第73話

 ――鬼組総本山、神埼邸。


 焔を中心にした鬼組の本部でもあり、彼が数十年以上の月日を掛けて集めた妖怪集団。その組に身を置く者たちの境遇は様々だ。

 

 命を助けられた者。

 決闘に敗北し、焔の持つ力を認めた者。

 一族を根絶やしにされた所、復讐に協力したもらった者。

 焔という存在に憧れ、恋焦がれた者。


 その様々な者たちが一度に集まり、再び鬼組の会合が行われる。鬼組に所属している者たちが一度に集まる事は早々無いのだが、それでもこの会合は今後の事を選択させる話し合いでもある。

 いくら焔が中心となっている鬼組と言えど、それは人間の集団とはあまり大差は無い。身勝手に自分の行動をすれば、それを良く思わない者たちが出現する事を避ける為の会合だ。


 ――ざわざわざわ……、ざわざわざわ……。


 総勢100を越える程の妖怪と半妖怪が集まり、鬼組の総大将である焔を待つ間に余談などで話し込んでいる。


 『焔殿はどうして招集を?』

 『なんでも急な用件があるとか』

 『はて、どんな用件であろうな?』

 『まさか次期総大将の決定かのう?』

 『馬鹿な。総大将が健全なのだぞ?それは有り得ない』


 そんな会話を耳にしながら、刹那とハヤテは目を瞑って正座をし続ける。焔が座る場所の左右に鎮座する二人は、目の前で並ぶ総勢100の妖怪たちに聞こえないように小さい声で会話をした。


 「何やら浮かない顔っスね」

 「そう見えますか?」

 「見えるっスね。気のせいかもしれないっスけど、緊張しているように見えるっス」

 「……そうですね。多少ではありますが、緊張しています」

 「それが、浮かない顔の理由っスか?」

 「はい。貴方は焔様と付き合いが長いのでしたね?参考までに、一つ聞いても?」

 「良いっスよ。俺に答えられる事なら」

 「焔様の事ですが、殺気を感じた事はありますか?いえ、向けられた事はありますか?」


 刹那の問いを聞いて、ハヤテは瞑っていた目を少し開いて思い出すように目を細めた。少し考えてから再び目を瞑り、溜息混じりに刹那に問い返した。


 「――あるっスけど。何かしたんスか?アニキは滅多な事が無いと身内に殺気を向ける事は無いっス。姐さんが何かしたのなら、すぐに謝罪をした方が良いっスよ」

 「いえ、特に私は何もしていません。ただ私は、杏嘉さんが報告があると言っただけなのです。ですが、その時に……」

 「殺気を向けられた、と」

 「はい」

 「どうだったっスか?その殺気を感じた感想は」


 ハヤテは冗談のような空気を混ぜながら問うが、刹那は目を細めて思い出して生唾を飲み込みながら言った。誰にも聞こえない声で、風の神であるハヤテにしか聞こえない程のか細い声で。


 「――思わずと身構えました」

 「……そうっスか」

 

 それを聞いたハヤテは、正座する自分の手元を見つめながら呟いた。


 「それじゃあ、今回の会合は緊張するっスね。アニキのっスから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る