第50話 数理疫学モデルと結果論

 SIRモデル

   dS(t)/dt=-β*S(t)*I(t)


   dI(t)/dt=β*S(t)*I(t)-γ*(I(t)


   dR(t)/dt=γ*I(t)


 S(t) 感染する可能性がある人の数

 I(t) 未隔離の感染者の数

 dI(t)/dtは、単位時間当たりの患者発生数

 R(t) 隔離+死亡+回復した人の数


 β 感染率

 γ 除去率

 N=S(t)+I(t)+R(t) 総数は一定


 感染拡大の速さは、S(t)とI(t)の積に比例する

 I(0) 感染者数の初期値が大きいと感染速度が速くなる

 S(0)は全員免疫がない


 これは、エクセルでも計算できる。非専門家でも、ある程度の予測はできる。

 微分方程式の教科書の例題として載っている。

 数式処理システムのMAPLEにも例題としてサンプルプログラムがあった。

 フリー統計ソフト"R"には専門のパッケージがある。


 感染症対策の専門家は1月の早い段階で、定性的なワーストケースを予想していたはず。たぶん警告は、事態が深刻になるまで無視されたのだろう。

 厚生労働省は1月6日にはWebで新型コロナの発生を広報していた。

 ワクチン、治療薬開発開始の発表も早かった。


 感染を拡大させないためには


 対策1. I(0)を小さくする。 海外からの流入を早期に遮断する。

 対策2. βを小さくする、ヒト-ヒト接触の機会を減らす。3密を避けて感染の確率を減らす。手洗い、マスク等

 対策3. γを大きくする できるだけ早く感染者を見つけて、隔離する


 日本の場合は、対策1が遅く、対策3が実行できず、対策2だけで対応した。

 対策2は「外出自粛」、「3密集会注意」、「マスク」、「クラスタ潰し」、「手洗い、消毒」等で、初期はうまくいった。

 対策3と対策2が実行できなかったので、対策2だけでは押さえきれなくなた。


 全体 専門家の意見を取り入れるのが遅すぎた。

    リスクコミュニケーションに失敗した。

    新型コロナはたちが悪い 不顕性感染、軽症患者が多い。潜伏期が長い。

    新興感染症で、治療薬もワクチンもない。

    感染症対策の基本を実行できなかった。

    景気悪化の懸念とと感染症対策強化の優先順位を間違えた。

    危機意識の低さ(平和ボケ)と正常性バイアス

    ITC活用の遅れ(リモートオフィス)とハンコ文化による障害。

    日本の官僚は新奇インシデントには弱い。二回目からはうまくやる。

    米国CDCでもあの程度なので、日本はよくやっているほう。

    100年ぶりの本格的パンデミックなので、経験者がいない。

    関連する経済問題、社会問題が広範すぎる。

    無駄と安全余裕度を混同していた。


 対策1 新型コロナを甘く見た。インバウンドを期待した。外交的な躊躇、オリンピックへの影響, 法律の不備 特措法の改正施行の遅れ、検疫の強化の遅れ、非常事態宣言の遅れ


 対策2 緊急事態宣言の遅れで強制力がなかった。

     対策強化が1日遅れるだけでも、患者数は大きく変わる。


 対策3 行革等で感染症対策人員、設備、予算、病床を削りすぎていた。

     2009のインフルエンザ対策の成功による驕り。

     指定感染症にしたため、無症状、軽症の患者を法律上の規定で入院させた。

     チャーター機による帰国者の検疫方式を使わなかった。

     院内感染対策の準備不足と個人保護具の輸入品依存。

     発熱外来、ドライブスルー検査、隔離療養施設で無症状、軽症患者を隔離する      決断が遅れた。

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