50万PV達成記念幕間 スーパーコックなエルフさん

 クラン《白銀の翼》

 グラフィエル・フィン・クロノアスをクランマスターに置く、3つあるクランの1つ

 その中に、妖精族のエルフが一人在籍している


 彼は何故、ここにいるのか?

 今回の話は、二人が出会い、クランで働くまでに至る物語




 時はクロノアス家お家騒動時の頃になる

 時期的に言えば、ルナエラ姉を陰から護衛した後

 問題が何も解決していなかった時に、ギルドから火急の知らせが各クランへと飛んだ

 各クランマスターはその知らせを受け、ギルドに集結

 執務室で知らせの内容を聞く


「少し面倒な事案だ。クロノアス領の最南にある魔物の領域で新人冒険者4名とCが1名安否不明だ。こちらに連絡があってから、既に3日が経過している」


 ギルマスの言葉に俺を含め首を傾げるクラマス3人

 全員が場所の想定は出来ている

 そこが少々特殊な場所とも知っている

 面倒な事にならないよう手を打っていることも聞いている

 では、何が面倒なのだろうか?


 いくつか思い当たるが、それを故意にした場合、ギルドから制裁が加えられる

 3人ともそれを知っている

 そこで3人同時に「「「まさか・・・」」」と声を出し、それを読んだギルマスが肯定する


「君らが想像した通りだ。・・・あの馬鹿ども、国境線を超えやがった!」


 珍しく声を荒ぶらせ「チッ!」と舌打ちするギルマス

 大変貴重な光景である

 映像保存装置があれば、撮影していただろう


 何故こんなにもギルマスが怒っているか?

 それは、安否不明の者達が入った魔物の領域が3国に渡り、広がっているからだ


 今回問題になっている魔物の領域は、ランシェス、レラフォード、セフィッドの国境線上にある

 国とギルドが協力して話し合った結果、故意に他国側の領域へ侵入するのは禁止とした


 例外は、戦略的撤退をする場合のみ、命を守る過程でどうしても越えなければならない場合は、故意でも不問とされる

 但し、事実確認されるまでは拘束されてしまうが

 ただ、今までに拘束された者はいない


 その理由は、各国に跨る領域内の魔物の強さにある

 ランシェス、セフィッドの領域は冒険者活動が盛んな為、強くてもC相当の魔物迄しか生息していない

 故に、そこまで危険ではないのだ

 では、レラフォード側は?


 レラフォードには冒険者ギルドは設置されていない

 魔物の領域自体も少ないせいでもある

 しかし、皆無と言うわけでは無く、たまに地竜達が間引いていたようだ

 ただ、今回問題になっている領域は、他国の関係もあり手付かず

 両国がレラフォードに現地調査の許可と国境境の目印を立てる旨を打診し、調査した結果・・・非常に強力な魔物達の住処になっていた


 この事に頭を悩ませたレラフォードは、ランシェス側に指名依頼を出し、対処してもらう事で合意している

 但し、指名依頼が無く立ち入る場合は、ランシェスからレラフォードへの打診が必須となっている

 無断では入れないわけだ


 後、学者達が調べた結果、恐らくではあるが、3国故郷戦場に位置する領域は元々が独立した領域では?との報告が上がっている

 理由は定かではないが、領域が何らかの変容を遂げて交わってしまった、と言うのが学者達の見解だ


 問題の領域も住み分けが出来ているらしく、国境を越えて魔物が侵入した形跡はほぼないらしい

 らしいなのは、獲物である人間を追いかけて、領域を超えた魔物の跡が複数見つかったためだ

 ただ、どれも一定距離を境に跡がないため、こちらも憶測の話ではある


 以上の事から非常に面倒な状況となっていることを再認識

 ギルマスが舌打ちしたのも仕方ない事だろう

 ギルマスは、これから国に現状を報告し、国から国へ連絡を取って交渉しなければならないのだから


 そこでふと、3人とも「「「ん?」」」と声を出す

 ギルマスが「何か質問でも?」と聞くので、3人は遠慮なく質問


「その安否不明者って、どの程度の時間を共に活動したパーティー何で?」


「あの領域って、D以上っすよね?Dなら新人じゃないっすよね?」


「そもそも、その情報はどこからですか?クロノアス領から王都となると1週間以上かかりますよね?」


 三者三様に質問をぶつける

 ギルマスは各々の質問に順に答えていく


「まず、パーティーだが・・新人はEだ。どうやったのか知らんが、C2名が問題をクリアしたんだろうな。その辺りは、後で情報を収集する。恐らくは、寄生虫冒険者だろうな」


 他クラン二人の質問を混ぜて答えたギルマスは、次に俺を見て・・溜息をつきながら答える


「と言うか・・先に情報源を聞くとか、本当にグラフィエルは抜け目ない。助けを求めに来たのは同行していたCの者で、一人だけ逃げ帰って来たようだ。情報伝達は・・・オフレコにしてくれよ?ここだけの話、ギルドには各所と連絡を取れる魔道具がある。手鏡みたいな大きさの物に文字を書き込むんだが、余程の緊急事態でない限り使われん」


 人差し指を口に当てた後、声を小さくして話すギルマス

 話し終えた後「バレたら、お前らも大変なことになるからな」と、脅しをかけるのも忘れない

 守秘義務に該当か・・と俺達は理解し、頷く



 で、ここからが本題・・誰を現地に向かわせるか?



