第44話

「よし、社会人としての第一歩を踏み出すぞ!」


 本日は四月の初日であり、初出社の日でもある。


 オカは新しく新調したスーツを着て家を出た。

 電車で一時間程揺られて最寄駅に着き十分程歩く。

 すると、ボロそうなビルが建ち並ぶ中、一層ボロいビルの前にオカは止まる。


「ここか……?」


 あまりにも崩れそうな外観にオカは二の足を踏む……。


「しょ、初日なんだし元気良く行かないとな!」


 ボロくない、大丈夫だ、と自身に言い聞かせる様に大きな声を出して、ビルの中に入って行く。


「このビル、エレベーター無いのかよ……」


 気合いを入れて踏み出した足は、そのままバックする様に後ろに踏み出す。


「おい、なにやっているんだよオカ」


 声に反応して、オカは後ろを振り向くとスーツを着たダルマが居た。


「ダルマか」

「早く入ろうぜ」

「ここエレベーター無いぞ?」

「え!?」


 ダルマは途端嫌な顔をしてビルを見上げる。


「ボロいな……」

「帰るか?」

「……いや、ヒューズさんが俺を待っている!」


 そう言うとダルマは肩で風を切りながら階段を登って行く。


「しょうがないか……」


 オカもダルマの後を追って階段を登る。

 プルが構えた会社は3階にあるので、それ程上の階では無いのだが、やはり疲れるものは疲れる。


「はぁはぁ……着いた……」


 ダルマは膝に手を着き息を整える。


「毎日、階段かよ」


 3階のフロアーには、いくつかの会社が入っており、パラノーマルの表紙を探す。


「お、ここだな」


 ノックした後にドアを開ける。


「おはようございます」


 扉を開けると既にフィブが着いて居たのかソファーに座って居た。


「ボロいな……」

「あぁ、そして狭いな……」


 会社のオフィスとしては、とても狭く全社員の六人が入れば息苦しさを感じる程だろう。


「ダルマが来た事によって圧迫感が……」

「おい、フィブ! どう言う事だ!」


 すると、再びドアが開く。


「あら、来て居たのね」


 社長のプルの登場である。


「「今日からよろしくお願いします」」

「ふふ、二人共よろしくね」


 挨拶も済ませて、それぞれがソファーに座り込む。


「これで全員ね」

「え? ヒュ、ヒューズさんは?」

「あぁ。ヒューズ君とパーク君の二人は、まだ前職を辞めてないのよ」


 どうやら、二人は仕事の引き継ぎなどの理由で四月入社に間に合わなかった様だ。


「なるほど……」

「だから会社としては貴方達三人の方が先輩になるわね」


 プルはおかしそうに笑う。


「それでは改めて、ようこそパラノーマルへ。三人共入社おめでとう、歓迎するわ」


 プルが両手を広げて、ややオーバーリアクションで歓迎してくれる。


「これで俺達も新社会人か」

「ダルマはニートだっただけ……」

「う、うるせぇ!」


 三人は初の社会人となり、不安もあるが、やはり気心知れた仲間と仕事が出来る為、不安より楽しみの方が優っている様だ。


「それじゃ、早速なんだけど仕事があるわ」


(お、いきなり仕事か。何するんだろう?)


「仕事の前に聞きたいんだけど三人の中で車の免許持っている人いるかしら?」


 三人を見てみると、ダルマだけが手を上げていた。


「運転手は私とダルマ君か……。一人よりはマシね」


 三人に聞こえない程度に呟くプルは、改めて三人を見渡す。


「それじゃ、悪いんだけど今から出張するわよ」

「「「……え?」」」


 プルの突拍子も無い発言に三人は頭が付いてきて無い様だ。


「出張ってどういう事ですか?」


 三人を代表してオカがプルに尋ねる。


「今日の夜から出発して泊まりがけでする仕事よ」


(しょ、初日でいきなりか!?)


「三人共、少し驚いている様だけど記事のネタを書くには場所や時間など関係無しに行かないと」


 正論である。都内近郊だけで超常現象のネタを探すより全国で探した方が勿論記事に出来る内容は多いだろう。


「そういう事だから、今から家に帰って夜に再度集合よ」


(だったら、そもそも集合を夜にしてくれれば……)


 もっともな意見だが、プルはブルなりに気を使って、社会人としての初出勤を通常のサラリーマンの時間帯に合わせたらしい。


「あ、あの。どこ行くつもりなんですか?」

「ふふ、今回は……」


 プルの言葉に三人が驚く。


(け、結構遠く無いか?)


 だからこその、夜に車で出発なのだろう。


「うちの会社余裕が無いから人数が多い場合は車の方が安上がりなのよ」


 少し申し訳無さそうにして三人に謝るプル。


「何の記事のネタを探しに行くの……?」


 プルの質問に対して、他の二人も気になっていた為黙り込む。


「その件は車の中で話すわ。どうせタップリと時間があるし」

「も、もしかして俺とプルさんで運転するんですか?」


 答えの分かりきっている事をダルマが聞く。


「そうなるわね」


 最高の笑顔でプルが頷く。


 すると、ダルマを挟む様にして座っていたオカとフィブはダルマの肩に手を置き一言ずつ話す。


「ダルマ、運転キツイと思うが頼むな」

「ダルマファイト……」


 ダルマは諦めた様に項垂れた……。


「三人共、今から帰って少しでも睡眠を取って来て頂戴。特にダルマ君は」


 夜に再集合する為、折角出勤した三人だったが、家に帰宅して外泊の準備をする事にした。

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