第61話 検査の強化は正しい

 検査件数を増やすと医療崩壊が起こるので、できるだけ検査を絞るべきだという奇妙な主張がしばらくの間専門家の間で喧伝された。

 しかし、これは色々な「大人の事情」の言い訳であって、数学的には、根拠がないように思われる。

 不安になった市民が検査を要求すると貴重な検査資源が浪費されるとか、検査人員の負担が増えるとか、重症者を鑑別する検査能力が足りなくなるとか、色々な理由付けが行われた。これらは、体制の不備とか、長年にわたる予算削減や人員削減の弊害が非常時に噴出して顕在化しただけで、検査の有効性を否定することはできない。個人防護具が足りないので多数の検体採取ができないというのも、科学とは直接関係ない。

 また、指定感染症に指定したため、無症状や軽症の感染者でも要請であれば入院隔離する法律上の制約や退院のための検査、濃厚接触者の検査などに検査が必要で、孤発の疑い例の検査が後回しにされた。


 基本的な数理疫学モデルであるSIRモデルでも、数式の形を見ただけで以下のことがわかる。

(SIRモデルの連立微分方程式を解く必要はない)


 1. 感染者の流入を抑えると感染速度は遅くなる。感染者の初期値を小さくする

 2. 感染者と未感染者の接触率を小さくすると感染速度は小さくなる。

 3. 検査数を増やして感染者を見つけて早期に隔離すると感染者の増加は少なくなる


 最近になって、やっと検査を増やす方向に動き出したが、なかなか進んでいない。

 また、検査数を制限していた、検査を受ける条件も緩和されるようだ。

 検体採取、集荷配送、検査装置の効率的な使用もボトルネックとなった。

 情報処理では、手書きメモとFAXと電話で、病院、保健所、臨床検査機関、自治体、省庁を連携させることは非常に効率が悪かった。現在のITCを使えば、全国規模で検体の収集状況や、配送状況、装置の空き状況を一元管理して集計、分析、マッチングするシステムを立ち上げることは、さほど難しくないはずが、これも整備されていない。

 そもそも、現場では、一部を除いて、そういう発想がなかったのかもしれない。


 数理疫学以外の分野のシミュレーションの専門家からも、色々な提案や分析が提案されている。宇宙物理学、プラズマ物理学、データサイエンティスト、経済学者など、微分方程式を使っている研究者は数多くいる。アナログ電子回路のシミュレータでSIRモデルを計算した猛者も(笑い)


 今日、ニュースサイトで見つけたシミュレーションは、検査を強化するほうが、自粛を強化するより効率がいいという結果を出していた。


 小田垣先生は物性物理の研究者

 www001.upp.so-net.ne.jp/rise/odagaki.php

 科学教育総合研究所 小田垣 孝

「新型コロナウイルスの蔓延に関する一考察」

 www001.upp.so-net.ne.jp/rise/images/%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E4%B8%80%E8%80%83%E5%AF%9F.pdf


 感染症の専門家が出した結論だから正しいと盲目的に信じるのは危険で、疑問に思ったらしつこく情報を探すと、別の道が見えてくることもある。

 ただし、検査の強化が必要といっても、怪しい精度の検査キットの導入は害がある。


 小説家の人曰く「私の前にPCを10台並べても、小説を10倍書けるわけではない。PCR検査も同じで、装置を増やしても、臨床検査技師がいなければ検査数は増えない」


 ロサンゼルスでは、咽頭ぬぐい液や鼻腔ぬぐい液の代わりに唾液を検体にした大規模検査を始めた。市中感染率がどのくらいか、非常に興味がある。



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