第22話

 「……もしもしお母さん……うん。私、今日友達の家に泊まるからご飯は大丈夫。え?学校?うん、大丈夫だよ。友達の家から借りるから。うん……うん。明日には帰るから……うん。うん、分かってる。じゃあね」

 「――電話は終わったようですね」

 「あ、はい。終わりました」


 ややドキッとした様子で携帯を握り締める茜だったが、その様子を見つめながら刹那は小さく笑みを浮かべた。笑みを浮かべられた理由が分からない茜は、刹那に疑問に思っていた事を問い掛けていた。


 「あ、あの……二つ程、聞いても良いですか?」

 「……?どうぞ」

 「じゃ、じゃあえっと……貴女は柊生徒会長ですよね?」

 「そうですが、別に最初から気付いていたのではなかったのですか?」

 「えっと、間違ってたら失礼かと思いまして……あはは」


 そう言いながら力無く笑みを浮かべる茜の事は、刹那は知らない訳ではない。自分が生徒会長である事も隠すつもりは無かったし、すぐに彼女が記憶を忘れる事を望むと思っていたのだ。

 だがしかし、彼が彼女の意志を尊重しようという事になり、記憶の消去は保留という状況へとなった。


 「それで?もう一つは何ですか?」

 「あ、はい。あの……これを聞いたら失礼かもしれませんが、生徒会長はなのですか?」

 「どちら、とは?」


 刹那はあえて繰り返すようにして問い掛けた。だがこの場でのこの質問の意図は明確であり、わざわざ聞き返す必要は無い。それは刹那も理解している事だが、茜の本意を知りたいが為に繰り返した。


 「えっと……生徒会長はその、人間でしょうか?それとも……」

 

 だが彼女がたじたじとなり始めた瞬間、刹那は肩を竦めつつ彼女の肩に手を乗せた。そして何も躊躇する事も無く、本当の事を告げたのである。


 「確かに私は人間ではありません。この家に居る者は、ほとんどの者が妖怪と呼ばれるたぐいの存在です。だから人間とは名乗るつもりはありません」

 「ほとんど?」

 「あなたが知る必要はありませんよ。正直に言えば、あなたはこちらに踏み込む必要はありません。ただの巻き込まれた人間に過ぎません。焔様もあなたの意志を尊重するとは言ってましたが、私は忘れる事をオススメ致します。あなたは……こちらに居るには優し過ぎますから」

 「(忘れた方が良い、のかな。でも……この気持ちは、何なんだろ……凄く、苦しい?)」

 

 何かを思い詰めた様子の彼女を眺め、刹那は目を細めて彼女から手を離した。やがて彼女から離れて、背中を向けながら言うのであった。


 「さて、そろそろ学校へ行きましょう。学生の本分は勉学ですよ」

 「あ、はい」


 そう返事した彼女は、刹那の後ろを慌てて追った。心の中で、微かなざわめきを感じながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る