 俺は実家のお家騒動真っ最中なので勘弁して欲しい

 だが、そんな願いも虚しく、俺に集まる視線が3つ


 あ~・・うん、こうなる気はしてたんだ

 だが!きちんと指名されたわけでは無いし断・・「グラフィエル君、頼めるかね?」る前にギルマスから指名依頼される

 他の2名も頷き、同意している


 ですよねー・・・そうなりますよねー

 5か国同盟の立役者で中心人物

 各国に何かしらの爵位や名誉職がある人物

 いざとなれば、言い逃れ出来る人物

 該当するのは俺のみ


 ただ考えて欲しい

 貴族達アホ共のせいで、実家が大変な状況だという事に

 それとなく他の二人に振ろうと画策するが


「人手がいるならうちからも出すからよ」


「白銀が主体で動いてくれや」


 なんてことを言い出す始末


「君ら、クラマスとしての自覚あんの?」


 この言葉にサッと視線を外す二人

 ギルマスの方を向くと・・彼もサッと横を向き、目を逸らす

 ビキッっとなりながら笑顔を崩さない俺

 時計の針だけがカチコチと音を刻む


 少しの沈黙の後


「わかった、わかりましたよ。引き受けます。人員はこちらが選抜で構いませんね?」


 俺は折れた

 時間は有限だし、さっさと終わらせよう

 3人は・・特にギルマスは肩の荷が下りたのか「ふぅ~」と息を吐く


「いや、引き受けてくれて助かる。勿論人選はグラフィエルに一任する。向こうには連絡を入れておくから」


 そう言ってギルマスはサブマスを呼び、調整に入る

 そんな中、思わず口から言葉が出る二人


「いやぁ、白銀が引き受けてくれて助かった。流石に、今回の件は荷が重いわ」


「全くだな。厄介な案件は白銀優先が一番だな」


 なんてことを口走る

 俺の額がビキキッってなり、二人に向けてとてもにこやかな笑顔を向けて


「あ、この二人は強制連行で。俺がいないときに、厄介事を引き受けてくれるクランが無いと困るでしょう?・・良いですよね?ギルマス?」


 この言葉にギルマスは二つ返事で快諾

 口を滑らせた二人は「「しまった!」」なんて顔をして、辞退しようとするが、時すでに遅し


 こうして、各クランのクラマス3人は共にクロノアス領へ向かう事に

 人員は一応、白銀からメインで出し、強制連行となったクラマス二人は単身向かう事に

 1時間後に我がクラン前に集合となり、この場はお開きとなった




 クラン《白銀の翼》の前には、クロノアス領へ向かう者達が集合していた

 メンバーは各クラマス3名、ウォルド、ミリア筆頭の婚約者達、ハク、タマモ、アルバ

 一部冒険者ではないが、今回はこのメンバーで向かう事にした

 ウォルドはクラマスとアルバを除くお目付け役としても数えられている

 アルバはいざと言うときに、ミリア達を退避させる役割を

 ハクは鼻が一番良いので、探索向きなのが理由だ

 そしてタマモだが・・・


「兄様、兄様。森ならタマモは役に立ちます!」


 食い気味に志願してきたので、押し負けた感じだ

 断る理由が無かったのもある


 困ったのはリュミナだ

 彼女(人化中なので)も最後まで同伴しようとした

 挙句にはウォルドに勝負を挑み、代わろうとしたほどだ

 流石にこれは良くないと考えたので


「俺の決定に不服か?なら、俺に勝ったら連れてってやる」


 そう話すと、流石に大人しくなった

 リュミナ曰く「愛する方と戦うなんて・・・」らしい

 尚、訓練は別扱いの模様


 ちょっとしたトラブルもあったが、無事に出発を迎えられた

 ミリア達が同伴なのは、そこまで危険はないだろうと考えたのに加えてもう一つ、実戦経験を積んでも良いだろうと至ったからである

 リアとナユは既に猛者とも呼べる冒険者なので、二人を軸にミリア達にも実践を経験させるわけだ

 ミリアに関しては、従軍経験があるので、そこまで足手まといにはならないだろうとも考えた上でもある


 そして一行は、ゲートを潜り、クロノアス領・領都へ


 ゲートを潜ると、懐かしき故郷クロノアス領都にある、俺が育った屋敷の前に着く

 屋敷の前では、我が兄にしてクロノアス領の領主グリオルス・フィンクロノアス辺境伯が屋敷の前で出迎えてくれた


「久しぶりだね、ラフィ。色々と大変だった・・・いや、現在進行形で今も大変の真っ只中か」


「お久しぶりです、兄上。兄上は・・少し痩せましたか?」


 兄と2年ぶりに再開し、他愛ない挨拶を交わす

 少し痩せた兄だったが、元気そうなので安心した

 俺との挨拶が終わると、順に挨拶していき、最後に婚約者達が挨拶していく


「お初にお目にかかります。グラフィエル様の婚約者でミリアンヌ・フィン・ジルドーラと申します」


「初めまして、ミリアンヌ殿。私はグリオルス・フィン・クロノアス辺境伯です。将来は義妹になるのですから、あまり堅くならずに接してください」


「お心遣い、感謝します」


 ミリアを先頭に挨拶を交わしていく婚約者達

 リリィ、ティア、リア、ナユは面識がある為、軽い挨拶程度に留めていた

 ラナはそつなくこなし、シアは年齢的なものもあり、少々拙い部分もあったが、侯爵家令嬢として恥ずかしくない挨拶を交わす

 全員と挨拶を交わした兄は小声で


「良いお嬢さん方じゃないか。将来は大変そうだけど・・」


 軽~いジャブをかましてきた

 兄上・・・覚悟はできているんでしょうね?

