第六夜「鬼組・乙女ノ会」

第51話

 ――鬼組総本山、神埼てい


 総大将である神埼焔が所有する屋敷には、遥か昔に存在した妖怪と呼ばれる類の者たちが滞在している。その鬼組内で、特に最強と呼ばれる五人の幹部。

 ハヤテ、刹那、杏嘉、綾、村正……だがその五人の実力に近い者が居た。


 「ふぅ……落ち着く」


 彼女――猫又妖怪の魅夜である。

 神埼邸の風呂は大きく、旅館にある風呂と同じ大きさを持つ。神埼邸の中央に仕切りが作られており、露天風呂も設置されている。そんな風呂にかりながら、夜空を眺める魅夜は欠伸をしていた。


 「おや、魅夜だけか。珍しいのう」

 「あ、綾。……お疲れ様、です」

 「ワシに敬語は要らんのう。同じ焔様の仲間なのじゃから、遠慮はしない事じゃ」

 「……ん、そうする」


 綾の提案を肯定した魅夜の隣で、肩まで浸かりながら息を吐く綾。隣でお湯に浸かる様子を眺めながら、魅夜は綾の胸部へ視線を向けて自分の胸部へと視線を戻す。

 

 「……」

 「何じゃ?ワシの胸をジロジロ見て。よもやそっちの趣味か?」

 「違う。……ボクはノーマル」

 「ワシは魅夜でも良いんだがのう。――あだっ」


 ニヤリと笑みを浮かべながら、魅夜へと迫ろうとした瞬間に痛がった声を出す綾。そんな綾と魅夜の間に割って入った杏嘉の姿があった。その手には桶を持っており、それで綾の頭を叩いたのだろう。


 「綾~?なぁにアタイの居ない所で魅夜に手を出そうとしてんだテメェ」

 「杏嘉もお風呂?」

 「何だ魅夜、アタイが風呂に入るのが可笑しいか?」

 「ボク、ただ『この時間帯に杏嘉もお風呂なの?』って質問のつもりだった」

 

 魅夜の言葉を聞いた瞬間、その場が一瞬凍結した。ボケのつもりだった杏嘉だが、それを察せなかった魅夜は小首を傾げている。そんな二人の様子を眺めながら、綾はやれやれと肩を竦めていた。


 「――そ、それよりも魅夜、今回は良かったな。大将に感謝するんだな」

 「(誤魔化したのう、杏嘉)」

 「何だよ、綾。何か文句でもあんのか?」

 「いんや~、別にぃ~……まぁ確かに。さっきはハヤテのおかげでもあったのう」

 「そういや、珍しかったな。あそこまであいつが声を荒げるなんて珍しいぜ?大将に関して熱いのは知ってっけど、まさか魅夜をあそこまで庇うなんてな。案外、魅夜が好きだったりしてな」

 「……?」


 魅夜が再び小首を傾げた。その場が再び凍り付いた事を杏嘉と綾だけが理解した。

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