第100話 想定外の訪問者

家宰が決まり、政商も暫定で決まり、一応だが家臣団の創設も来年には出来上がった9月半ば


そこから半月が経ち、10月初旬

冬前に来るブラガスの実家にアイデアの話を煮詰めていると、扉を叩く音が

声を出して、中に入る様に呼ぶとそこには


「ラフィ様、最近は執務室にこもりっ放しですね」


ミリアが少し不満ありげに立っていた

そう言えば、最近は早朝の鍛錬をし、朝食後は正式に家宰となったブラガスと今まで無理をして担当していたナリアとノーバスの間で俺を交えた引継ぎを行っていた


そう言えば、もうすぐ収穫祭か

来週だったかな?最近、日にちの感覚がずれてるな


「ごめんごめん。最近忙しくてさ。来週が収穫祭だっけ?」


「来週ではなく、3日後です」


「え?もうそんな日数なの?ヤバいなぁ・・全然終わってない」


終わってないのは、どのアイデアから実行に移すかの選定

この辺りは結構揉めていて


『全てを直ぐには無理ですから、食か娯楽か衣類か決めて下さい。その後は、その中から選別して、更に煮詰めていきましょう』


とは、ブラガスの言葉だ

彼は、某暑苦しい元テニス選手並に暑苦しくなっていた

『やればできる!』が最近の彼の口癖だ

自分に向けてか俺に向けてかは知らんがな



そう言えば、先日にウォルドとナリアが式を挙げた

我が家の従士長で筆頭家臣の一人なので、盛大な式であった

ただ今回は、貴族の結婚式ではないので問題ないと思ったが


「いやぁ、おめでたい!ウォルド殿、側室はもうお決めに?まだでしたら、我が娘はどうですかな?」


「久しぶりだな、ウォルド殿。この度はおめでとう。ザイガー男爵家の家臣、テギアドだ。覚えているとは思うが・・いや何、貴殿の仕事ぶりは中々であったし、箔も付いたのだから、我が妹との婚約はどうかとね。年も近いし、お似合いだと思うよ」