 兄上の言葉に逆撃を開始する


「兄上の婚約者も大変美しい方と聞いていますよ。他にも、側室にと言われ、お見合い話が絶えないとか?」


 グリオルスの精神に100のブーメランダメージ

 そう!我が兄グリオルスも既に婚約者が5人いるのだ!

 俺の事は言えないのである!

 お互いに「「苦労しそうだね(ですね)」」と小声で話、屋敷内へ案内される


 あまりゆっくりはしてられないのだが、領主直々の申し出を断るのは非礼に当たる

 軽くお邪魔して、立ち去ろうと考えている中、クロノアス領の屋敷を初めて見る3人(ミリア・ラナ・シア)は興味津々

 そう言えば、この3人がクロノアス領の屋敷に来るのは初めてだったか

 そこで兄が一言


「良ければ、ラフィの部屋を見に行きますか?」


 そう提案をする

 あまり長居は出来ないのだが・・と考えていると


「30分後位に迎えの者が来るから、それまでは寛ぐと良いさ」


 俺の考えを見透かしたように答える

 ここまで言われたら、断るのは非礼になるな

 そして30分の間は、婚約者達が幼少期の頃に住んでた部屋を見たりし、昔話に華を咲かせる兄と俺の話を聞き入ったりしていた



 30分後、時間ぴったりに迎えの冒険者が屋敷に来た

 ・・・・ん?何故に冒険者?

 こういう場合って、ギルドの職員じゃないの?

 疑問顔で兄に顔を向けると


「ラフィは冒険者なのに知らないのか?彼は転移魔法が使える、かなり有名な冒険者だぞ」


「それは知りませんでした。・・・え~と・・」


「モラジンと言います。かの有名な【蹂躙者】殿に会えるとは・・世の中狭いですね」


 モラジンは軽くお辞儀をしてから説明してくれた


 彼自身の実力はCランクの上位でBには届いていないが、とある条件でBランク登録になっていた

 その条件が〖有事の際はギルドを優先すること〗であった


 彼は使い手が非常に少ない転移魔法使いで、裏では諜報員の役割も担っていた

 表向きはCランクで裏はBランク

 汚れ仕事は無く、有事の際には転移魔法で冒険者などを送り届けるのが仕事らしい

 そこまで有名な冒険者ならば名前が知れ渡っていても可笑しくないはず

 モラジンは「その疑問はごもっとも」と言った様子で


「私が派遣される冒険者はA以上、ほとんどがSですね。ここまで言えばお分かりになると思いますが」


「・・なるほど。守秘義務がある冒険者ってことか」


「はい。ついでに言うと、ギルド職員としても登録されているので、お給料も出てますよ」


「おいおい、そこまで喋って良いのかよ?」


「お給料・・・なんて羨ましい・・」


 二人のクラマスが疑問とちょっとだけ本音が出ちゃっていた

 そんな二人を見たモラジンは、軽く笑いながら


「そんなに高い給料は頂いてませんよ。せいぜい半月生活できるほどです。残りの収入は狩りと、今みたいな状況時の指名依頼料ですかね」


 この言葉にクラマス二人はほろりと涙を流した

 何て世知辛い・・と


 彼の話を聞くと、契約時にソロでの活動は不許可とされている

 更には、いつでも動けるように遠出は禁止

 安全マージンは最大限で常に取ること

 情報漏洩は禁止(但し、一部の人間には可)

