第21話

 佳華とは放課後六時に待ち合わせをすることになった。が、さて、どうするか。昨日は勢いで虚勢を張ってしまったが果たして地球と彼女両方を救うことは可能なのだろうか。もちろん可能にするしかないしそれ以外の選択肢はないのだが現状打てる手がない。なにしろスケールが大き過ぎる。恐らく神ノ原でさえどうすることもできないだろう。一体どうすれば……。と、思案していると気づけば昼休みだ。僕は教室を出てある部室に向かう。そうあの部室だ。


「よう。雨嶋」


「……」


 ん?


「雨嶋?」


「……」


 雨嶋はなにやら凄く集中している様子だった。何かの実験をしているみたいだ。この部活が真面目に活動しているなんて珍しいこともあるものだ。


「あっ。先輩来ていたんですか。来たなら来たって言ってくださいよ」


 雨嶋はようやくこちらに気づいた。


「言ったよ。お前が気づかなかっただけだ。で、それ何の実験だ?」


「ああ。これですか。ダイナマイトです」


 は?


「そんなものを学校で作っていいのか?」


 このあほに危険物を作らせては駄目だろう。何をやっているのだ。ここの顧問は……。


「そりゃあ何に使うんだ?って訊かれた何も言えないですけど…、多分大丈夫です」


「そうか。で、それを何に使うんだ?」


「……」


 大丈夫じゃないな。これは。


「ちょっと…、そのさん…、建物でも爆破させようかと」


「犯罪だ。馬鹿野郎」


「じゃあ先輩でも爆破させようかと」


「殺人だ。大馬鹿野郎」


 やはりこいつに危険物を作らせてはいけないと心底思った。


「で、どうだったんです。佳華先輩と仲直りできましたか?デート、行けそうですか?」


 話を逸らされたな。だがそのことについては僕にも言いたいことがあったのでその話題に乗ることにした。


「その話だが上手くいったよ。我ながらあの時の僕はかっこよかったぜ」


 嘘だ。見栄を張った。


「へー」


 雨嶋はそれを見透かしたかのように頷いた。


「先輩。今度一緒に帰りませんか?」


「ああ。それはいいが……」


 佳華になんて言われるか、いや何されるかわかったものじゃない。殺されるところまではいかなくても半殺しにはされるだろう。何か策を練らないと無理そうだ。


「じゃあ今日とかどうです?」


「無理だ」


 即答した。


「そうですか……。ではまた別の日に。その時は先輩のかっこいいところ見せてくださいね」


「いいぜ」


 ん?かっこいいところ?


「何奢って貰おうかなー」


 なんて厚かましい女だ。あほなくせしてこういうところは計算高い。いい性格してやがる。だがこいつに先輩らしいことを一つもしていないのは事実だ。


「いいぜ。ジュースぐらいなら奢ってやる」


 僕に奢れるのはそれぐらいのものだ。それは過去も今も恐らく未来でも変わらない。というか変わらなかった。


「じゃあな」


「先輩」


 教室に戻ろうとする僕を雨嶋は引き留めた。


「先輩には何の力もありません。無力です。嘘もたくさんつきますし卑怯だし面倒くさいです。でも……まっすぐです。馬鹿みたいに。先輩がまっすぐなおかげで助けられた人もいるんですよ」


「お前何を――」


「ほら戻らなくていいんですか?もうすぐチャイムなりますよ」


 結局えらく意味深なことを言う後輩に何も訊くことはできなかった。大事なことを、本当に大事なことを訊くことができないのは過去も今も未来でも変わらない。変えられない。

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