等々、エルーナ姉と同じ・・・いや、それより酷い状況が起きていた

式を挙げた直後の人に言う言葉ではないだろうに

ただナリアは、嫌な顔をせずにいつもの態度を崩さないでいたのは凄いと思うな

対するウォルドは・・・まぁ、察してくれ


更には、ブラガスの婚姻相手探しに、使用人達の婚姻斡旋

その他諸々あり、忙しかったわけだ

え?勿論、言い訳ですとも

でもな、身体を分裂とか出来ないんだから言い訳位させてくれ

しかし、ミリアの口からは


「忙しいのはわかりました。で・す・が、私達を放っておいて良い理由にはなりません。明日は午後からで良いですから、お時間を作ってください」


「・・・珍しいね。何かあった?」


ミリア達が我儘を言う事はあるが、俺の事情を汲むことが多いので、ここまで強固なのは珍しかった

我儘以外だと、強固な部分は結構あったとは、口が裂けても言えんが


「少し、頑張りすぎかと。時には休息も必要ですよ」


「う~ん、そこまで大変に見えたのか。なんかごめんな」


「いえ・・・それに、収穫祭の間はどうなさるのかも聞いてませんし」


「収穫祭は流石に休むよ。皆と街へ出かけようとは思ってたし」


「でしたら、予定は決めないといけません。皆さん、ほぼお家の予定もありますし」


「しまった!それがあったか。・・・良し、明日は1日空けることにするよ。ブラガスにも言っておく」


「わかりました。皆には私から伝えておきますね」


そう言ってミリアが退出し、ほどなくしてブラガスが戻ってくる

皆にも心配をかけたので、明日は休みにすることをブラガスに告げると


「承知いたしました。でしたら、こちらの書類に目を通して頂きたく。それと、こちらの書類は今日中に終わらせてください」


「え?マジで?流石に量が多くね?」


「これでも色々纏めたものを報告してるのですが。後、今までの分を貯め過ぎた結果です。ナリア殿やノーバス殿の苦労がわかります」


「うぐっ!返す言葉がない・・・・」


ブラガスからの口撃に敗れる俺

神の使徒とか英雄とかチート持ちとか関係ないんだよな

力で解決できない事には無力な俺であった



翌日、久しぶりにお日様の光を浴びた気がする

午前中はのんびりと街を散策

同行者はミリア、リーゼ、ラナの3人

残る5人は全員がランシェス組で、午後に合流となっている


どうせ集まるならと、クランまで出向き、リアとナユと合流し、5人で屋敷まで帰る

屋敷に帰るとリリィ、ティア、シアが先に着いて、庭でお茶会の準備を進めていた


「待たせたかな?」


「そんなに待ってませんわ。まだ、準備も終わってませんし」


「リリィはこだわり過ぎ。メイドさん達が大変じゃないの」


「ラフィ様、今日のお茶請けはシアが作りました」


「これは美味しそうだね」


リリィとティアが意見を交わし合ってるじゃれあってる間に、さり気無くアピールをするシア

その場にいた女性陣は、きっとこう思っただろう


『シア!なんて油断のならない子!』と


本当にそう思ってるかはさておき、4神獣は神獣モード(小型化)で庭を走ったり、飛んだり、日向ぼっこしたり

七天竜達も別で椅子とテーブルを用意してお茶会に参加

ナリアはメイドに指示を出し、給仕に入る

ウォルドとブラガスはクランでもう少し用事があるらしく、遅れて参加するとの事だった


10分後、用意が終わり、お茶会が開催される

他貴族を呼ぶ場合は、もっと豪勢になるが、身内でのお茶会なので、前世でもありそうな普通のお茶会であった


お茶会の話題は、収穫祭はどこを回るか、誰がどの日程で行くかなどを先に話し合うが


「今年は全員一緒で良くない?」


この一言により、あっさりと決まる

但し、一つだけ苦言される


「ラフィ、リーゼは別の日に連れて行きなさいよ。不公平だから」


「ん?・・・あ~、なるほど。確かにそうだな。そう言えば、婚約指輪もまだ渡してなかったし、貴金属店に行こうか」


「はい。皆さんの指輪は綺麗ですよね」


「リーゼにも同じ指輪を・・と、考えているんだけど・・・良いかな?」


「是非!実は、少しだけ羨ましかったんです」


リーゼとの話も進み、リリィに視線を向けるとウィンクして答えてくれた

なるほど・・これはリリィからの援護射撃ね

リーゼとはあまり時間も取れなかったから、皆が気を使った訳か

ただ、隣のテーブルではリュミナが「ご主人様!私もお嫁さんに!婚約指輪を!」みたいな視線を送ってくるが、軽くスルーしておく


お茶会もある程度進み、各々に4神獣の相手をしながら穏やかな時間を楽しんでいると


「今日はお茶会をしていたのか。お邪魔だったかな?」


「父上?それに母上達も?どうなされたのですか?」


両親が揃って、珍しく訪問してきた

メイド達が椅子とお茶を新しく用意し、一息ついてから話をしだす


「いやな、来年はルラーナだけが式を挙げる予定だったのだが、急遽変更になってな」


「そうなんですか?だとすると、ルナエラ姉が式を挙げるので?」


