第87話

 軽薄そうな男達が見つけた、ブラックホールの様な穴は、奥が何も見えない状況であった。


「こ、これは凄い……なんとも説明し難い……」


 カメラマンがパシパシと写真を撮っていた。


「あ、オッサン。アタシ達も記念に撮ってよー!」

「お、オッサンだと!?」


 カメラマンは何か言い返そうとするが、若者達は既に穴の側でポーズを撮っていた為、嫌々と何枚か写真を撮って上げていた。


「サンキュー! 後で写真送ってー」


 とても、フレンドリーな若者達に戸惑いながらも再び穴の写真を撮るのに集中する。


「はは、なんだこれ?」


 ニヤニヤ笑いながらカンジが穴に近付き周囲をグルリと見て回るが分かるはずも無く何周もグルグル回っている。


「オカ君、あれ何か分かるかしら?」

「恐らくですが、アケミやソラタが向こうの世界からこっちの世界に来る為の入り口だと思います……」

「そ、それじゃあの穴からどちらかが出て来るのかしら?!」


 少し焦ったプルは、穴の近くに居た人達に離れる様に伝えに行く。


(アケミとソラタのどっちかが、この穴から出て来るのかな?)


 オカは警戒しながら穴を見ていると、普通では信じられない事が目の前で起きた。


「うわっ!?」

「眩しい!!」


 ブラックホールの様な穴から光が漏れ出したと思ったら周囲一面に光が広がり始めて目が開けられない状態になった。


(何が起きている?!)


 光が周囲を包み込み、段々と収まっていく。


(ここは……)


 他の者達が目を開け周囲を見回す。


「お、おいどうなっているんだ?! さっきまで都内に居たよな!?」


 軽薄そうな男が騒ぎ始める。


「なんで、こんな森の中に俺らいるんだよ!?」

「えー、なんかヤバくない?! マジファンタジー!」

「あはは、、あんた馬鹿丸出し!」


 不思議な現象が起きている筈だが、どこか楽しげな四人組である。


「こ、こんな事が……写真写真」


 カメラマンは最初こそ戸惑って居たが直ぐにカメラを構えて周囲を撮り始める。


「いや……、驚いた……」


 カンジも、今までのニヤついた表情は一切無く辺りを見回す。


 そして、パラノーマルのメンバーも驚いている様だ。


「これが、オカが言っていた具現化した世界か?」

「恐らく、そうだね。いきなり森に来るなんて普通はあり得ない」

「なら、ここの何処かにアケミとソラタが居るのかしら?」


 周囲には草木が生い茂っており、先程居た場所とは、風景や、漂って来る匂いまでもが全然違う。


「こ、ここはどこなんですかね?!」 

「なんか、見覚えがある感じがする……」


 ダルマとフィブが場所の特定をしようと目顔をあちこちに動かす。


(ここって……いつもの所だよな?)


 オカが言う、いつもの所とはハルカと夢で会う時に最初に居る場所の事である。


「た、多分なんですけどココがどこか分かります」


 オカの言葉にヒューズが反応する。


「どういう事だい?」

「ハルカと夢で会う時は必ず、ここの場所から始まるんですよ」

「ここの場所?」

「はい。恐らくこのまま進むと、マサオさんの村に出ます」


 その言葉を聞き、パラノーマル全員が表情を変えた。


「成る程。見覚えがあると思ったわ」

「ここは、あの村なのか……」

「嫌な事を思い出すぜ!」


 少しの間干渉に浸っていると、若者達が移動を始めた。


「なんか、草しか無いしつまんなくね?」

「だな。奥に進んでみようぜ!」

「アタシ知っている。今、異世界転生したんだよ!」

「あはは、アンタ馬鹿すぎて笑うしか無いわ」


 若者達についていく様にカメラマンとカンジも歩いていく。


「ど、どうしますか?」

「ここで、考えても何も分からないし私達もついていきましょう」


 プルの言葉で移動する。


「オカ君、いつも村に行くにはこの道であっているのかい?」

「はい。ここを真っ直ぐ行くと、あの村に到着します」


 オカの言う、あの村とは思い出したくも無い出来事があった場所の為、パラノーマルのメンバーの足取りは重い様だ。


「アタシ、モンスターが出たら魔法で戦う!」

「なら俺は剣道やってたし剣術だな!」

「あはは、アンタら馬鹿すぎ」

「俺は普通に逃げるかな」


 賑やかな声で先頭を歩く若者から少し後ろをカメラマンとカンジが歩く。


「あんたは、カメラマンなのかい?」

「あぁ。普段何げ無い物を撮ったりしてコンテストとかに応募しているよ」


 森の風景をカメラに納めながらカンジの質問に答えていく、カメラマン。


「そう言う、あんたこそ何をしているだ?」

「俺は、フリーの記者よ。面白そうな事を見つけたら、それを記事にする」

「なら、今回起きた事は記事に出来そうだな」

「あぁ、もちろん記事にはするつもりだが、証拠も無いから信じては貰えなさそうだけどな」

「はは、それは間違えないな」


 この様な記事を書いて、一体誰が信じてくれるだろうか。


「そこで、カメラマンに頼がある」

「なんだい?」

「金は払うから、いい写真を撮ったら売ってくれ」

「はは、それは喜んで。まさかここで商売が成り立つなんて思わなかった」

「交渉成立だな」


 カメラマンとカンジが互いに握手する。


 そして、若者達が何かを見つけた様だ……

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