第259話 失われた○○年

 怠惰で怯懦で志が低く倫理が緩い一部の経営者が生き延びている。彼らはバブル崩壊に乗じて、「選択と集中」と称して、金食い虫の新事業をつぶし、気鋭の人材を追い出し、安心な既存事業を優先して保身を図った。競争やリスクに疲れはてた経営層は社内留保を積み上げる替わりに競争や開発から降りてしまった。

 経済が回復しても、投資や教育や賃上げは行わず、非正規労働者で景気の波を乗り越え、自社株買いで株主をなだめて、極力、新規事業や研究開発投資は避け続けた。後継者にも同じ傾向の人材がついた。

 社内には、すでに、積極策を取ろうとする人材はいなかった。日本を代表する大企業ですら、衰退して解体され身売りするものが現れた。

 これに加えて、大学の研究開発費を毎年1%減らし続け、低調な投資の替わりに低金利で現金をあふれさせ、国債や株や社債を日銀が買い取った。

 人材は、韓国、中国、アセアン諸国に出てライバルの技術力が上がった。最優秀層の学生は、初めから海外を目指し、安定な職が保証されない博士課程は、進学する学生が減った。博士号保持者を専門バカ扱いしている限り、まともな政策や開発投資は進まない。

 これで、技術立国が立ち行くわけがない。半導体産業は衰退し、海外技術を導入しなければ、追随できなくなっている。

 選挙に勝つ才能以外に何も持たない多くの政治家が、自分に都合がいい専門家の意見をつまみ食いして、不都合な意見は無視してきた。

 億を越える人口がいれば、そこそこビジネスは回るため、国際市場を考慮しない独りよがりなマーケティングがはびこっている。

 改善の兆しは見えない。生成型AIに依存するようになれば、自発的な改革は進まないだろう。皮肉なことにAIがまともなアドバイスを生成すれば、意外と素直にまともな方策が実行されるのかもしれない。


 パソコンの普及で、当時の中間層が賃金を得ていた職種は消え、非正規に変わった。

 AIの普及で、現在の中間層や一部の士業が賃金を得ている職種は、かなりの部分消える可能性がある。

 OSにAIが組み込まれていく時代に、検索ノウハウや情報のある場所、キーワード等は、すぐに陳腐化してAI任せになりそうな気がする。重要なのは、なんに興味を持って調べるか、検索結果が正しいか、AIを使うべきかどうか、等の判断力になると思う。



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