 等々、かなり規約が多いらしい

 なので度々、冒険者養成所で臨時講師を受け持っているそうだ

 尚、大きい街の冒険者ギルドには最低でも一人はいるとも教えてくれた


 そこまで話して大丈夫かと思うが


「今回は、王都のギルマスから許可が下りてますから。恐らく、始まりのクランであるお三方には知っておいてもらった方が有益だと判断したのでしょう」


 こちらの意図を理解したモラジンが答える

 どうやら杞憂だった模様

 しかしあのタヌキギルマスめ・・先に話しておけよ


 そしてモラジンは、かなり優秀だと思う

 実力が伴えば、Aランクも夢ではなかっただろうに

 二人のクラマスもそう感じたらしく「「へぇ・・」」と認めるような声を上げていた


「残るお話は現地についてからに致しましょう。辺境伯様、庭をお借りしても?」


「構わない。万事上手くやってくれ」


「ありがとうございます。捜索に向かわれる方は庭へお願いします」


 モラジンは兄に礼を言い、庭へと歩いて行く

 現地に向かう者達も、ササっと準備をして庭へ

 そこでモラジンから予想外の一言が


「人数が多いですね。・・・これ、帰りの魔力が無くなりそうです」


 なんてことを言い出した

 確かに人数は多いが、彼の使う転移魔法は、転移陣を使ったものだ

 あまり人数制限は関係ないように見受けられるが


「転移陣でも、人数次第で使用魔力量が変わるんです」


 へぇ・・それは知らんかった

 それならと、一つ提案してみる


「まず、俺だけ転移させてくれ。場所さえわかれば、俺が繋ぐから」


「そう言えば、グラフィエル殿も転移魔法の使い手でしたね」


 お互いが意図を読み合い、先に俺だけ転移

 転移した場所をモラジンに聞き、脳内で世界地図を広げて場所を確認

 その後、ゲートを開いて全員が現地に着く


「いやはや、グラフィエル殿の転移魔法は、更に使い手の少ないゲートでしたか」


 モラジンが感嘆している中、周りを確認

 場所は何の変哲もない農村

 強いてあげるなら、少々規模の大きい農村だろうか

 近隣には魔物の領域もあるから、冒険者ギルドが必須なわけか


 数分程歩き、ギルドに入ると、農村冒険者ギルドのギルマスが待ち構えていた

 何故かポージングして筋肉を誇張させて

 その横には、ボロ雑巾になった冒険者が一人

 彼は土下座の状態で


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。もうしません許して下さい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・」


 ひたすらに謝り続けていた

 声を掛けるも


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。もうしません許して下さい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・」


 会話が成り立たなかった

 筋肉ギルマスに目を向けると、彼はサッと目を逸らし


「すまん・・やりすぎた。一応、話は全て聞いているから、問題はないぞ」


 やることはきちんとやってから制裁を加えましたよ、と悪びれずに告げる

 全員が思った事を口にする


「「「「「制裁するのは後でも良いだろうが!!」」」」」


 筋肉ギルマスは筋肉を委縮させ凹む

 暫く反省していてくれ!

 どちらも使い物にならないので、サブマスから事情を聞く

 ・・・・サブマスも筋肉だった


 サブマスの話を聞くと、元々はE3人D1人のパーティーに授業料と称して、報酬を多めに搾取しようと2人のCが声を掛けたらしい

 さっき土下座してひたすら謝っていたのが、その片割れとの事だ

 何故彼だけがここにいるのか?

 まぁ、当然逃げ帰って来たからだが、ではなぜ逃げ帰ったのか?

 その答えを聞いた瞬間、先に制裁を加えたギルマスの気持ちが少しだけ理解できた


 彼らは故意に、レラフォード側へと侵入したそうだ

 そこで珍しい薬草などを採取中に魔物に襲われ、相方のCは恐らくだが死亡

 残りの新人達は囮にしたらしく、生死不明

 その後は一目散に逃げたのでわからない

 これが彼から聞いた全ての情報らしい


「・・・・生存は絶望的だな」


 クラマスの片方がボソッと声を出す

 他の皆も話を聞く限りは同じだと思っている

 だが、今回は生死の確認をしなければならない

 他国への不法侵入に該当する為、報告が必要だからだ


 その後も情報を聞くが、魔物の種類位しか情報が出ないため、これ以上は無駄だなと見切りをつけ、領域へと向かう



 領域前まではモラジンも同行し、一言


「未確認ですが、灰色の魔物の目撃情報もあります。気を付けて下さい」


 モラジンはそれだけ告げて、いざと言うときの為に転移陣の設置を始める

 モラジンには予め『もし、竜の背に人が乗っていたら、迷わずに王都へ連絡を』と伝えた為だ

 彼は何も理由を聞かず『わかりました』とだけ返した


 一行は魔物の領域へと侵入する

 ランシェス側の領域は情報通りで、野生動物と魔物が入り乱れていた

 数は普通の領域と大差無し

 違うところがあるとすれば、こちらの領域の方が少し大きい位であろうか


 道中、ゴブリン、コボルト、オークに加え熊、狼、猪などの野生生物とも遭遇し戦闘になる

 ここで活躍したのは婚約者達だ


 ラナとリアが前衛を受け持ち、ティアが投擲で攪乱

 遠距離からはリリィとシアが攻撃

 ミリアは支援魔法で身体強化を施す

 ナユは回復特化なので、使い手が非常に少ない回復領域ヒーリングエリアを展開して援護

 ナユが使う魔法は、傷だけを癒すものではなく、体力も回復させる素晴らしい魔法だった


「こういう使い方もあるんだな」


 俺はナユの魔法に感心せざるを得なかった

 今度習得してみよう



 かなり奥まで進むが、婚約者達の連携は息ぴったりだ

 危なっかしい事もなく、奥へ奥へと進んでいく

 ミリア達も実に楽しそうなのだが


「ラフィ、婚約者さん達って強くないか?」


「普通に冒険者としてやっていけるよな?」


「うちにスカウトしたい位なんだが」


 ウォルドを筆頭に感嘆の声を漏らす、上位冒険者達

 そんな中、我慢できなくなったのか


「タマモも参戦します!」


 そう言って婚約者達に混じり、戦闘に参加するタマモ

 ハクも参加したがったのだが


「ハクはこの後に活躍できるから我慢な」


 シュンとしながらも言う事を聞くハク

 しかしその目は爛々と輝いていた


「(後で活躍して、目一杯褒めてもらうんだ!)」


 目がそう物語っていた



 さらに奥へ進むこと1時間

 一行は、国境線上に差し掛かる

 何故国境線上とわかるのか?

