第11話 リスクコミュニケーションとその他閑話

 パニックは、正確な情報が得られない場合に起こる。 愚かな為政者が、上から目線で大衆を見下して、パニックの防止、風評被害の防止などの理由をつけて情報の隠蔽、秘匿、捏造、虚偽情報の流布を行うと、パニックやデマの蔓延や陰謀論の発生が起こる。

 情報が得られない場合、不安を解消するために、自分が納得できる、何らかの説明があると、それを信じて不安を解消するという人間の心理的性質があるように思う。


 情報を公開するとパニックが起こるという説は、現在は否定されているが、パニックになるからという理由で情報を隠したがる人は多いようだ。


 悪い情報を嫌う管理職が危機管理のポストにを占めた場合、「縁起でもない」とか、「なんとか穏便にやり過ごそう」という風潮が広がり、対応が遅れる。また「まれにしか起こらないことに予算を使うのは無駄」とか「安全なはずだから危機対応設備や予算は必要ない」とか誤った効率至上主義の管理職も少なくない。「インフルエンザぐらいで休むな」という、根性至上主義の管理職もいまだに健在らしい。


 情報開示は、開示しても、開示しなくとも、どちらにしても責められる。

 どうせ、責められるなら、開示したほうが公共の利益になる。


 情報を得る側も、正しい情報か偽情報か、見極めるリテラシーと、正しい情報源を、普段から知っておくことが重要である。


 一番、たちの悪い情報の操作は、ある程度正しい情報を流す代わりに、重要な情報を、意識的に流さない方法である。何が隠されているか、推測するのは、非常に難しいが、疑問があれば、地道にしつこく情報を集めていると、おぼろげながら、正体が見えてくる場合もある。


 -------------老人の昔話---------------

 2003年のSARS禍の兆候を見つけたのはCNNのこぼれ話的なニュースで、中国南部の都市で、食用酢が売り切れた。謎の感染症の予防に、空調に酢を振り掛けると予防できるという噂が広がっているというものだった。

 中国政府は、クラミジア肺炎が発生したが、状況は制御できているというコメントを出した。それでも、「謎の肺炎」を探していたら、東南アジアや香港から、肺炎の発生の記事が、少しずつ出てきた。

 そして、いきなりWHOから香港への渡航延期勧告が発表され大騒ぎになった。その頃はSARSではなく非典肺炎と呼ばれていた。 しばらくの間、中国政府は、沈黙していたが、各地で非典肺炎が発生し、カナダまで飛び火し、さらに北京でも大発生が起こるにいたり、発生数と真相を白状せざるを得なくなった。


 SARSで、いまだに不気味なのは夏に突然終息し、蝙蝠とかハクビシンという説があったが、感染源の宿主が結局わからなかった点である。この事件は、中国政府のトラウマになっているようだ。


 その後時々「沙士再来、捲土重来」という誤報が何度か出たが、今回は誤報ではなかった。


 もうひとつ、不思議だったのは、当時の日本のバラエティ番組が、SARSよりもパナなんとかというカルト集団が白い布をあちこちに巻きつける事件を連日報道し続けたことであった。

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「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門 (光文社新書) (日本語) 新書 ? 2014/11/13  岩田 健太郎 (著) はお勧めらしい。

この先生は、医師で感染症の専門家。新興感染症の現場の経験者である。


 今回のCOVID-19のアウトブレイクを見ていると、米国CDC相当の機関が日本に無いのは、非常に不安である。国立感染症研究所や厚生労働省の人たちが、過労死しないかとても心配。すでに武漢からの帰国者を収容した施設で対応に当たった某官庁の職員が1名自殺している。


 感染研に研究以外に検査も開発も危機対応も、予算を減らした上に何でもかんでも押し付けるのは無茶だと思う。感染研は年1回、一般公開をするので、見学してみることをお勧めする。


 感染制御の訓練を受けた人員

 パニックの鎮圧の訓練を受けた人員

 感染症の専門家や研究者、医師、看護士

 リスクコミュニケーションの訓練を受けた広報、海外と外国人対応人員

 研究開発設備や施設(BSL4を含む)、付属病院

 検査診断機材、感染制御機材、防護具、薬品、医療器具、簡易診療所キット等の備蓄

 緊急展開手段(航空機、船舶、特殊車両等)

 通信ネットワーク、情報調査機能

 法律によって保証された予算と権限、非常時の特別権限と指揮命令系統


 を持った米国CDCのような独立機関ができることが望ましいと思う。


 保健所、地方衛生研究所、感染研、各地の検疫所、厚労省、医療関係の独立行政法人、病院、医師会、文部省/大学、学会、官邸/内閣府、防衛省/自衛隊と消防庁、警察、農水省、経産省、国交省、環境省、外務省、地方自治体、縦割りでバラバラで統一性が無い。


 日本版CDCは、発足当初はコア人材は少数で、他の人材は普段は公官庁、自治体、医療機関や研究所や大学や会社、自衛隊、警察、消防署等で勤務する人が、定期的に訓練を受けて予備自衛官のように緊急時に招集という形でもいいかもしれない。


でも、今回の騒ぎが終息したら、みんなケロッと忘れて、立ち消えになるんだろうなぁ

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