第93話 大規模ダンジョン攻略戦・お荷物編

勇者(笑)一行を連れて、52階層へ降りた俺達

降りた先は、話通りの火山帯

体感温度は、前世の夏を軽く超えている


「あっつ・・」


「あついです・・・」


北の極寒地に住んでいるリュミナはかなり暑そうだ

対するディストは何ともない様子

そして、お荷物の5人はというと・・・


「あつい・・」


「これ、猛暑どころじゃないな」


「汗が止まらないわ」


「桜花ちゃんは、まだ薄着だから良いよ。私なんて・・」


「確かに、春宮は暑そうだな」


各々に暑いと感想を述べる

現代っ子な5人は「クーラーがあるとこに行きたい」と言い、若干テンション低めだ

だから上で待ってれば良いのに・・と、ジト目で視線を送る


しかし、雑談はここまでの様だ

火系統の魔物が群れを成してやってくる

全員が戦闘態勢に入り、先制攻撃で俺が神銃をぶっ放す


溶岩の塊をした魔物の腹に穴が空く

普通ならこれで倒れるのだが、その魔物は身体に空いた穴を修復し、こちらへと接近してくる


「げっ!あれで倒せないのかよ!」


「主様。あれは流動系ですので、許容量を超えるダメージか魔石の破壊が必要です」


ディストの言葉通り、神銃で数発撃つと、許容量を超えたのか、溶岩の塊は周辺にマグマを残して消滅する

そして、魔石もマグマの中に落ち、回収不可能に

冒険者の儲けを殺しに来る魔物であった


魔石に関しては仕方ない・・と、考えを改め、先制攻撃をし、遠距離から神銃でひたすら攻撃を繰り返す

耐久力は高いが、足が遅いせいで魔物の数は減っていく

しかし、相変わらずの物量戦で、その実感が薄い

それでも少しずつは進めている


だがここで、岩の隙間から魔物の奇襲

当然、溶岩型の魔物で、近すぎて暑い

左側の魔物はディストが対応し、右側は勇者(笑)一行が対応するが


「攻撃が遅いんだよ!ッ!うわっちゃああ!!・・げっ!盾が溶けてる・・」


「阿藤、下がれ!光刃・二式!!」


「優華、支援魔法を!」


「皆、行くよ。水陣!」


「ちょ!これ、ムリムリ!小太刀とかじゃ俺が溶かされる!」


連携は普通に取れてはいた

但し、防御不可で攻撃力も乏しく、防戦一方

対するディストは、全身に魔力を纏わせ、どこぞの某世紀末救世主みたく、ア~ッタタタタして、確実に魔物を減らしていた

リュミナは俺の補佐で隣にいるが、一応勇者(笑)一行に気を配り、報告する役目になっていた


勇者(笑)一行、明らかにお荷物である

踏破スピードも確実に落ちている

前方の魔物に神銃を乱射しつつ、5人を見るが


「絶対、レベル足りてないよなぁ」


「どうしますか?」


「仕方ないから、広域殲滅魔法を使うか」


「私の役目は、あの5人を守るで良いですか?」


「頼むよ、リュミナ」


リュミナが5人の手助けに向かい、結界内に5人を確保

こちらに合図を送るが


「何をするんだ!?俺はまだ戦えるぞ!」


「そうだ!来栖の邪魔をするな!」


などと吠えている

リュミナはガン無視して、2人の首根っこを掴んだまま、溜息を漏らす

すまんリュミナ!後で労うから頑張ってくれ!


