第37話 第二王妃のお茶会

 大流星群の翌日、王宮ではユーネイアが第二王妃ザリアデラのお茶会への招待を受けていた。


 第二王妃ザリアデラは、昨日の大流星群の騒ぎで落ち着きを失っていた。天変地異の始まりか世の終わりかという噂でブルクリク王国は騒然となっていた。国境を越えても同じ騒ぎではあるのだが。ザリアデラもまた、その噂に心を飲まれていた。


おまけに昨日は地下に幽閉していたマドリアスの腹心どもが跡形もなく失踪してしまった。彼らがマドリアスに連れ出されたと分かり、急ぎユーネイアの懐柔を急ごうと画策に乗り出した。


大臣バッカラを兄に持ち、金と権力に強欲な第二王妃ザリアデラは、自分の宮のサロンに今か今かとユーネイアを待っていた。


 ユーネイアを招待するお茶会を開いたのも、他でもない。第一王子マドリアスの婚約者から、第二王子ググランデに乗り換えさせるのが目的だった。


 ザリアデラが待つサロンの豪華な扉が左右に開かれると、この日のために用意された若草色のドレスのユーネイアが現れ、優雅にお辞儀をするとザリアデラの座るテーブルに向かって歩みを進めた。


 ザリアデラは殊更大げさにユーネイアを歓迎し、お茶会をセッティングしたテーブルへと誘った。


「おぉ、よく来てくれたわ。ユーネイア姫。妾とゆっくりと二人の時間を過ごそうぞ」


「お招きいただきありがとうございます。ザリアデラ王妃さま。今日はよろしくお願いいたします」


 二人と言ったが、それぞれお付きを配している。ユーネイアに付きそう宮女は背が高くスラリとしている。やや斜めに構えてユーネイアから離れて立っていた。息子であるググランデでデレた目で追っていた事を思い出したザリアデラは、扇で口元を隠しため息を殺した。


 自分も不貞を働くほど好色家だが、それを自分の息子の姿で見ると何と不快なことか……そう思うと、その宮女を目に入れるのを避けた。


 しかし、目の前に座るユーネイアの可憐な様子には感心する。淑やかで大人しい……自分の義理の娘にして操るには十分過ぎる人形になると考えていた。


「ユーネイア姫は、このところ随分とお美しく輝いておるのぉ。私の目を潤して余りあるわ……」


「勿体ない仰りように感激で御座います。私は、ザリアデラ王妃さまのお美しさに憧れて今日のお招きを楽しみに参りました」


 ザリアデラは帝国から来たユーネイアのご機嫌を取るのはとても大事と褒めちぎる事に躊躇ちゅうちょはなかった。いずれは自分の手足になると思うと、愛情をかけるのもやぶさかではない。第一王妃よりも深く接近せねばと野心が働いていた。


 給仕が二人の前に紅茶を置くと、ザリアデラは早速本題に入った。


「のう、ユーネイア姫、妾は姫には恵まれなかった故、そなたと親しくしたくてな……このブルクルタ王国は王位継承権の争奪戦の最中になっておるが、そなたはこの国の次期王妃を約束されてこの国に来たと思ったが、如何か」


「私の様な者に務まりますか不安でございます……」


 ユーネイアはその質問に伏し目がちに紅茶のカップを絵を眺め答えた。ザリアデラはこれは懐柔する隙と捉え、ユーネイアの手首と膝にそっと指を置いた。


「その様に不安がるでない。遠く帝国から来てさぞや心細かったのであろうな。妾は味方じゃ……もし、妾の王子が王位を継承するとなれば、お主は妾の娘となろう。安心して頼るが良いぞ」


「……勿体なきお言葉でございます」


 紅茶のカップをソーサーに戻すと、ユーネイアはザリアデラが手を握ろうとするに任せた。


「そなたの婚約者第一王子マドリアスは魔力が足りぬ。政治の後ろ盾も弱い……この国の執政を摂るには相応しくない。見てくれだけの王子じゃ。どうか、そんな辛い婚約は取りやめて、我が息子と取りなしてはいがか…………」


 そこまで言うと、ユーネイアはザリアデラの手を解いて立ち上がり、ゆっくりとザリアデラから離れた。


「そなた……どういうつもりじゃ! 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る