帝国動乱・神喰決戦編

第126話 帝国からの亡命者

 家に帰って来た翌日の早朝。

 俺、ゼロ、ツクヨさんは、庭で修練をしていた。

 派手な事は出来ないので、相手の腕に取り付けた布を、どちらが早く取るかと言うものだ。


 で、ゼロは早くも完敗し休憩中。

 現在は、俺とツクヨさんで修練している。

 この修練中、俺は自分の勘違いに気付いた。


 気付いた勘違いとは、原初は全てのスキルを使えると言う点だ

 実は正解であり不正解であった。

 原初が使えないスキルを、偶然にも見つけてしまったのだ。

 しかも、法則性まで見つけてしまったのだ…リエルが。


 スキルには、隠し要素があった。

 その名は習熟度。

 スキルを使う度に溜まって行くのだが、一定値を超えると進化か昇華することが判明した。


 進化したスキルなら、原初たる俺は使用可能だが、昇華したスキルは使えないことがわかった。

 例として挙げるなら、ツクヨさんの縮地が良い例だ。


 速さのスキルはいくつかある。

 例えば、ゼロは神速が使えるが、その神速が進化したものが縮地となる。

 では、ツクヨさんが持つ縮地・改はどうなのか?と言われると、あれは昇華になる。


 昇華とは、二つの意味を持っていた。

 一つは、固有スキルとして進化する点。

 もう一つは、努力の結晶である事。

 つまり昇華したスキルは、アカシック・RE・コードに記憶はされるが、努力までは引き出せないので、存在だけを認めたスキルに分類されていた。


 仮に使おうとすれば、身体がぶっ壊れる。

 最悪の場合、後遺症や命の危険すらもあった。

 ツクヨさんが言った『スキル運用がまだまだ』とは、この事を指していたのだ。


 結果、スキルの全てを昇華させているツクヨさんには勝てない。

 正確に言えば、相手の土俵では勝てないだが。

 後、もう一つ分かった事がある。


 原初は万能型オールラウンダーだが、リソースは近接格闘4割の魔法系統6割に割り振られている。

 近接型のツクヨさんとの相性はクソ悪いのだ。

 それに、原初の特性も邪魔をしていた。


 原初の特性は【神に強く、人と同等】と言う特性があった。

 レベル差やスキル差で勝てる人間はいないのだが、その差さえ埋まれば、人は原初を害せるのだ。

 何という孔明の罠だろうか…。

 そしてツクヨさんは、まさしく、害せる領域にいるわけだ。


 と言う訳で、本日も完敗しました…。


 原初とは一体何なんだろうか?