 それは、学者達が調べた際に魔法と魔道具を駆使して、地面に国境線が浮かび上がっているからだ

 現在地は3国の国境が交わる場所、領域の中心地

 俺はハクを呼び


「ハク、匂いを辿れるか?」


 安否不明者の私物を予め借りておいたので、それをハクに嗅がせる


 くんくんくんくん


 嗅ぐこと数秒、ハクは指を差して


「こっち!こっちから匂いがするよ!」


 何故か大はしゃぎで進もうとする

 ただ、この気配は・・・

 先程までとは変わり、明らかに質が違う

 未確認だが灰色もいるらしいし、隊列を変えた方が良いな


「ここから先は今までと変える。ミリア達は全員後方へ。ラナとリアは万が一の場合は足止めを優先。アルバ、皆の護衛とサポートを。わかっているとは思うが・・・」


「危険・・と判断したら奥方を連れて上空へ退避ですね?」


「それで良い。判断は任せる。ハクは引き続き、匂いを辿ってくれ。タマモはウォルド達と組んでくれ。二人もそれで構わないか?」


「そっちの指示に従おう。これはかなりやべぇ雰囲気だしな」


「無事に帰りたいもんだな」


「独断先行しなければ、無事に帰れはするさ」


「なんてったって【蹂躙者】だものな」


 最後にウォルドが茶化し、一同笑って不安を払拭する

 さて、ここからが本番だな

 警戒度を引き上げて、レラフォード側の領域へと侵入する


 歩いて15分、唐突に魔物の気配が濃くなる

 隊列は俺とハクが皆から距離を少し開けて先頭

 次にタマモが遊撃の位置に

 ウォルド、アルバ、クラマス二人はミリア達を囲み、ミリア達の傍でラナとリアが外側に位置を置く


 更に数分進むと


「なっ!タイラントボアにポイズンベアーだと!?」


「おい!こっちからはシャドウファングにブラックウルフが」


 焦るクラマス二人

 全員が戦闘態勢をとる中


「タマモ!いっきまーす!!」


 タマモが重力魔法を発動

 魔物達は地から離れ、フヨフヨと浮く

 突進力を無くし、満足に動けない魔物など格好の的である

 次にタマモは土魔法で下から棘を伸ばし串刺しに

 一撃で絶命した魔物達を素早く回収する俺

 阿吽の呼吸でサクッと終わらせる


「はは・・流石」


「俺、クラマス辞めようかな・・・」


 呆気なく終わった戦闘に、クラマス達は苦笑いであった


 その後も、B相当以上の魔物の襲撃が続くが、全てサクッと終わらせて回収していくも


「流石に数が多いな。このままだと押し切られる可能性もあるかな?」


 少しだけ警戒度を上げて、考えを上方修正

 そして・・ほんの少しの油断

 気付いた時には後衛とはぐれていた


「!?しまった!・・気を付けてはいたのに!」


 霧が出て、直ぐに吹き飛ばしたにも拘らず、ミリア達とはぐれてしまった

 タマモも少し距離があったのではぐれてしまったが、神獣たるタマモは召喚でどうにでもなる

 アルバがいるとはいえ、数の暴力は時に焦りを生む

 早く合流した方が良いと考え


「ハク!ミリア達の居場所は?」


「この霧のせいで良くわかんない。匂いも辿れなくなっちゃった」


「くそ!ハクでも無理となると少しヤバいな」


 そして迫られる二つの選択

 自重無しで全てを使い探すか戦略的撤退か

 考えるまでもない

 俺は俺の大切な者を守る

 故に決めた答えは、自重無しで全てを使うだ


 思考加速、全智神核、探査、五感強化、万能感知

 使えるスキルは全て使い、皆を探す

 するとそこにタマモが現れる


「兄様!やられたの!」


 何とも悔しそうに話すタマモ

 タマモが言うには、この霧自体が一種の結界で方向感覚を狂わせるそうだ

 更には気配遮断もついており、捜索は困難になると


 一刻の猶予もないと判断したので、更にスキルをフル稼働

 今まであまり使わなかった創造魔法も使用して、前世でのドロー○もどきを作り、各方向へ飛ばす

 当然自立可動式で視界共有


 5分ほど飛ばしたところで皆を見つけるが


「ちっ!やっぱり襲われてやがる!アルバとウォルドが前衛で食い止めているが・・突破は時間の問題か」


 ハクとタマモを抱え、縮地で皆の元に向かう

 飛ばしたドロー○もどきは遠隔召喚魔法で3機を皆の元へ呼び寄せ、4機纏めて魔物へ突撃させて自爆

 これで少しは時間稼ぎができたはず

 更に速度を上げ数十秒後、皆の元へ辿り着くと同時に、別方向から魔法が放たれる


 風魔法系上位魔法・ミキサーサイクロンが魔物の群れを屠る

 魔法の範囲内にいる者はその名の通りミキサーにかけられ、ミンチになる魔法だ