リュミナの結界を確認し、ディストに合図を送り、広域殲滅魔法【永久凍土】ニブルヘイムを使用

発動から、僅か数秒で、一面氷の世界へと変わる

当然魔物も冷凍されて氷漬けだ

5人は、発動された魔法を見て、ゴクリッ!と喉を鳴らす


リュミナが結界を解き、ディストも戦闘を止め、近寄ってくる


「主様、使ってよろしかったのですか?」


「時間が掛かり過ぎだから」


「ですが、魔力は大丈夫なのですか?」


「心配ないよ。それに、いざとなれば・・ね」


リュミナへ視線を送ると、彼女も静かに頷き


「万が一の時は、私が魔力を分けますから」


「まぁ、リュミナなら問題ないが。そうなると、リュミナは温存ですか?」


「そうだね。その分、ディストの負担が増えるけど」


「我の事は気になさらずとも。ただ・・・」


「あの5人だろ?ギリギリまでは面倒を見るさ」


と言いつつも、3人を見捨てる気は無いんだけどね

黙ってはいたが、ディストもリュミナもわかっているようで、軽く頷き、俺の考えを支持した


未だ呆然としてる5人に向けて声を掛け、足を進める

来栖と阿藤は何か言いたそうではあるが、3人に睨まれて言葉を発しないでいた


その後も【永久凍土】ニブルヘイムを使い、60階層に辿り着く

60階層の階層魔物は三つ首の犬と猫

ケルベロスとアイフェールスであった

どちらも口から火を吐き、爪と牙で攻撃してくる


まぁ、当然の如く、相手にならないのだが、少々面倒ではあった

首を3つ同時に切り落とさないと再生するのだ

それに気付くまで、少し時間が掛かってしまった

それと、当然起こった事だが


「あいつにばかり良い恰好はさせないぞ!くらえ!!光刃・三式!!」


「俺も行くぜ!風裂斬!!」


「あの馬鹿・・春宮、頼むわ」


「しょうがないね・・・風壁!水壁!」


「八木は阿藤ね。私はあの馬鹿を拾ってくるから」


考えなしに突っ込んで行く馬鹿二人とそれをサポートする3人の構図になった

現実が見えている者と見えていない者の差は大きく、馬鹿二人は致命傷ではないが大怪我をして、八木と姫崎に引き摺られながら後退

春宮の治癒魔法で回復、が一連の流れであった

この流れは、次の階層でも起こった事を先に言っておく


その後、ディストが犬を俺が猫を倒し、61階層へ

次の階層は、氷の階層であった


「火山帯の次は、氷の大地ね」


「なんというか・・悪意しか感じませんな」


「私は、暑いより寒い方が良いです」


温めて、急激に冷やす

ヒートショックで装備破壊が目的か?

何とも搦め手で攻めてくるダンジョンである

物量戦、Gの大軍、お荷物に装備破壊

この先は、どんな嫌がらせが待っている事やら


そんな事を考えながら5人の方を見ると


「さ、さむい・・・」


「ストーブ、こたつ、エアコン・・何か、暖房器具を」


「皆よりは温かい服装だけど、それでも寒いね」


「優華は良いわよ・・・私なんて、半袖よ!」


「あー、姫崎。これでも着るか?」


八木はローブっぽいマント?を姫崎に差し出す

姫崎は「好みじゃないけど」と言いつつも、差し出された服を受け取り、寒さを緩和する


そんなやり取りをしつつ進むと、ペンギン?っぽい魔物が大軍で押し寄せてきた

全員が戦闘態勢に入るが


「うっ!ちょっとかわいい」


姫崎が魔物が可愛くて、集中出来ていなかった

その間にも、ペンギンもどきはこちらに向かってくる

確かに可愛いが、魔物なので躊躇いなく神銃ぶっぱ

魔物は簡単に倒せたが・・・


「Pigiiiiiー!」


「うわっ!気持ち悪っ!」


突如としてペンギンもどきの頭が割れ、クリーチャー的な気持ち悪い魔物に変貌

強いてあげるなら某映画に出てくるエイ○アンにゾンビを足したような感じだ

しかもそれが大軍で襲ってくる


速度マシマシで距離を詰めてくるペンギンクリーチャー

遠距離から神銃で倒していくがキリが無い

さて、どうしようか?


お荷物がいなければ、力任せに中央突破して最短時間で次階層へ進むのだが、それが出来ない

氷の大地なので、永久凍土ニブルヘイムも効果が悪そう

では、他の広域殲滅魔法は?


