第20話 そこに居たのかよ

 アイネイアス・クルサーガ・ダイアス。二年間同室で、女だと言うのはすぐ分かった。まさか王女だったとは。


 傲慢を絵に描いたようなアーネスの正体が分かって、俺は呆然となりつつ、王族に対し首の皮一枚繋がっている事に冷や汗をかいていた。


 選択は間違えていなかった。俺の一生など、この二年間など、吐息で吹き飛ぶ軽さの相手だった。自分との不釣り合いな身分差を突きつけられ、心の片隅の何かを失った。


 納得しながらも、俺は自分の役割を忘れてはならない。


 二回戦、三回戦と勝ち進んだ。

 優雅に、華麗に、圧倒的に。


 アーネスの魔力は模し易い。二年間いっしょに生活していた。剣筋も研究している。立ち居振る舞いすら……。


 それが俺の実力かどうかは分からないが、アーネスの姿で闘うと無敵なのかと錯覚するぐらいだ。


 舞うように剣を振りながら、相手を惑わし、それでいて無駄の無い動き。細い腕なのにやたら怪力で振るう剣も重い。


 対戦相手を次々に秒殺して、準決勝も難なく勝った。残すは、優勝候補のガーグルを残すだけだった。


 彼は傭兵経験もあり、この学校に入った時から講師レベルの実力者だ。前年、彼のせいで予選敗退で留年した学生が何人もいる。アーネスと同格なのでは? と、思う好敵手だ。ただし、アーネスにとっては。


 決勝戦、遂に、このガーグルと対峙する事になった。俺の体力は限界に近い。魔力を模す能力はあっても、魔力そのものは大して持ち合わせていない。


 それでも、アーネスは優勝しなければならない——なぜか、この時の俺はそれしか考えていなかった。


 俺の卒業がフイになったんだから、せめて相手が悪かったという勲章ぐらい欲しいものだ。しかし、それを自分で生み出さなきゃならない状況って何??


 俺は、アーネスの本気の魔力を想像して、この決勝戦に挑む。


 競技場の大歓声の中を、疲れを隠し凛としたアーネスを演じ前進した。


 俺の正面に立つガーグルは、恵まれた長身に獣のような筋肉を備えて落ち着き払っている。この大会の王者に相応しい風格だ。


 普段ならお近づきになれる相手ではなく、声を掛けられただけで縮み上がる自信ならある。しかし、なぜか、今の俺はボンヤリとしている。集中力が切れてるのか夢の中の様な気分になっている。


 興奮仕切りの観覧席、俺は再びマドリアス王子の方を見た。何度見ても俺を微笑ましく見ている。惚れるぞ、それ。


 しかし、俺の目に新たに飛び込んだのは、マドリアス王子の横に可憐に立つ美しい王女の姿……アイネイアス姫。


 白い肌に薄っすらと化粧をして、柔らかな唇に紅をさし、細い腰の下はふわりと広がるスカート。兄であるマドリアス王子の座る椅子の背もたれに寄りかかり、まるでそこだけ優麗で格別な世界になっていた。


 ——アーネス!!


 お前、何でそこに居るんだよ!!

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