 効果範囲は術者の魔力と腕次第だが、効果を見るに相当の実力者の模様

 警戒はしつつも、残る魔物を掃討し、皆の元に


「「「「「「「「「ラフィ(様)(君)!」」」」」」」」」


 皆も心配だったようだ

 アルバも「お怪我が無くて何よりです」と安堵の言葉を出す

 そこで、ガサッっと草を踏む音が一つ

 皆が一斉にそちらを見ると


「怪我はありませんか?助けが間に合って何よりです」


 そう声を掛けてくる男性

 但し、人族ではない

 彼の耳はかの種族のように先端が尖っている

 そう、妖精族の男性だった

 彼はこちらを見ると


「もしかして、あの子供達の捜索隊ですか?でしたらご安心ください。丁重に保護させていただいてます」


「・・・保護ですか。それは一体何人で、どれくらいの年齢の人でしょうか?」


 警戒を解かずに質問をする

 妖精族は確かに魔法適性が高い者が多い

 だが、どちらかと言えば平和主義者が大多数を占める

 ましてや、こんな凶悪な領域の中、一人で活動しているのも腑に落ちない

 さて、どんな返答をするのか?


「保護している人数は少年少女が2名ずつ。年齢は13~15と言ったところでしょうか」


「そうですか。彼らは今どこに?」


「私の店で雑用をして頂いています。代わりに救援が来るまでの間は衣食住を保証させて頂いております」


 ん?この人は今何て言った?・・・店?こんなところに?

 一瞬混乱しかけるが、敵意はなさそうなので彼に付いて行くことに

 道中、彼の話を聞くと


 気付いたらこの森にいた

 この森で1年程生活している

 何故か料理と店の経営学のみ知っており、店を建てた

 食材はこの森にある物を使用


 若干身の上話のようだが、簡潔するとこの様な内容だ


 そう言えば、彼の名前を聞いていなかった

 誰もが「「「あっ」」」となり、名前を聞くと


「多分、ラギリア・・だと思います。他の名前があった気もするのですが・・・思い出せなくて」


 この言葉に〝?〟を浮かべる一行

 ただ俺だけは違った

 直感ではあるが確信はあった

 この人は〝転生者〟だと


 そこでふと、話をしていたラギリアが立ち止まる


「結界の一部が壊されてますね。修復しないと」


「もしかして、霧の事ですか?」


「ええ。魔物と動物に反応するように張っていたのですが・・・もしかして、反応しましたか?」


「反応しましたね。・・・吹き飛ばしましたけど」


 犯人は俺です!と、正直に名乗りを上げる

 しかしラギリアは怒ることなく


「そうですか。命の危険がある以上、仕方ない事です。後で修復しないと」


 そう言って、店への案内を続ける

 結論から言うと、彼が結界を直すことは無くなるとだけ言っておく


 そして歩く事10分

 そこには、この場所に似つかわしくない立派な店が建っていた

 店の前では掃き掃除をしている少年と薪割りをしている少年が

 店の中に目を向けると、テーブルを拭く少女が二人

 服もウェイトレスとウェイターの格好をしていた


「ご苦労様です。今日はお客様をお連れしましたよ」


 ラギリアは少年2人にに声を掛ける

 少年2人は「「え?こんなところに客!?」」って顔をしている

 その顔を見たラギリアは


「今日が君達の最初で最後の接客になるでしょう。準備して下さい」


 そう言って店の奥、厨房へと消えて行った

 少年2人は呆気に取られていたが


「もう!なにをやってるの!?早くお客様をご案内して!」


 店の中から、猫目でツリ目な少女から怒られ、ハッと我に返り、案内をし始める

 店に通され、まずはお水を配膳

 そして注文を取りに来た別の少女


「この度は当店にお越し頂きありがとうございます。現在のメニューはシェフのお任せ、A、B、Cになりますが、どれに致しましょうか?」


 見事な接客であった

 安否不明から僅か数日で仕込まれたとは思えない

 元々才能があったのか、何処かで仕込まれたのか

 定かではないが、ミリアの「ゴホン」との咳払いに「ハッ」となり、慌ててメニューの内容を聞く


「シェフのお任せAはボタンナベとなっております。猪肉をスープに漬け込み煮たものとなっております。また、野菜もふんだんに入った一品です。シェフのお任せBは熊肉のステーキと付け合わせになります。こちらはパンとスープもついております。シェフのお任せCはドラゴンスネークの香草焼きとなります。こちらもパンとスープがセットになっております。お値段は全て同じで銀貨1枚となっております」