火は氷が溶けて、海になりそうなので却下

水は効果が悪そう

土は干渉できる物が無いので魔力効率が悪い

雷は感電死しそう

風は確実に倒せるか不安が残る


結論、力任せが一番妥当

数は多いが、一匹辺りの力は大したことはない

5人でも十分対処は可能

問題は、5人の疲労と継戦能力

後は、時間かな


いつ何時、何が起こるかわからないので、なるべく早く先に進みたいのが現状だ

そうなると、どうしても広域殲滅魔法の方が早い

となれば、多少の危険は仕方が無い


「リュミナ、結界よろしく」


「わかりました。ディストも手伝って下さい」


「む、わかった。そこの2人、大人しくしろ」


リュミナが結界を構築し、ディストが馬鹿二人を拘束

結界を確認したので、雷属性の広域殲滅魔法を発動


【雷撃大瀑布】インパルスフォールズ


雷光を滝の様に自分より前が全て飲み込まれるように降らせる

視界が閃光で埋め尽くされ、高電圧で高温の雷が全てを焼き尽くす

十数秒ほど雷光が降り注ぎ、止んだ後には魔物の姿は一つも残っていなかった

ついでに魔石も残っていなかった

全て蒸発した様だ


口を開けて、またも呆然とする5人

ディストとリュミナは誇らしげだ

時間も勿体ないので5人を担ぎ、次階層まで一気に進む

その後も、階層魔物がいる階層まで同じように突破していく

5人全員が大人しかったのは、言うまでもない


70階層の階層魔物

一言で言えば、巨大なトドとマンモスに白熊

攻撃方法は氷のブレスに、牙と爪と突進


呆然自失状態から回復した馬鹿二人が特攻して負傷し、春宮が回復させる

その間に、俺、リュミナ、ディストで1体ずつ撃破

安全階層セーフティーエリアにて暫しの休憩となった


「強さが違いすぎるわね」


「私達、完全に足手まといだよね」


「足手まといなら、まだ良い方じゃね?完全にお荷物だと思う」


休憩中に3人で話をしていたが、ラフィイヤーには、はっきりと聞こえていた

来栖と阿藤も参加している様だが、黙して語らず

ただ、2人の気配は、明らかに不穏な気配を漂わせていた

嫌な予感がするが、それは的中する



「は、離せ!俺は一人でも平気だ!」


「そうだ!お前らは何かズルをしてるんだ!」


「何を馬鹿なことを・・・」


「そうでなきゃ、説明できないだろうが!」


「俺には勇者スペックのチートがあるんだ!それに、ここはゲームみたいなものだろうが!どうせ死んでも、復活できるはずだ!!」


馬鹿二人が何か喚いていた・・ディストに捕まえられて

その姿を見た仲間3人は、溜息しか出ない模様

リュミナに至っては、頭の可笑しい奴って視線を向けている

俺?俺も当然呆れている


この世界がゲーム?そんなわけ、あるはずがない

怪我をすれば血が出るし、死んだ人間は生き返らない

例外は存在するが、俺でも死ぬ時は死ぬ

だからこそ、一生懸命に生きる・・大切な、特別な人と共に

ゲーム感覚でいられる等、迷惑だ

いや、この世界に生きる人達への冒涜だ


阿藤も来栖と同じ考えなのだろう

こいつら二人は、本当に現実を認識していない

自分に都合の良い事だけしか考えられない

自分が一番上で、優遇されないと気が済まないのだろう

俺からすれば、優遇されるだけ柵が増えるだけだと思うんだがな


「ディスト、そいつ等を離してやれ。言うだけ無駄だ」


「・・・・本当に、よろしいので?」


「馬鹿は死ななきゃ治らない。・・いや、馬鹿は死んでも治らないか」


その言葉を最後に、ディストは二人を離す

少し不服そうにはしているが、馬鹿二人に対しては呆れている

これ以上助ける気も、干渉する気もない

だから最後に、一言だけ告げる


「ここから先は、自己責任だ。生き残れるように、頑張れば良いさ。・・・ああ、八木、姫崎、春宮は俺達についてくると良い。最後まで面倒はみるよ」


そう言って、再度休憩に入る

来栖と阿藤は騒いでいるが、ガン無視

八木、姫崎、春宮は、どちらについて行くか悩み中

そして30分後、来栖と阿藤は72階層へ降りて行った

残された3人は、とりあえず待機する様だ


再度休憩に入って15分後、72階層へ降りる階段から足音が聞こえ、気配が近づく


「なんだよ、あの数は!弱点属性で攻撃しても全く減らないじゃないか!俺はチート持ちなんだぞ!」


「死ぬかと思った・・・なぁ、来栖。ここは謝って、ついて行くべきだと思うんだ」


声を荒げて出て来たのは、装備がボロボロになった来栖と阿藤

会話の流れから、阿藤は少し現実を直視した様だ

そんな二人に突き刺さる5つの視線

俺は目を瞑ったまま、微動だにせず

2人は居心地が悪いのもあり、そそくさと部屋の端に行き、壁に背を預ける


約2時間後、俺は休憩を終わらせ、下層に向かう準備を始める

それを確認した5人も準備を始めるが


「あのぅ・・俺も連れて行ってもらえませんか?さっきの事は謝るんで」


阿藤がバツが悪そうに頭を下げてくる

八木達は、ホッとした表情を浮かべるが、俺はガン無視する

もう干渉しないと決めたからな

自由にすれば良いさ


何も言わない俺に業を煮やしたのか、またもや来栖が噛みついてくる


「おい!何か言えよ!俺達が謝ってるだろうが!」


お前は何も謝ってないだろうが!!