「いや、アルキオスだ。先方の祖父がな、体調を崩し、なるべく早めに挙げたいと申し出て来てな」


「はぁ・・何も無ければ、予定は空けられますけど」


「でだな、お前に頼みごとがあるんだが・・・」


「父上がですか?珍しいですね」


「そうだな・・・実はな、この前の馬車だが、数台譲ってはもらえんか?」


「理由をお聞きしても?」


「え~とだなぁ・・・・」


「私からお話ししましょう。グラフィエルは王族派で殿下とも仲が良いですよね?」


「はい。親友か悪友かはわかりませんが」


「全く、グラフィエルは。まぁ、それは置いときましょう。旦那様はですね『グラフィエルが殿下にあの馬車を祝儀として出すのでは?』と考えたわけです」


「そうですね。殿下には贈ろうと思います」


「そこで、風聞と言うものがあります。陛下の子は贈られて、陛下御自身は未所持となるとどうなりますか?」


「そう言う話ですか・・・貴族ってホント、見栄っ張りと言うか、相手を攻撃する材料を探すのが上手ですよね」


「グラフィエルもその貴族という事を自覚なさい」


「お説教はご勘弁下さい、母上。用件は承知しました。後日、手を加える馬車を届けてください」


「すまんな。今のクロノアス家は敵も味方も作りやすい状況になってしまったからな。本当に頭が痛い」


「ミリアさん達も、結婚後は息子を支えて下さいね。我が夫も息子も、何処か抜けているのは似た者通しで可愛くはあるんですが・・限度がありますしね」


「お義母様、ご安心ください。ラフィ様は、ご立派にされております」


母からのお説教を何とか回避した俺だが、とある事実を知ってしまった

父も母の尻に敷かれていたなんて・・・・

俺も多分、尻に敷かれるだろうが、兄上達もそうなるのであろうか?

もしそうなら、クロノアス家は尻に敷かれやすい血筋と言う事に

・・・・ある意味、衝撃の事実だな


その後、両親も交えてお茶会は続行される

そんな中、外から門番と言い合う声が聞こえてくる

父からは「任せておけば良い」と言われたが、妙に嫌な予感が

このまま放っておくと、取り返しがつかない気がしたので、門番の方へ近寄って行くと


「あっ!ラフィだ♪やっほ~、元気にしてた?」


え?なんでこの子がここに!?

門番と言い争っていた相手

それは、あのダンジョンで消滅したヴェルグだった


予想外・・いや、想定外?

とにかく、あり得ないほどの珍客に目を丸くする俺

対照的にヴェルグはニコニコと笑っている

門番は「どうされますか?」と困惑気味

そこへ、異変を察知したのか皆が集まってくるが


「な!何故、貴様が生きている!?」


「あなたは確かに消滅したはず!?」


あ、ディストとリュミナも驚いている

神獣達と残る竜達も、今の言動で何かに気付いたようだ

しかし、当のヴェルグはと言うと


「えへへ♪追いかけて来ちゃった♪」


何処の追っかけ・・いや、ストーカーだよ

そもそも、恋愛要素無かっただろ

そうツッコミたくなる衝動を抑えて


「色々と聞きたいことはあるんだが・・・」


「ん。良いよ♪答えられることは答えてあげる♪」


花が咲いた様な笑顔で答えるヴェルグ

しかし背後では、不穏な空気が渦巻く

立ち話もあれなので、中に入る様に促した所で、ウォルドとブラガスが帰宅

そして、全員で話を聞こうとして


「え?・・・周りの時が止まってる?いや、庭だけ動いてる?」


異変を察知した全員が、両親とミリア達の護衛に入る

誰もがヴェルグを犯人だと疑う

しかし、これは恐らく・・・

その考えに至った直後、空間が歪み、光が収束する

そこに現れたのは、軍神メナト、武神セブリー、龍神リュラ、獣神アシス、全智神シル、死神シーエン、商業神レーネス

まさかの女神七柱であった


半数以上の最上級神降臨に絶句する俺とヴェルグ以外の全員

まぁ、それが普通の反応だよなぁ

俺も状況は理解できていないので、混乱はしてるが

そこへ、代表してメナトが口を開く


「ラフィ、離れるんだ。その横にいる少女は、神喰いの化身だぞ」


メナトは俺が知らないと思っている?

あれ?あのダンジョン内は見えてない?

スッと横にいるヴェルグに視線を送ると


「あの中?見えてないよ。基本、ダンジョン内は確認できない仕様だから」


「仕様ってなんだよ・・・つか、どうやって生き残ったんだよ」


気の知れた友達みたいな感じで話し合う俺達

尚周りは、絶句から回復し、あたふたおろおろ

そんな中でメナトが声を出そうとしたその時、セブリーが一気に距離を詰めてヴェルグに攻撃を仕掛けるが


「ちっ!いきなりですね。相手に戦闘の意思が無いのに、必滅の攻撃は無いでしょう」


「必滅とか言いつつ、止めるのかよ。腕を上げたな・・だが!今は非常時だ。俺の邪魔をするならボコるぜ」


「やるというなら、相手をしますけど?」


しかし、背後から羽交い絞めにする二柱の神、シーエンとシル

そして、メナト、セブリー、リュラ、アシスは戦闘態勢へ

あれ?レーネスは不参加?

