第110話
振り下ろした刀は、音も無く何物をも切り裂く凶器となる。そんな事はオレは知っている。だがしかし、今オレが振り下ろした刀は何も斬っていない。
それどころか、何かに邪魔されて何者も斬る事さえ出来ていない。そう思ったオレは視線を上げると、そこには目を見開いている蒼鬼の眼差しがあった。
だが少し違和感を覚えた。何故、蒼鬼はそんな動揺した眼差しをオレに向ける。
「……ごふっ……」
そう思った瞬間、オレは口から血反吐を吐いていた。何故、どうして?蒼鬼がオレを刺したのかと思ったが、すぐに理由は分かった。目の前に居る彼女が、オレの事を刺したのだと……だが、それは理解出来ない光景だった。
「どうして、お前がオレの前に現れてやがる。……蘭鬼」
そう呟いたオレの腹部に伝う痛みは、腹の中を抉られるような鈍痛に襲われる。その末に蘭鬼は、オレの事を蒼鬼から引き剥がすように蹴り飛ばした。
オレは地面を転がりながら体勢を整えて、片手で飛んで着地した。口の中が血の味で覆われる中、オレはあるはずの無い光景を見据えて声を荒げた。
「蘭鬼が生きてるはずが無ぇ。……テメェの仕業だろう、妄鬼っ!!!」
「ご名答。……いやいや、焔鬼様もご壮健そうで何より」
オレがそう言った瞬間、蘭鬼の真横に開いた亀裂。その亀裂からのらりと現れた妄鬼を見た瞬間、刀の剣先を妄鬼へ差し向けて言った。
「妄鬼テメェ、蘭鬼に何しやがったっ!?答えろっ!!」
「おやおや、焔鬼様はあまりの感動の再会にご乱心の御様子。ほら蘭鬼、感動の再会の代わりに口付けをして差し上げたら如何でしょうか?」
『……』
「おやおや、こちらはあまりの感動で言葉を失っているようですねぇ。全く困った者ですねぇ。ほら、挨拶ですよ、蘭鬼!!!」
そう告げた妄鬼の言葉に従うように、蘭鬼は無表情のままオレに
「テメェ、やりやがったな」
「はい、何をでしょうか?」
「惚けるなっ。テメェ、妄鬼に
その言葉を聞いた妄鬼は、顔を伏せてニヤリと不敵な笑みを浮かべた――。
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