 素晴らしい説明であった

 そして、地味に高い

 前世なら1セット1万もする

 まぁ、今の俺なら安く感じてしまうが・・・

 駄目だな・・金銭感覚がちょっと麻痺してるわ


 とは言え、注文しないわけにもいかない

 男連中にハクとタマモは熊肉のステーキを、ミリア達はボタンナベを、そして俺とアルバはドラゴンスネークを注文

 ・・・ん?何?その顔

 皆「あ、あり得ねぇ!」って顔をしているので


「何かヤバいのか?」


 そう聞かざるを得ない

 それに対する返答は


「いや、あれって下処理がすげぇ大変らしいから、ミスすると食えないもんが出てくるらしい」


「毒処理とかもあるって聞いたぜ」


「肉質もそんなに良くないよな・・・」


「ラフィ様がゲテモノ好きだったなんて」


「ラフィ、今からでも変えたら?」


「無難が一番だと思うの」


「ラフィ様の拘りはラナは知ってますけど、流石に・・・」


「ラフィ君の見る目がちょっと変わっちゃうね」


「まぁ、ラフィのことですから」


「シアは少し興味があるです」


 ウォルドを筆頭にクラマス2人にミリア、リリィ、ティア、ラナ、リア、ナユの言葉は辛辣だった

 シアは好奇心の方が勝った様だが

 そんな中でアルバが一言


「人族は皆そうなのだな。我らにとっては歯応えがあって良い肉なのだが」


 なんのフォローにもならない言葉を放つ

 皆が俺を見る目がジト目だ


「舌は竜族寄り?」


 誰かがボソッとそんな言葉を吐く

 地味に傷つくなぁ・・・

 ちょっと涙目である


 そして運ばれてくる料理

 どれも美味そうだ

 で、肝心のドラゴンスネークだが・・匂いがヤバい

 悪い意味でのヤバいではなく、良い意味でヤバい

 鼻腔をくすぐる香草の匂い

 肉質も柔らかそうで、滴り落ちる肉汁

 これ、当たり料理じゃね?


 全員がいただきますをして、ナイフで切り分けて一口

 ・・・・うっまぁぁぁ!(美味しいぃぃ)

 え!?ナニコレ?今まで食べたどの店よりも美味いんですけど

 皆も夢中で食べ進める中でシアが


「ラフィ様のお料理は美味しいのですか?」


 先程から興味津々の様子だったので、一口分けてあげる

 躊躇なく口に入れて、モグモグするシア

 ごっくんと飲み込み


「ふわぁぁぁ・・このお肉、すっごい美味しいですぅぅ」


 大絶賛の声を上げる

 このシアの大絶賛に興味を惹かれたのか


「あの・・ラフィ様?・・その」


「ラフィ君!一口頂戴!」


「私も食べてみたくなりました」


 そして奪われる俺の肉

 アルバは・・「主、これも試練かと」と視線を送り、肉を死守

 男共も手を付けようとしたが、そこはブロック

 ブーイングが起こるも


「あれだけ貶しといて、良くたかれるな。あ?ミリア達だけずるい?ミリア達は婚約者だから良いの!」


 だが、彼らも歴戦の冒険者

 交渉事もそれなりに出来るようで


「俺のステーキを2切れ渡す。だから一口くれ!」


「俺も渡すぞ!」


「俺はそれに、パンも半分つけるから!」


 往生際が悪かった

 仕方ないと一切れずつ分けてやる

 食べた彼らの反応は


「なんだこれ!?超うめぇ!!」


「熊肉のステーキが霞んでしまう!」


「高級料理店でもここまでの味は出せないぜ?それが銀貨1枚とか安すぎんだろ!」


 大絶賛だった

 それどころか「こっちを頼めばよかった!」「噂はしょせん噂か」「前に食ったのと全然違う!」と大興奮

 そこへオーナーシェフ・ラギリアが顔を見せる


「御満足頂けて何よりです。この森は食材の宝庫なので、鮮度の高い食材が仕入れられるのです」


 にっこりと笑うラギリアシェフ

 ただ、これだけの腕があるなら、こんな危険な領域の中よりも近場に店を出した方が良いのでは?

 疑問を口に出そうとしたところで


「考えておられることは尤もなのですが、生憎と世情に疎いものでして。良ければお話をお聞かせいただけませんか?」


 彼の言葉に一拍考えた後


「ラギリアシェフ。申し訳ないが確認したいことがあるので、奥で話せませんか?」


 そう申し出てみる

 彼も何かを察したようで


「わかりました。ですが、まずはお料理を。温かい方が美味しいですから」


 そう返し「食後のお飲み物はサービスさせて頂きます」と言って厨房へと戻って行った


 皆が満足して食べ終えた頃合いを見図り、食後の飲み物が提供される

 見たことない飲み物だが何だろうか?


「そちらは、香木を乾燥させ、酸味と甘みのある果実を混ぜた当店オリジナルの香り茶となります。苦みが苦手な方は、こちらの蜜をお使いください」


 至れり尽くせりであった

 王都ならば間違いなく大銀貨、下手をすれば金貨クラスの内容だ

 だが、目的を忘れてはいけない

 俺達は食事をしに来たのではないのだ


 ウォルドとクラマス2人を見ると・・あ、完全に本来の目的を忘れて、優越感に浸ってる

 そんな3人に軽く威圧し、本来の要件を思い出させる

 3人はバツが悪いのか「「「んんっ!」」」と」咳払い

 その後、ウォルドが代表してラギリアに


「申し訳ないですが、彼らから話を聞いても?」


「構いませんよ。彼らの安否確認に来られたのでしょう?」


「それもありますね。もう一つ、別の要件もありますが」


「そうですか・・彼らは帰れるんでしょうか?」


「そちらは問題ありません。こちらにも事情がありまして」


「わかりました。皆さん、帰る準備をして来て下さい。・・それくらいの時間は構いませんよね?」


「ええ。そちらも話があるようですし」


 ラギリアは変わらずに優しい顔を見せながら同意する


「では、奥に行きましょうか」


 そして、俺と二人だけの内緒話が始まる



 奥に向かった俺は、一応神眼を発動し確認

 やはり・・・か

 神眼で確認した称号には〝転生者〟があった

 但し(不完全)が隠されていた

 恐らく、料理知識と店舗経営のみ持ってきているのだろう

 詳しく話を聞くと


「思い出せるのは、何処かを借りてバー&創作料理店を経営していたことだけです。名前などは思い出せません。家族は・・確か、居なかったと思います。その辺りも曖昧で・・・。そう言えば、今思い出したのですが、友達が急死したと泣いていた5人組が居てましたね。その後、確か階下から火の手が上がったはずです。彼らは無事なんでしょうか?・・・いえ、きっと無事ですね。私より若いのですから」