ホント、このダンジョンは精神的に疲れる

しかし、干渉しないと決めたのだ!初志貫徹!

とここで、八木達が声を掛けてくる


「クロノアスさん。阿藤の話だけでも聞いてやってもらえませんか?」


「一応、謝ってるので。私からもお願いします」


「クロノアスさんは、優しい人だと思いますし」


八木、春宮、姫崎がラストチャンスを!と詰め寄ってくる

リュミナが何か言おうとして、ディストに止められる

ディストはリュミナを抑えながらも


「(主の御意思に任せます)」


と視線を送ってくる

溜息をつき、八木達と阿藤のみを呼び、一応話を聞いてやることにした

そこでまたもや来栖が喚く


「何で俺だけ呼ばないんだ!!」


その言葉に反応したのは八木達だ

そして、至極真っ当な言葉を返される


「お前は「あんたは「来栖君は、謝ってない!!!」」」


三人同時に、ハモった言葉に「うっ!」となる来栖

仲間からもこの扱いよ

反論出来ないので、ごにょごにょと喋る来栖

俺はそれを放置して阿藤と話をする


「で、何に対しての謝罪なんだ?」


「色々と暴言を吐いて、すいませんでした!ここから先は、指示に従います。だから、置いて行かないでぇぇぇ!!」


阿藤、ガチ泣き

そして、土下座

うむ、見事な土下座だ!だが、まだ足りないな


「あのなぁ・・・俺は別に、暴言に対して怒ってるわけじゃない。いや、イラっとはしたが、本質はそこじゃない。俺が何に対して怒ってるのか、分かっているのか?」


「はい・・・いい加減に、現実に目を向けろって事ですよね?それと、この世界はゲームじゃないから、ちゃんと命と向き合えってことですよね?」


「・・・なんで分かっていて、あの発言が出来るかねぇ」


あれか?頭では分かっているけど、心が認めないとか?

阿藤は土下座したまま「すいません」と謝る

俺はガリガリと頭を掻きながら


「それで?今後どうするんだ?」


「ちゃんと、判断して行動します。とりあえず、このダンジョン内は邪魔しません。ただ、一人で待つのは勘弁してください!」


う~む・・どうも本音っぽい

未だに土下座体勢から顔を上げない阿藤

少し考えて、出した答えは


「はぁ~・・わかった。置いていかないから、指示には従えよ。それと、あの3人には謝っとけ。お前達のせいで、どれだけ苦労したか、分からなくはないだろう?」


「ありがとうございますぅぅぅ!!早速謝ってきます!」


土下座から瞬時に直立不動になり敬礼

一礼してから八木達の元に向かい、またも土下座

ひたすら謝り倒している


八木達は若干引いているみたいだな

ただ、その顔は少し嬉しそうだった

で、問題児筆頭の来栖はと言うと


「良し!これで問題は無くなったな」


全員の目がジト目になり、来栖に向けられる

お前は謝ってないし、俺から干渉しないし、助けないぞ

しかし、来栖本人は本当に解決した思っているらしく、清々しい顔をしている

耐えかねた4人は来栖に近づき


「「「「こんのおバカ!」」」」


その言葉の後、春宮と姫崎が思いっきり膝裏を蹴り、両膝を突かせ、阿藤と八木が腕を掴み四つん這いにして、土下座もどきにさせる

そして、4人同時に


「「「「このおバカが、本当に空気読まなくてすいません!!」」」」


来栖に代わり、謝罪する

来栖は不満だらけで「なんで、俺が謝らないといけない!」とか「阿藤が謝ったんだから良いだろうが!」などと、自分勝手な言葉を並べ立てる


「「「「ちょっと、黙ってろ(黙りなさい)!!」」」」


4人も、最早処置無し!と言った感じで呆れている


こうして阿藤がある程度改心し、来栖のおバカ加減が天元突破した後、次階層に降りることになった



このダンジョンは挑んだ者の精神を削り取るのが目的の様に思える気がしてならないのは、きっと俺だけではないはずだ

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