 改めて考えさせられることになった。



 朝食後、昨日決めた予定通り、午前中は冒険者ギルドへ向かう。

 ゼロやツクヨさんの事もあるので、午前中はこの用事だけで潰れるだろうな。

 そして現在、冒険者ギルドのギルマスと面談するために、執務室へと通されたのだが。


「生きてたんだな。これで、指名依頼も進むな」


「もう少し、言いかたってもんがあるだろうが…」


「知らんな。勝手に音信不通になって、こっちがどれだけ苦労したか…」


 このギルマスの言葉で、ゼロは黙り込む。

 続いて俺とツクヨさんを見て、喋った言葉に頭を抱えた。


「グラフィエルは、まぁ…ご苦労様だが、また新しい婚約者を増やしたのか?」


「あのですねぇ…俺が女性を連れていたら、誰彼構わず婚約者にしないで欲しいんですが」


「だってなぁ…英雄、色を好む…って言う位だしな」


「喧嘩売ってるんですね? いくらでも買いますよ?」


「うむ、悪かった! それで、婚約者で無いとするなら、そちらの女性は何者なんだ?」


「初めまして。ゼロの妻でツクヨ=カシマと申します」


「……ななな、なんだってぇー!?」


 ツクヨさんが名乗り、軽くお辞儀をした後、盛大に驚くギルマス。

 気持ちはわからんでもない。

 俺だってギルマスと同じ立場なら、きっと驚くと思うから。

 ギルマスが落ち着くまで待って、話を進める。


「しかし、ゼロに嫁さんがいたとはなぁ」


「良く言われます」


「そんなに驚く事かよ」


「それで、用事ってのは奥さんの事か?」


「話が早くて助かります。彼女の冒険者登録なんですけど、ちょっと事情があって」


「その事情とは?」


「彼女、俺とゼロの師匠でもあるんですよ。実力は俺たち以上なのに、一番下からと言うのも…ねぇ」


「はぁ!? お前ら二人より、この嬢ちゃんの方が強いってのか!?」


「総合点で見れば、俺、ツクヨさん、ゼロですかね。近接ならぶっちぎりでツクヨさんですが」


「マジか?」


「マジだ」


「マジですよ」


「あの…なんか凄いこと言われてるんですが」


 と言う訳で、試験が開始される。

 判断はギルマスがするが、試験官は3人となった。

 偶々いたSランク1名に俺とゼロが試験官だ。

 Sランク冒険者は、今日で自信が木っ端みじんに砕かれそうだな。


 そして試験が開始される。

 お互い構えた後、ギルマスの声によって開始されるが。


「え!?」


「はぁ!?」


 開始と同時に縮地・改で一気に詰め寄り、首筋に刃を当てるツクヨさん。

 二人の間抜けな声が、試験会場に響き渡る。


「ちょ! 今の無し! もう一回!」


「俺も…もう一度頼みたい」


「別に良いですけど…」


 そして再戦される試験だが、結果は変わらず。

 試験官であるSランク冒険者は何もできなかった。

 自信は砕かれたようで、沈んだ顔で戻ってくる。


「あんなの、どうしろってんだよ…」


「気持ちはわかりますよ…」


「俺らも瞬殺されるからなぁ…」


 俺とゼロの言葉に、驚く試験官冒険者。

 続いてゼロが試験官として出るが。


「ブフォ!」


「「ゼ、ゼローーーー!!」」


「あー、やっぱり宙を舞ったか…」


 ツクヨさん、容赦なし!

 ゼロは修練の時と同じように宙を舞った。

 それも、滞空時間3割り増しくらいで。

 ギルマスも試験官冒険者もちょっと震えている。

 そんな中、俺が対峙しするのだが。


 ドカッ!ベキッ!バキッ!

 ……ちーん……。


 まぁ、予想通り負けました。

 完膚なきまでに。

 ギルマスと試験官冒険者は、お互いに抱き合って震えていた。


「あの、そんなに怯えなくても…」


「「イエス・マム!」」


 二人は容赦のないツクヨさんに敬礼で応えた。

 尚、俺とゼロは絶賛治療中である。

 そして、その試験を見ていた野次馬達は、俺の強さを知っていた・

 結果、ツクヨさんのランクに誰も文句をつける者はいなかった。


 直ぐにこの噂は冒険者達の間で広まり、ツクヨさんは不可侵存在アンタッチャブルとして、周知された。

【蹂躙者】と【理不尽】を瞬殺した人物として、ツクヨさんにつけられた二つ名は【刃鬼】。

 刃の付く物なら、鬼のように強い事から名付けられた。


 しかし、名付けられた鬼には、別の意味もある。

 それは、鬼嫁、鬼殺し、鬼神などの意味合いも含んでいた為、本人は不本意だと叫んでいたのは言うまでもない。


 ツクヨさんのランクは、ギルマスの権限が許す最高ランクとされたが、それはどうかと思う。

 なので、午後に王城に行く事を伝えたら。


「ならば、王城で許可が出たランクにはしよう。俺の権限だとAまでしか出来んしな。報告は上げといて構わないな?」


「それは良いですけど、王家と冒険者ギルドって、そんなに親密でしたっけ?」


「過去の事も踏まえて、情報の共有はするようになったな。後は…今世の情勢だな。何かおかしい事くらい、俺でもわかってるぞ?」


「なるほど。俺が居ない間に何かあったんですね?」


「まぁ…な。最悪の場合、戦争になるかもな」


「ダグレストですか?」


「違う。あくまで冒険者経由だから、情報の信憑性は不明だが、帝国で内乱が起こりそうらしい」


「帝国で? どっかの貴族ですか?」


「さぁな。こっちでわかってるのは、内乱で反乱分子が勝ったなら、戦争が起こる可能性がある事くらいだな」


「そうですか。城で聞いて判断するしかないですね」


「なんかわかったら、教えてくれや」


「ギルマスになら、情報がくるでしょう。暫くは様子見していてください」


 そう言って、ギルドを後にする。

 時間は正午の少し前。

 昼食を取ってから、城に向かおうとしたのだが。


「クロノアス卿。陛下が急ぎとの事です。直ぐに城までご同行を」


 兵士さんが声をかけてきて、城に向かえと言う。

 馬車も直ぐに用意するとの事で、かなり急ぎらしい。


「お付きの方も、お話は通っておりますので、是非ご同行を」


 ゼロとツクヨさんも一緒で良いらしい。

 普通は緊急事態の場合、お付きは後回しの筈なのだが。

 これは非常に厄介なことが起こっているのでは?

