第44話

 オレは二人を連れて廃寺から出て行き、一度彼女から距離を置いた。距離を離すと言っても、彼女の気配を見失わないようにする為の距離だ。話の内容は聞こえないにしても、彼女の一人にするのは危険だ。

 半妖という存在は妖怪内では貴重であり、通常の妖怪よりも妖力が遙かに高い。喰らえば大量の妖力を得る事が出来て、強者への道を歩む事が出来るようになる。噂で聞いた事がある内容だが、それでも狙われるのは必然だろう。


 「……さてハヤテ、刹那。お前らが集めた情報の中には、彼女の情報はあったか?」

 「彼女の情報は確かにあったっスね。けれど、少々面倒な事にはなってるっス」

 「面倒な事……?」


 オレがそう聞き返すと、ハヤテと刹那は顔を見合わせる。少々戸惑ったようにも見えたが、ハヤテの代わりに刹那が口を開いた。


 「どうやら彼女は、村の者たちから迫害を受けているようですよ」

 「迫害、ね。それは聞いてて察しは付いてたし、どうとでもなる事だな。他に何かあったか?」

 「彼女の待遇は最初は人間と同じだったようなのですが、ある出来事をキッカケに迫害の対象となったらしいですね」

 「ある出来事?」


 ――ある出来事。


 先程に彼女から聞いた話で、巨大な獣に眼前にまで迫られたって聞いたな。それが出現した後、彼女は迫害を受けたという理由が良く分からない。迫害対象となるのはその獣であって、彼女では無いだろう。


 「この村に化け物と呼ばれる存在が出現したらしいです。大きさは人間の倍で、四足歩行の獣だったそうです」

 「四足歩行か。……ふむ。ハヤテ、烏丸と一緒に山の中に調べて来てくれるか?」

 「山の中っスか?」

 「あぁ……村の奴らの情報が正しいなら、彼女の話と照らし合わせて山の中で潜伏している可能性が高い。オレの予想している対象がいるなら、姿も確認してみたいしな」

 「了解っス。烏丸って事は、刹那の姐さんはこっちに置いていくで良いっスか?」

 

 烏丸は偵察や暗殺に動くのに最適で、情報収集を加えるならハヤテを選ぶのは当然だ。刹那は同じ女性であれば、彼女と関わるのは丁度良いだろう。同性であれば、話せる事も増えるし楽だろう。


 「んじゃお前ら、頼んだ」

 「了解っスよ。――烏丸、行くっスよ」

 

 そう木の上にいる烏丸に声を掛けたハヤテは姿を消し、二つの気配は森の奥へと消えて行く。残った刹那はオレの指示を聞く前に廃寺の中へと入り、彼女と関わろうとし始める。

 微かに恐がっている彼女は、オレの姿を見せるとオレの後ろに身を隠す。


 「……おい、オレを盾にするな。悪い奴じゃないから、安心しろ」

 「…………」

 「私は刹那と申します。焔様はやる事がありますので、少しの間だけ私がお相手します。仲良くして下さいね」


 ニコリと笑みを浮かべる刹那に対して、オレの服をぐしゃっと強く握る彼女。そんな彼女の反応を見て、刹那は微かに傷付いたような表情を浮かべるのであった。

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