第12話 その美しい官女
ググランデがユーネイアの寝所の前に着くと、そこにいた見張りの官女たちを手荒く追い返し、その扉を開け放った。
開かれた扉に反応し、寝所には足元を照らす小さな明かりが灯った。その薄明かりで室内の様子が照らされた。
繊細なレリーフの調度品が配されて、趣味の良い寝室だった。ググランデがベッドの方に目を向けると、閉じられた天蓋の中で僅かに影が動いた。
「おお、ユーネイア、私を歓迎してくれるのか……」
自分都合の声を発し、ググランデはベッドの天蓋の中に入っていく。
「誰!? 」
ユーネイアがゆっくりと身を起こして深夜の不審な人物に目を凝らした。頭髪のくせ毛、ずっくりとした背格好のシルエットで、ユーネイアにはそれが誰だか分かった。
「ググランデ様、どうしてこちらに……」
愛さぬ男からの欲を向けられ、ユーネイアの声は怯え上ずる。
「私だよユーネイア姫。明日の出立前に貴女との愛を確かめたくて、たまらずここに来たのだよ」
ググランデは不気味な笑みを浮かべ、ベッドの端から上がるとのしのしとユーネイアに近寄った。
「貴方と確かめる愛はございませぬ! 」
ユーネイアはそう言うと、近づくググランデに身動いで逃げようとすると、その先の人影が動いた。
その影はゆっくりとググランデの方を見定める。彫刻のような鼻筋と長い睫毛が薄明かりで一層濃く艶やかに映える。傾国の美女と讃えられる美しさだ。先日見覚えのある黒髪にググランデは好奇の反応を示した。
「うむ……、あの官女ではないか。いやいや、ユーネイア姫はそちらのご趣味であったか。いや一向に構わぬ。美しい者を愛でるのでしたら、私は貴方と共に楽しめますぞ……」
下劣なググリアスの雑言に、ユーネイアの身体は硬直した。だが、その隣でユーネイアの両の肩に手を添えた宮女はググランデに応えた。身体をググランデにしな垂れかかるように身を寄せ胸元に艶めかしく手を置いた。かと思うと、ググランデの期待を裏切るように、その首に下げられた首飾りを引きちぎった。
「お気持ちは嬉しゅうございますが、お断りいたしますわ。ググランデ様」
そう放たれた声は、美声であったが女性のそれとは違い低く響くものだった。その声の主にググランデは驚愕する。
「お、お前は、マドリアス! 何故ここに! ……謀ったか! 」
よく見れば肩幅が広く髪に隠れた顎の形も細くはない……
「意に添わぬ女性の寝所に夜這いをするようなお前に言われたくはない。それに私のことは『お前』ではなく『兄上』ではないのか? 」
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