幕間 始まりの時

「例の結果は?」


「こちらです」


「……これは」


 男の傍にいた部下の女から手渡された1つの人形を男は手にする。傍から見れば何の変哲もないただの人形だ。


「初めて見るな」


「調べましたところ、このようなものは実在しておらず、市場にも出回っていません」


 女は書類を手に淡々と告げる。女は持っていた書類を男に手渡すと、男はそれを1つ1つ確認していく。


「自作の可能性は?」


「ないでしょう。成分を調べましたところ、合成樹脂が使用されています。一般人が作れるような代物ではないでしょう」


 女がそう告げる。それを聞いて男は喜んでいるのだ。表情に大きな変化はないが、口角が僅かに上がっている。


「やっとだな」


「何がでしょうか?」


 何も知らない女は男に問う。


「いや、お前もそのうち知ることになるだろう。下がれ」


「承知しました」


 女はそれ以上男に問い詰めることはなかった。一礼をすると、女はその言葉に従順に従い、部屋を出た。


「15年……いや、16年になるか? まあ、そんなことはどうでもいい」


 女が出て行くと、男は人形を片手で撫で回すように観察する。相変わらず口元は不敵な笑みを浮かべていた。だが、女が居なくなり1人になると、それに加えて不気味さが加わった。


「ふふふ……奴も諦めが悪かったな。まさかとは思っていたが、ここまでしていたとは」


 男は喜びと嬉しさで笑い声まで漏れている。これだけの事実では、まだ断言はできないことは分かっている。だが、それでも男は男にとっての僅かな希望を見出したのだ。


 まあ、そんな希望などなくても、大きな問題はないのだけれど。


「忌々しき我が宿敵……諦めていたが、奴も消せる可能性が出てくるとはな……」


 不気味な笑みが誰もいない部屋中に響く。


「……慌てることはない。今度こそ確実に——」


 そう言うと、男は奴を嘲笑うかのようにまた笑った。



——さあ、始まりの時だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る