚がまるで宝石——そう、アーネスのブローチの青い宝石だ。
「竜王が再生したね」
クリクが目を細めて感嘆すると、アーネスが「そうだね」と柔らかく返事をした。
千年に一度の大流星群で、魔星の谷の竜王は死と再生を繰り返す。
しばらく誰もが、光り輝く竜王の身体、大流星群、歌い飛び交う精霊たち、それらの光を反射させる水晶壁に見惚れ続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます