第102話 フレースヴェルグについて

無自覚なジゴロや好色家の疑いをかけられた、大物が集う話し合いは、一向に進まずにいた

問題としては、ヴェルグは身の安全を要求するが反発され、危険は無いと証明か説明しなければいけない事

俺への云々は、一度置いておくとしよう


・・・じゃないと、シーエンが神格通り死神になりそうだし


シーエンの不機嫌は収まっていないが、話し合いを進めて行こう


「さて、と・・・こちらは意見が割れたね。で?そっちはどうなんだい?」


「ヴェルグが危険でないと判断できれば、メナトは賛成に回るのか?」


「保留だね・・・但し、この場は退くと約束しよう」


「了解した。ヴェルグ、頼むな」


「任せて♪あ、でも・・・」


ヴェルグの視線の先にあったのは、俺を除く人達

あまり聞かれたくはないのだろうが、ここで冴える俺の頭脳!

ヴェルグの説得は出来るだろうと考えて話す


「この場にいる人達は、国に関与している者か俺に仕えてる者ばかりだから安心だ。それにな・・・こういう場合、権力を持った人が後ろ盾になると便利だぞ?・・・ですよね?陛下、王妃様」


ヴェルグの後ろ盾として、名指しされる国のツートップ

話をいきなり振られ、神の前ともあって冷や汗がだらだら

ふっふっふ・・・たまには、俺に振り回されてください

特に!王妃様は・・・ね


割と王妃様の言葉に逆らえないでいたので、ある意味で逆撃を仕掛ける俺

そんな俺に「「無茶言うな!」」と、視線を送ってくる国のツートップ

護衛達がこの場に居たら、きっと憤慨していただろう


両親の方を見れば・・・あ、口から魂出かかってね?

シーエンに視線でお願いし、身体に戻してもらおう

その後の父の言葉は「不敬罪で、我が家は終わりだな・・・」と空を見上げ、哀愁が漂っていた

陛下と王妃様がこの程度で怒るとは思わないんだけどなぁ

微妙に貴族として何処かズレてる俺であった


また混沌としそうな場であったが、俺の言葉に何かを考えていたメナトが口を開く


「・・・ラフィの言葉も一理あるな。人間側から見た意見も有用かもしれない。皆、どう思う?」


「うちは、賛成やな。視界の幅が広がりそうや」


「私も賛成ですね。今後の参考にしましょう」


「・・・・問題ない・・・」


「俺はメナトに任せた!」


「セブリーに同じく」


「我も二人に同意だ」


「良し・・なら、人の意見も精査の対象とする!」


神達の決定により、過去一で重責がかかるツートップ

自分たちの発言次第では、世界に終焉が到来するとさえ、感じている模様

そんなツートップから「「どうしてくれるんだ!!」」と言う、非難の視線が送られるが、華麗にスルー

と言うか、変に首を突っ込むからこういう事態になるんですよ、とツッコミたいが我慢、我慢


そして、いよいよヴェルグの説明が始まる



「僕が有害か無害かについてだね。その前に、一つ聞きたいことがあるんだけど・・・神達は神喰いについてどれくらい知っているのかな?」


「知っていることは、大体ラフィに話した通りだが?」


「なるほど・・・・じゃ、まずは勘違いから正そうか」


「勘違い・・ですか?」


「そうだよ、シル。神喰いは神を喰うからそう呼ばれてるらしいけど、本来は違う」


「何がどう違う?」


「神喰いが喰らうのは〝神気〟のみだよ。神格とか食べたら、浸食されちゃうよ」


ヴェルグの言葉に絶句する7柱

俺はあいつから聞いて知ってるけど


「ちょ、ちょっと待て!では、前任者たちは!?」


「彼らの目的は、一応知ってるけど今は関係ないよね?」


「・・・嘘じゃないという証拠は?」


「僕は今、神気を喰らってる?」


「・・・なるほど。では、こちらから質問です。神喰いは喰らう事を任意で行えるのですか?」


「神喰いは無理。でも、一度解放してしまえば、その後はそいつ次第かな?」


ここまでの話を聞いて理解してるのは・・・うん、予想通り俺と神達だけだな

ただ、ツートップにはある程度理解してもらわないといけないからな

問題は・・・どのようにどのくらいまで話すかなんだが

とここで、こちらの考えに気付いたヴェルグが


「え~と、この国の偉い人だよね?話の内容が今一つ分かってないよね?」


「・・・すまぬな。天上人の会話は難しくてな」


「何か、重大な話なのは理解しているのですが、大元を知らないので」


「なるほどね。じゃ、教えてあげる♪僕を創ったクソ親父が、上で色々やらかして、その皺寄せが僕にまで来てる。フェリックであったダンジョンの異変は、僕が原因。親も子もヤバいので排除したいけど、情報は欲しい。僕は僕の望みがあるから、有益であると証明したい。大まかに話すとこんなところかな?」


「大まかすぎるの・・・」


「詳しく話すと・・・ヤバいかも?」


どちら共にが合図せずとも、7柱を見回すツートップとヴェルグ

メナト達もヴェルグの説明に、渋々ではあるが認めた

逆に言えば、これ以上は踏み込むな!、と言ってるわけだ

これは、神達の不手際が知れる事への懸念ではなく、人を大事に思う神達の優しさでもあった


これ以上は、戻れなくなるぞ・・・と


貴族達と海千山千を渡り合ってきたツートップに、その意味が分からないはずもなく、二人は頷いて話を聞く


「じゃ、話を戻すね。まず、僕についての状況ね。前はあのクソ親父のせいで、神喰の使徒としてダンジョンに縛られてたんだけど、ラフィが解放してくれたんだ」


「そこ!俺はそこが知りたい!」


ヴェルグの話に食いつく俺

どうやってあの攻撃から生き残ったのか、腑に落ちなかったからだ

ヴェルグは「せっかちさん♡」と言って、場の雰囲気が一気に悪くなるが


「話進めるよー?僕は生き残ってはいないよ。クソ親父が創った肉体は消滅したから。ただ、意識だけはダンジョン内の最下層に消滅ギリギリで逃がして、肉体とのリンクも切ったから、今ここに居るわけだけど」


「・・・・まさかそれって、あいつにも同じことが出来る?」


「わかんない。クソ親父がそういった事をしているのかも知らないし」


「前途多難だなぁ・・・・」


もし、ヴェルグと同じことを出来るのだとしたら、難易度が爆上がりしてしまうんだが

しかし、メナト達は別の事をヴェルグに聞く


「ならお前は、何だと言うんだ?」


「確かに。人でもなければ、使徒でもない。魔物とも違いますね」


「今の僕は〝魔神〟に分類されるかな?神格を持ったらの話だけど」


「馬鹿な!元神喰いの使徒が我々と同類だと!?」


「えっと・・・どういうこと?」


〝魔神〟と言う知らない内容

いや、前世の知識だと、邪神より強力で神に仇なす存在ってイメージしかないんだけど

この世界では初耳だし、多分だが意味も違うんだろうなぁと思って聞いてみると


「ラフィには話してませんでしたね。〝魔神〟とは中級から上級にいる神の一種ですよ。最上級神に一番近いくせに、今の現状を楽しんでる神が殆どです。力は最上級神と変わりませんが、神格を持たないので、十全に力を使えません。強いてあげるなら、能力はあるのに無職ニートを謳歌中・・と言ったところでしょうか?」


シルは愚痴でも零すかの様に「神格は余ってるんですけどね」と呟く

要はあれだな・・働いたら負け!と言うやつなのであろう

神と言う職場はブラックなんだろうか?


思考が脱線しかけて、慌てて戻す

神はブラック?という疑惑も出たが、とりあえず横に置いて


「理解はしました。で、ヴェルグは魔神だと?」


「正確には、魔神の一歩手前。僕の場合は、神格を手にして、初めて魔神になれるから」


「力はどんなもんなんだ?」


「う~ん・・・多分、上級神クラスかな?僕の場合は、最上級になる資格が無いから」


「資格?」


「えっとね・・・魔神って神格を持たずに遊んでる神達の総称なんだよ。だから、狂ってるわけでも堕ちたわけでもない。でも、僕の場合は・・・」


「あ~、なるほど。根本が違うのか・・・つうか、何かすまん」


「気にしなくて良いよ。僕も神格が絶対に必要ではないし、さっきも言ったけど、解放はされてるから」


「具体的にどう変わるんだ?」


「解放前は、クソ親父の命令に逆らえないし、神喰いの使徒っていう鎖と言うか禊と言うか、呪いみたいなものに縛られてたわけ。本来は魂に刻み込むものなんだけど、ラフィの一撃を利用してそこだけ消滅させちゃった」


テヘ♪と可愛らしく、あざとさを感じさせながら、舌を出して片目でウィンクするヴェルグ

ちょっとイラァとしたので、こめかみに拳を押さえつけてぐりぐりしておく

某幼稚園児が母親に良くやられていたようにしておこう


とここで「近過ぎです!」とミリアからの忠告が・・・いや、嫉妬かな?

とにかく、注意されたので終了し、話を続ける


「と言う訳で、今ならクソ親父と敵対できるよ。証明は・・【ステータス】!ほら、称号の欄に使徒は無いでしょ?」


「・・・・代わりに、喰らう力と言うものがあるが?」


「あ~・・・そこはね、どうしようもなかったんだ。多分、産まれの関係。でも、発動は任意だし、対処方法も考えて来てるよ」


「どうするのですか?」


「実践した方が早いかな?確か、ラフィは僕の剣を回収してたよね?」


「したな。でも、あの剣折れてるぞ?」


「問題ないよ。返して」


「あれ、危険だしなぁ・・・返して良いものか・・・」


「危害を加えたなら、その時点で消滅させて良いからさ」


「まぁ、そこまで言うなら」


空間収納から折れた魔剣を出し、ヴェルグに渡す

メナト達も確認するが、完全に力を失った折れた剣がそこにはあった

俺から剣を受け取ったヴェルグは


「完全消滅は無理だけど、こうやって分割しちゃえば・・・」


折れた魔剣に力を移すヴェルグ

するとあら不思議!折れた剣が引っ付き元通りに!