レーネスへ視線を送ると


「うちはラフィへの交渉役やね。納得してないんやろ?」


「納得してませんね。色々と聞きたいですし、何故、今、このタイミングなのかも知りたいですね」


「それについては説明しましょ。捕捉が遅れた、下界へ降りる手順に手間取った、その子の目的が不明やった、以上やね」


なるほどねぇ・・・簡単な話、不手際だらけと


「そっちの不手際を理由に、拘束するので?」


「痛いところつくなぁ。まぁ、そう言わんといてや。これもラフィを思ってこそなんやから」


「俺を思ってくれるなら、拘束を解いてくれませんかね?俺はヴェルグに聞きたいことがあるんですけど」


「それは、無理な相談やなぁ・・・悪いようにはせんから、暫く観戦しとき」


俺の中で何かがブチっと切れる

その切れたままの判断を俺は下す


「ディスト!セブリーに対処しろ!ハクとフェニクはアシスに対処!ブラストは援護に回れ!ルリとタマモはリュラにあたれ!コキュラトは援護だ!シンティラ、バフラムはメナトへ!アルバとリュミナは全員への支援だ!」


この号令に神達は驚きを隠せなかった

「ラフィ、よせ!」とメナトが叫ぶも


「へぇ、俺様に天竜とは言え一体で向かわせてくるなんてな。舐められたものだ!」


「神獣ごときが、生みの親に勝てるとでも」


「殺しはせぬ。だが、仕置きは覚悟してもらう!」


三柱はやる気モード

当然だが、今まで戦闘に参加できなかった者達もやる気モード

両親とミリア達、動けてる家臣達はおろおろ

そうなると、事態の収拾と打破を目的にシーエンが動こうとするが


「良いんですか?シル一柱で、今の俺を抑えられるとでも?」


「・・・ラフィ、お願い、考え直して」


シーエンから説得の声が漏れる

神界で一番親身に世話をしてくれたのはシーエンだ

次にシルとメナト辺りか

なら、二人への言葉は


「そちらが止めて、話を聞くというのなら止めますよ。俺はヴェルグから色々と聞く事があります」


「・・・・何を聞きたいのかしら?」


シーエンの代わりにシルが答える

その問いに俺は


「色々ですが、最初に聞きたいのは『何故、生きてるのか?』ですね。その答え次第によっては、質問が変化します」


「・・・・一つ、聞きます。ラフィは、前に消滅させてるのですね?」


「ほんの2か月前くらいですよ。全智神であるシルなら、理解してくれますよね?」


その言葉を最後に少しの間考え込み、数秒後にシルは俺への拘束を解いた

シーエンは驚いた顔をしているが


「シーエン、私もラフィの考えに賛同します。いくつか腑に落ちない点がありますので」


「シル・・・わかった。でも、残りはどうするの?」


「レーネスは交渉役なので、ある意味中立です。全員の意見が一致すれば、こちらに回るでしょう。問題は・・・」


「・・・脳筋軍団・・・」


シーエン・・武神、龍神、獣神をディスる

メナトが入っていないのは、説得できると踏んでいるからだろうか?

少なくとも、話を聞くとは思われているんだろうな


シルとシーエンがメナトの側へ移動し、小声で話し出す

何やら言い争ってもいるようだが、数分話し合った後、メナトは三柱を止めようとするが


「はははっ!お前、強いな!気に入った!!名前はなんて言う?」


「ディストです。武神様に褒めて頂き、恐悦至極」


「謙遜すんな。お前は後で、俺様が直々にしごいてやる!」


メナトの声が届かない神が一柱

リュラとアシスは一触即発だったが、メナトの声を聞くだけの度量はあった模様



結局、セブリーVSディストはその後、5分ほど続き、メナトによる強制介入拳骨によって、セブリーが沈黙し終了を迎えた

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