「失礼ですがお歳は?」


「さぁ?前の歳は思い出せません。ただ、この体になった時は41だと何故かわかりましたね。何故なんでしょうか?」


「その辺りは深く考えない方が良いでしょう。前世で頑張っていた貴方に、神が贈り物をしてくれたと思って下されば良いと思いますよ」


「・・・不思議なことを仰る方ですね。ですが、貴方の話を聞いていると、不思議と納得してしまいます」


「それも神のお導きですよ。それで、今後はどうするのですか?」


「今後・・とは?」


「正直に言いますと、貴方の料理に惚れました。こんな僻地で店を出す人間・・今はエルフですが、そのような方ではないと思います。もし、宜しければ、うちのクランで料理を振舞いませんか?」


「おやおや、抜け駆けですかな?」


「少し違いますね。今あるクランは3つで、残り2人のクラマスも来ていますが、彼等はあなたを雇うことが出来ないのですよ」


「それは何故ですかな?」


「クラン内に、食事ができる場所を確保してないからです。我がクランは確保していますが、手狭なら拡張する用意もあります。最悪は、出資しても良い」


「私には勿体ない高評価ですな。・・・一つだけ、我儘を聞いていただけませんか?」


「何でしょうか?」


 そして始まる密談

 俺は彼の我儘を聞き入れた

 寧ろ、こちらからお願いしたい内容でもあったからだ

 その内容とは


『クラン所属は構いませんが、クラン内ではなく、普通に店を出したいのです。場所はそちらのクランの傍で構いません』


 願ったり叶ったりである

 最近クラン内で食事をする人間が増えたので、手狭になっていたのだ

 これを機に、食事場所を独立させ、クラン所属の者は一部商品に割引を適用

 それ以外の者は定価で販売したいと考えていた

 更に欲を言えば、弟子なんかも取ってもらえると、チェーン展開なんかも出来そうなので夢が広がる

 いずれは、各国であの味を味わえる世界に


 こうして、一部は秘密にしたまま商談は成立し、皆の元へ戻る

 当然だが、クラマス2人が悔しがったのは言うまでもない

 だが、食事処を捻出する資金がないのもまた事実

 ただ、こうして顔見知りにもなったので


「お二人のクランには一部料理の1割引を適用しましょう!但し、酒類は適用しません。後、店に迷惑を掛ける冒険者がクラン内に居たら出禁で」


「「その話、乗ったぁぁぁ!!!」」


 こうして優秀な最高の料理人を確保

 店は当然軌道に乗った

 ラギリアは経営にあまり興味が無く、美味しい料理を提供したいとの事だったのでオーナーは俺

 総料理長にラギリアを置き、弟子志願が何人も集まった

 純利益の1割が俺の取り分で、残りはラギリアにしておいた


「流石にお給料が高いのですが」


 との事なので


「近い内に頼みごともするし、恐らく出張になる可能性もあるから、その前金で」


 そう言って無理矢理押し通した

 彼の事だ・・最高の食材を仕入れるだろうから、利益はそれほど出ない気がするんだよね

 王都は物価も高いから、暮らすのにも一苦労だろうし

 そんなこんなで、俺は見事最高の料理人を雇う事に成功した


 また、ラギリアが保護していた新人冒険者だが、ギルマスの予想通り寄生虫冒険者に良いように使われていたそうだ

 あの逃げてきた冒険者には囮に使われたとも言っていた

 二人いたのだが、もう一人は最初に食われたそうだ

 その後、間一髪のところでラギリアが救助・保護したとの事だ


 新人冒険者の内、少女二人は冒険者を辞め、ラギリアの店で働きたいと申し出て、彼もそれを承諾した

 各して、安否不明冒険者は、1名死亡、4名保護と言う形で終わった


 後日、セフィッドには俺が説明に赴き、レラフォードには精霊を介して報告を上げた

 レラフォード代表は何か言いたそうだったらしいが、同族を迎え入れてくれたこともあり、押し黙った様だ


 ギルドは、約定破りとして各国に賠償金を支払い、逃げ帰って来た冒険者にその金を支払わせると豪語していた

 所謂、損害賠償請求だな

 制裁を受けて、損害賠償請求まで受けた彼の未来はお察しだ


 それと、後で神様達に確認はしとかないとな

 何となく、誰が関与したか予想は付いてるんだが

 一言文句を言わないと、今後対処出来ん


 因みにラギリアもチート持ちだったりはする

 但し、料理関係のスキルのみ

 彼はあくまでも料理人だったという事だ




 これがラギリアと俺の出会いの物語

 将来は美味しいご飯を子供達と食べに行きたいものだ

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