3話 分かりやすい
放課後。学校前で雫ちゃんの姿を発見するや否や、あたしは飼い主に甘えるペットのように嬉々として駆け寄った。
「雫ちゃん、お待たせ!」
「それでは、帰りましょうか」
雫ちゃんは今日も変わらず愛想が悪い。
きっと周りのみんなは、あたしたちが付き合っているなんて考えもしないんじゃないかな。
もしかしたら、かわいい後輩にまとわりつく厄介な先輩ってイメージを持たれているかもしれない。
「手、つないでもいい?」
「どうぞ」
そっけない返事だけど、雫ちゃんは待ってましたと言わんばかりに指を絡めてきた。
加えて、当然のように恋人つなぎをしてくれる。
「雫ちゃん、好きだよ」
学校から離れて住宅街に入り、周りに人がいないのを確認してから囁く。
「へぇ、そうですか」
うーん、なんとも冷めた反応だ。
彼女を深く知っていなければ、間違いなく心が折れていた。
ちなみに、日によっては淡々とした口調ながらも「私もです」って返してくれる。
今回においても、適当にあしらわれたというわけじゃない。
歩いてる途中だから凝視するわけにはいかないけど、隣を一瞥すればすぐに分かる。
頬がほんのりと赤らんでいて、彼女の方もこちらの様子をチラッとうかがっていた。
「そんなに照れなくても、素直に愛してるって言っていいんだよ?」
「照れてないです」
キッパリと断言する雫ちゃん。
ここで「愛してもないです」とは言われないことが、すごく嬉しい。
「ベタベタして迷惑かな? 黙ってた方がいい?」
「え……あ、いえ、全然、そんな……もっと……」
表情はずっと同じだけど、今度は顔が青ざめる。
ちょっとからかっただけなので、ここまでショックを受けられると罪悪感がすごい。
「ごめん、冗談だから気にしないで。雫ちゃん、昔からおしゃべりするの好きだもんね」
「べつに」
「ところで、いつも寄ってるコンビニって肉まんとかおでんが一年中あるけど、そういう店舗って珍しいらしいよ」
「へぇ」
恐ろしく冷めたリアクションだ。
ただ、どうやら本人もいまの反応には思うところがあったらしい。
手を握る力がちょっとだけ強くなり、肩が当たるぐらいに距離を詰めてきた。
「どっちも好きなので、嬉しいです」
返事をやり直すように、いつもよりちょっと早口になっている。
「雫ちゃんって、あらゆる意味でかわいいよね」
「寝言は寝て言ってください」
辛辣に吐き捨てる雫ちゃん。
だけど声に棘はなくて、頬どころか耳まで赤くなっている。
途切れることなく会話して、もう間もなく家に着く。
手を離そうとしたら、それを咎めるようにギュッと握られてしまう。
「晩ごはんまで、あたしの部屋で遊ぶ?」
ふと浮かんだ提案を口にすると、雫ちゃんは何度もうなずいた。
あたしの彼女は無愛想だけど、とっても分かりやすい。
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