 その考えは、見事に的中するのであった。



 城に着くと、直ぐに会議室へと通される。

 会議室にいたのは、陛下とフェル。

 そして、皇帝の3男であるロギウス・ザズ・フィン・ガズディアと一人の少女が座っていた。


「帰ってきてから早々にすまぬな、クロノアス卿」


「いえ。ですが、何故ロギウス殿がおられるのですか? それに、そちらの女性は?」


「久しいな、グラフィエル殿。少々厄介な事が起きてな。こっちは俺の妹、と言えばわかるか?」


「なるほど。皇女殿下様でしたか。お久しぶりです、グラフィエル・フィン・クロノアスです」


「シャルミナ・ザズ・フィン・ガズディアです。大お見合い大会以来ですね」


 お互いに挨拶を終え、陛下が話を引き継ぐ。


「この2名は、言わば亡命者だ。同盟国に対して、援軍を申し出て来た」


「亡命ですか? 帝国で一体何が…」


「詳しい話をする前に、各国の王達を迎えに行ってはもらえんだろうか? 事はランシェスだけでは返答できぬのでな」


「承知しました。30分ほど掛かりますが、宜しいでしょうか?」


「構わぬ。別室にはお主の婚約者達も呼んでいる。同道させるが良い」


「承知いたしました」


 と、俺が部屋を出ようとしたところで。


「おい、随分と偉そうじゃねぇか。ラフィもなんで許してる」


 ゼロが陛下に対して噛みつく。

 このクソ忙しい時に、勘弁してくれ。

 しかし、ゼロの意識は直ぐに刈り取られることになる。


「こんのおバカ! 少し黙りなさい!」


 ツクヨさんの〇獄殺がゼロに炸裂。

 ゼロは体を浮かし、ツクヨさんの攻撃を受ける。

 白目を剥き、床に倒れるゼロ。

 それを見ていた他の者達は。


「ゼロがあんな簡単に…」


「父上、彼女は何者なのでしょうか?」


「彼女の動き、少しだけしか見えなかったが、無駄が無かった」


「あの、あの、その…」


 驚愕、その一言に尽きた。

「おほほ」と笑いながら、ゼロを起こすツクヨさん。

 俺は深いため息を吐きながら告げる。


「ツクヨさんは、ゼロの暴走を止めといてもらえますか? 他の皆様は、自分が帰るまでお待ちいただければ。ご説明は後でしますので」


 この言葉で、とりあえずはお迎えを優先させると存外に告げる。

 別室で待機中だったミリア、ラナ、リーゼを連れ、各国へとゲートを繋ぐ。

 神樹国には、精霊を介して状況を伝え、レラフォード代表に準備をして貰う事にした。


 ミリア、ラナ、リーゼによって、各国代表は直ぐに準備して同行をしてくれた。

 神樹国も精霊を介して連絡をしていたので、準備は終わっていたようだ。

 40分後、会議室には同盟国の全員が集まる。


 同盟国の代表が一堂に会するのは、これが初めてではないだろうか?

 となると、事はそれほど重要なのか?

 と考えたところで部屋から出ようとして止められる。


「何故、お主が出て行くのだ?」


「え? 首脳陣の会談に自分は不必要だと思いまして」


「グラフィエル君、君は同盟の中心人物なんだけど?」


「ヴァルケノズさん、それとこれとは話が違うのでは?」


「何も違わないさ。君がいないと纏まるものも纏まらない」


「オーディール王、それは買いかぶり過ぎです」


「グラフィエル殿はもう少し、自分の立場をですね」


「レラフォード代表がそれを言いますか?」


「力ある者の意見も聞きたいのだから、いれば良い。君は本当に何処か抜けているな」


「酷いですね。フェリック皇王」


「と言う訳だ。会議へ参加しなさい」


「……2名追加しても良いですか?」


「ゼロと付き添いの女性か?」


「はい。ゼロは分かると思うのですが、彼女も相当な手練れでして。護衛も兼ねてと言う事で」


「良かろう。では、始めようか」


 陛下が代表して話、会議が始まる。

 話の内容だが、やっぱり厄介事だった。

 それも、超面倒な話。


 それは、帝国で内乱が勃発し、その主導者がジルニオラ・ザズ・フィン・ガズディア元皇太子と言うものだった。



 そして、皇女殿下であるシャルミナ・ザズ・フィン・ガズディアからの要請とは。


「どうか、同盟国から軍の派遣をして頂けないでしょうか?」


 内乱に参加して欲しいと言うものだった。

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