第136話
「――黒炎・焔鬼」
そう呟いた焔の妖力は、凄まじい圧力を得てその場を押し潰す。全ての重力が倍となり、焔以外の者たちは片膝を地面に付けた。それは妄鬼とて例外ではない。
「……」
「くっ……(動けない。これ程とは)」
片膝を付く妄鬼の前へと歩を進め、焔は見下すように冷たい視線を妄鬼へと向ける。その視線を受ける妄鬼は頬を冷や汗を伝いながらも、平然を装うようにして焔へと言葉を投げた。
「これはこれは焔様、私にこのような事をしてはいけませんよ?貴方を排除するように命じられたのは、貴方の父君でもある覇鬼様でもあるのですから」
「……」
一度眉が揺れたが、すぐに焔は刀を振り上げる。炭化しているといっても、纏い状態である焔の一撃を喰らえば、同じ黒騎士である妄鬼でも致命傷となるだろう。それを理解している妄鬼は、なんとかして現状を打破しようとする。
並べられる言葉は薄っぺらで、傍らでそれを聞いている蒼鬼は膝を付きながらも拳を強く握る。微かに上がった蒼鬼の妖力を感じた焔は、気配だけを蒼鬼へと向けつつ妄鬼を見据える。
「――それに貴方が私の事を葬れば、すぐに覇鬼様の編成した部隊が人間界へと突入する手筈となっております故」
「……」
妄鬼が不敵な笑みを浮かべながら、焔の事を見上げてそう言った。刀を振り上げていた焔は、やがてゆっくりと刀を下げる。その行動に反応を見せる妄鬼に対し、近くで眺めていた蒼鬼は奥歯を噛み締めていた。
「(駄目だ、兄者よ!その者は父上と命とあらば仲間を裏切る卑劣な存在。妄言を好み、聖者の血肉を喰らう者。そんな者の言動を聞いてはならない!焔鬼よっ、その者の言葉を聞いては……――)」
蒼鬼が圧し掛かる重力に抗いながら、焔へと視線を向けて声を出そうとした。だがしかし、蒼鬼がそう言おうとした直後に焔は動いた。
「――!?」
焔は下ろしたはずの刀を薙ぎ払い、妄鬼の首を落とした。焔は目を細め、落ちた首を見据えて口を開いた。
「悪いな妄鬼。オレにあいつの存在は無意味だ。……あいつは、覇鬼はオレの母上の仇だ。同じ血が流れている事を恨めしく思った事は無ぇよ。――蒼鬼、命令だ」
「……?」
「オレを鬼門の向こう側へ連れて行け。お前の望み通り、戻ってやる。だが一つだけ、
冷えた眼差しを向け、蒼鬼へとそう告げる焔。だが次の瞬間、鬼化している焔の前に姿を現した存在が居た。焔の妖力を辿り、紅き髪を揺らしていたのである。
「……行くの?ほーくん」
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