第18話
放課後になった。さてまずはなぜ佳華が急に僕から距離をとったかを知るところからだ。それにはあてがある。彼女がああなったのはあいつに呼ばれて職員室に行ってからだ。つまりあいつ、神ノ原に訊けば大体の事情を知ることができるはずだ。というか聞いているのだろう?神ノ原。
「察しがいいな。お前探偵とか向いているんじゃないか」
神様はすっと現れた。景色からすっと。
「だが遅い。分からないことがあったら早めに先生のところに来い」
妙に教師ぶったことを言いやがる。
「当たり前だ。今はお前の教師だからな」
どうやらこいつの前では隠し事ができないらしい。だから嫌いだ。噓がつけないから。いつかはこいつの前でも心を読まれないようにしてやる。
「教えたついでにもう一つお前ハンカチ持ってるか?」
「持ってないけどそれが?」
「どあほ。いいか。男はいついかなるときもハンカチだけは持っておけ」
何でここまでハンカチ押してくるんだ?小学校の先生か?
「理由はいずれ分かる。お前の目で確かめろ。百聞は一見にかなわないからな。今回は特別に俺のを貸してやろう」
神ノ原はどこからかハンカチを取り出して僕に渡してきた。
「まあそれはお前の自宅から取り寄せたハンカチなんだがな」
もう慣れた。たいして驚きもしない。なにしろ神様らしいからな。僕は受け取ったハンカチをポケットに突っ込み
「教えてくれ。佳華はどうしてああなった?」
と本題に切れ込んだ。
「どうしたもこうしたも真実を教えただけさ」
「真実?」
「ああ。みんなが救われるが一人は救われない多数決みたいな真実だ」
と言って神様は語り始めた。誰にも関係があるが誰にもは解決できない未来の話を。
「まずは俺の目的についてだが能力の収集。それが目的だ」
「収集?神様がなぜそんなことを?」
「能力を利用しようとしている連中、俺は組織と呼んでいるがそいつらから能力者を守るためだ。奴らは能力者を拉致してモルモットにしている。他にも兵器に利用されたりともかく能力者が奴らに捕まったら終わりだ。だから能力者から力を奪うことによって奴らのターゲットから能力者を外しているというわけだ」
こいつ、他人の能力を奪えるのかよ。反則だ。
「全知全能たる俺の力を使えば他人の力を奪うことぐらいは造作もない。だから佳華真音の判断は正しかったと言える。奴らについて行っていたらモルモットにされていたんだからな。逃げたのは正解だ」
「成程。だからお前は彼女の前に現れたのか」
こいつは恐らく佳華の力を奪いに来たのだ。組織から狙われないようにするために。だがなぜ彼女の力を奪わない?佳華の能力を奪えば組織はこれ以上あいつを狙わないだろうしこいつは目的を達成する。なのになぜだ?
「最初はお前が随分とかっこつけていたからな。奪うに奪えなかった」
……。
「だがその判断は正しかった。佳華真音の能力は俺が手を出していいものではない。彼女の力ははっきり言って無茶苦茶だ。死んだ猫を生き返らさたり瀕死の人間を全回復させたりとこの俺でもできないことをやってやがる。彼女にはそれを使ってなさなければならないことがある」
どうやら佳華の能力は規格外の中でも規格外だったらしい。要するに凄すぎる。それでなさなければならないこととは何だ?それが僕から距離を置くようになった原因になったのか?
「ああ。恐らくな。最近、環境問題だとか地球温暖化だとかニュースでよく見るだろう?あれを放っておいたら地球は崩壊する。だから彼女にはあれを止めてもらう」
「は?」
いきなりスケールがでかい話になった。別にここまでの物語が小さい話だと言っているわけではない。能力とか出てきて既にてんやわんやだ。だが地球の話をされるとそれすら見劣りしてしまう。
「まあ正確には治療だがな。彼女の力は異常なまでの回復能力だ。それを使って地球を回復させる。だがそれにはリスクがある」
「リスク?」
「彼女が消える」
……。
「こうなったのには原因がある。地球温暖化は深刻な問題だが今すぐどうこうしなくてはならないことではない。俺のプランとしては彼女が生を全うして死ぬ直前になったらその役割を果たしてもらう予定だった。それまではこの俺が彼女を守る。そういうプランだった。だが状況が変わった。小野坂圭吾だ。お前はあいつを能力者だと思っているようだがそれは違う。奴は普通の人間だ。ただ人体実験を受けている。組織には能力者を研究してきた膨大なデータがある。それにより強化されたのだろう。もちろんそれなりの負荷がかかるがな。数日前、俺はあいつと戦った。そして引き分けた」
「引き分けた?お前は仮にも神様なのだろう。それが人間と引き分けたのか?」
「ああ。実際今の俺は俺ではない。分身だ。本体は別のところで体を休めている。それほどまでに傷ついている。あいつはこれからも強くなるだろう。つまり俺を超える。そして奴らは彼女の力に気づいている。奴らにとっては地球のことなどどうでもいいことだ。目先の利益にしか興味がないからな。超蘇生能力。奴らは欲しがるだろう。どんな手を使ってでも彼女を連れ去りに来る。そうなると組織から彼女を守れなくなる。このままでは彼女はモルモットにされ地球は崩壊する。俺はこのことを彼女に余すことなく伝えた。お前みたいに噓をつかずな。それで彼女はモルモットになる前に地球を治療する選択肢をとった。それで今に至るわけだ」
成程。頭がついていけそうにない話だがなんとか理解できたぞ。
「消えるって消えるのか」
「ああ。厳密に言うなら地球と融合するといった解釈だ」
「消えるのはいつだ」
「明日だ。明日俺の本体が復活する。そうなれば彼女を地球の中心部に送り込める。そこで融合し地球を安定させる」
だから……か。あいつが僕から距離をとったのは。あいつは僕のためを思って僕から離れた。自分に僕が惚れているとでも思っているのだろう。消えた女を想い続ける男ほど惨めなものはない。だから振った。自分を忘れさせるために。身勝手な女だ。
「もう一つ。小野坂はなぜ人体実験までした?」
「詳しくは知らないが能力者に結構な恨みがあるらしい。で、これからどうする?彼女の意思を尊重してこのままでいるか?それとももう一度寄り添うか?彼女自身はそれを望んでないだろうが」
神ノ原は僕に問う。もう答えは出ているしこいつはそれを知っているようだがそれでも問う。
「僕はな。性格が悪いんだ」
「知っている。お前の心が読めるからな」
「だから他人が望んでないことをやりたくなるんだ。だからもう一度佳華に会いに行く。拒絶されようが構わない。僕は性格が悪いからな」
「そうか。なら行って来い。幸い彼女は今日歩きだ。今から走れば間に合うかもな」
「分かった」
神ノ原にそう告げて去って行く。
さて、僕の行動は常に予想の斜め下をいく。そうやって今まで様々な人間をがっかりさせてきた。今回も例外ではない。今から走って彼女のもとへ行くのならかっこいいし主人公って感じもするだろう。だがあいにくと僕はかっこいい奴ではない。かっこ悪い奴だ。それにそんなのは主人公であっても鳴宮悠斗ではないだろう。今から使うのは物語の主人公が使うかっこいい手段ではなく鳴宮悠斗が使う卑怯な手段だ。だがそれを卑怯とだは思わない。むしろ賢い方法だと思っている。要するに本物のくずだ。
僕は校門を出た後、走るのではなく平然とタクシーを拾った。な。賢いだろう?走るより速いし疲れない。まあこういう器の小さい奴だから友達がいないのだろうがな。
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