ただ、前の様な力の波動はなかったが

しかし問題は、これを見た7柱がどう解釈するかだが


「確かに分割はされているが・・・」


「先程より強化されてませんか?」


「これ、神器と同じでっしゃろ」


問題が複雑化したように、溜息を吐く3柱

残る4柱は「どうする?」と視線をメナトに送るが


「・・・・はぁ、一つ質問だ。お前の目的は?」


「ラフィの傍にいる事」


「質問を変えよう。ラフィの傍にいて、何をする?」


「特には・・・もし、望みが叶うなら、子供は欲しいかな」


ヴェルグの言葉に、シーエンからのヤバい位の殺気

思わず俺も身構えてしまうほどの

この場にいる全員(神クラスを除く)が死を幻視しかけて


「抑えろシーエン。全員を発狂死させる気か。これ以上やるなら、私が相手になるが?」


「・・・・・わかった・・・・・」


メナトの一言により、何とか場は収まる

神クラス以外は、全員が体調に異変をきたす程であった

しかしここで、シーエンからの回復魔法が行使される

そして一言「取り乱した。すまない」と謝罪が


慌てる全員

神に謝罪される・・・否、謝罪させるなど何たる不敬か!と

その後、凹んだシーエンを持ち上げつつ、話は続き・・・


「さて、と・・・私としては、不穏分子は排除しておきたいのだが、皆の意見はどうなのかな?」


「決を採った結果、排除5要観察2ですね。ただ・・・」


「人側の意見も取り入れたい・・か」


「ええ。この場にいるのですから、発言権はあります」


「神は傲慢であってはならないか。どこまで守れているかはわからんが」


「だからこそ、この場にいる人間の意思も尊重すべきなんですよ」


言葉を交わし合う、メナトとシル

逆に意見を求められた人間側は超緊張

そして始まる、全員からの神への具申は・・・


「その前に、一つだけヴェルグ殿に聞きたいことが」


始まらなかった

代わりに質問があるという

ヴェルグも気にすることなく「何かな?」と聞き返し


「ヴェルグ殿は、地位や名誉に興味は?」


「無いね。僕には意味が無い」


「では、妻の序列には?」


「それもない。この世界のルールには従うし、ミリアちゃんが正妻でも構わないし、僕は愛人や愛妾でも構わないよ」


「あくまでも、クロノアス卿の傍に居たいだけだと?」


「ん~・・・これは話す気が無かったんだけど、僕の神格って取得出来るものが決まってるんだよねぇ」


ここでメナトの眉が動き、質問者が変わる


「それは聞き捨てならないな・・・で、その神格は?」


「狂愛。共愛も含んでるけど」


「また厄介な神格を・・・」


「どう厄介なんだ?」


俺も含めて首を傾げたのを見て、シルが説明に回る


「狂愛とは、色々と意味合いが多いからです。狂おしいほどの愛・狂うほどの愛・狂わされるほどの愛、等々。言葉遊びとしては、共にと言う意味合いも含みます」


「重たい女みたいだ・・・」


俺の言葉に男衆は全員が頷く

女性陣も少し引いてはいるが、共感できる部分もあるっぽい

そして全員がヴェルグを見るが


「言葉だけ見たら、そうなるよね。でも僕は、1番とかはどうでも良いんだ。僕の愛には、ラフィの奥さん達にその子供達も含まれるから。愛人や愛妾を作っても怒らないし、愛してあげる。でも・・・遊びは許さない」


最後に低い声で、今までの陽気さを吹き飛ばすヴェルグ

懐が大きいと言えば聞こえは良いが、地味にヤンデレ?メンヘラ?が入ってね?

貴族や商人の付き合いで、綺麗なお姉さんがお酌をしてくれるお店は浮気に入るんでしょうか?

いや、行く気は無いけどさ・・・


思考がブレまくりの俺だが、ヴェルグが本気になったらマジでヤバいからな

線引きの確認は必須事項だ

・・・・・あれ?これって、ヴェルグを愛するって意味じゃ無くね?・・・思考誘導されてるぅ!?


バッ!とヴェルグに顔を向けるとサッと顔を逸らすヴェルグ

確信犯かい!俺の両手が拳に変わり、こめかみにセットされる

ぐりぐり、ぐりぐり!

「いたたた!」と言いつつも、何処か嬉しそうなヴェルグ

どうやらMっ気もあるらしい・・・属性過多過ぎんだろ!


そしてまたもや、ミリアからの注意・・・否!強制中断が!

ミリアだけではなく、婚約者全員で強制中断に入る

その様子も何処か楽し気に笑うヴェルグ

7柱は毒気を抜かれていたが、ここで陛下が咳払いし


「神々の御方々、余・・失礼、私からの意見ですが・・・暫くは様子を見ても良いのでは?と考えてございます」


「理由は?」


「楽しそう・・・に見えるからです。余・・いえ、自分には娘がとても楽しそうに見えるのです。ならば、直ぐに結論を出すのは間違った決断ではないかと」


「もしそれで、世界が破滅に向かったら?」


「その時は、我が身命を以て止める所存です」


「覚悟はある・・・か。全員が同じ意見かな?」


メナトの言葉に、全員が頷く

何かあれば、覚悟を決めると

俺もヴェルグの性格は好ましさを感じているので


「メナト・・何かあれば、俺が止める。例え、命で精算しようとも」


「・・・・・はぁぁぁぁ。わかった。好きにしたら良いさ。元々、ラフィをこの世界で謳歌させるのが目的だしね。こちらの事情は二の次で良いさ」


その言葉の後、手をヒラヒラさせるメナト


「悪いな。この埋め合わせはするさ」


「では、早速してもらうかな」


「速攻かよ!・・・で、何?」


メナトが提示してきたのは・・レーネスを監視員としておくこと

それと、通商手形の発行

レーネスに厄介事を押し付ける代わりに、飴を用意するという事らしい

レーネス自身も「うち、頑張るでぇ!」とやる気だ

そのやる気が、監視の方か商売の方かは知らんが



話し合いの結論は、要経過観察に落ち着いた

レーネスが監視として残るが、恐らくは建前的な意味だろう

創世神を説得するための材料だな


かくして、ヴェルグは客人扱いとして、暫くは過ごす事となる

尤も、ミリア達の中では婚約者として扱うらしいが

俺もヴェルグに抗える気はしないし、まぁ良いかな


そして・・・国のツートップは、各国への通商手形の発行をするために、同盟国家へ根回しをするのだが「大変苦労した!」と、後で王城へ呼ばれて散々愚痴られた

当然ながら、父にも愚痴られた




でもね、自業自得だと思うんだ

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