第86話 貴族って、マジめんどくせー

〝黒曜竜ディスト〟が、夕日に照らせされ顕現した

 その姿はまるで、某○Fに出てくる○ハムートの様な姿

 ヤバい・・カッコいい

 ちょっと厨二心が出てしまっても仕方ないと思う

 それくらい、類似した姿だった


「我は〝黒曜竜ディスト〟!主と共に未来を掴む竜也!」


 高らかに宣言し、庇護下に入った黒竜達へ宣言する

 更に咆哮し、全ての黒竜達を呼び寄せ、一体の黒竜へ向けて


「お主が今から群れ長だ。これからの事、頼むぞ」


 そう言い放つ

 告げられた黒竜は「え?自分が?いきなり!?何も聞いて無いっすよ!?」みたいな感じで唖然としている

 すぐさま、ディストと指名された黒竜で話し合いが行われて・・・いないな


 半ば脅迫じみたディストの言葉に、指名された黒竜は泣きそうな感じに見える

 あれだな・・前世でバイトしていた時に、店長から無茶なシフトを組まれた時の感じに見える

 ・・・あ、遂に指名された黒竜の心が折れたっぽい

 いや、あの感じは半分ヤケクソだな


 こうして、黒竜族に新しい群れ長が誕生した


 ディストは「これで一安心」と言った顔をして


「では、主。皆の元に戻りましょうか」


 と提案してきたが


「いやいや。待て待て。陛下との対話がまだだろうが」


 そう正論を返す

 しかしディストは


「新しい群れ長が対話すれば良いかと」


 などと言い出した

 正論だけど、俺が陛下に話を通した時はディストが群れ長だった

 今更新しい群れ長では示しがつかない


「交渉時はディストが群れ長だったのだから、ディストが話をするべきだろう。その上で、今後は新しい群れ長になったことを伝えるべきだろう」


「・・・確かにその通りですが。しかし、よろしいので?」


「え?何が?」


「いえ・・全ての属性竜が主の元に集いましたので。何か言われるのではないかと」


 ディストよ・・そんなものは今更だ

 何か言われる?全力で論破しますとも

 父上?全力で心労を和らげますとも


 ディストの心配に感謝し、陛下に報告すべくゲートを開こうとして、ディストが一つ相談をしてくる


「主。我も人化した方が良いですか?」


「え?人化出来るの?」


「はい。・・・もしや、他の六竜達は直ぐに出来なかったのですか?」


「ああ・・神獣達に教えてもらってたな」


「なんと嘆かわしい・・・赤、蒼、黄、緑は仕方ないとしても、白や茶まで出来ぬとは。少しなまっているようですな」


 そう言ったディストは、どこぞの神達を思い出させるような、素敵な顔をしていた

 ・・・六竜達も地獄をみそうだな・・・

 とりあえず、ディストには人化してもらい、新しい群れ長と共に待機してもらう

 幼竜が粗相をしないよう、他の黒竜達が幼竜の世話をしつつ陛下の顔を拝見するといった形になった


 そして、今度こそゲートを開き、王城へ

 今回は謁見の間での報告となった


 謁見の間には財務卿、軍務卿、商務卿、外務卿にその他大勢の法衣貴族

 勿論、父上も謁見の間で並んでいる

 あれ?そう言えば、謁見の間で報告って何気にこれが初じゃね?


 今まで未成年と言う事もあり、そのほとんどを応接室で報告していたので、柄にもなく緊張してしまう

 そんな俺の緊張など知らん!と言わんばかりに、陛下が玉座に座り、謁見と報告が始まる


「グラフィエル・フィン・クロノアスよ。報告を聞こう」


 片膝をつき、臣下の礼をしていた俺に陛下が語り掛ける

 陛下の言葉を受けてから顔を上げ、報告を始める


「先だってご報告していた通り、全ての条件を黒竜側は受諾いたしました」


「それは重畳。これで防衛に関しては、他国より一歩秀でたと言えるか。して、もう一つの件は?」


「そちらも大丈夫です。ただ一つ問題が・・・」


「申して見よ」


「・・・非常に申し上げにくいのですが・・・・」


「叱責はせぬから申して見よ」


「実は・・群れ長が当時の者と変わりました・・・」


「・・・・・・・」


 沈黙・・・時間は十数秒程度なのに長く感じる

 こういう雰囲気は苦手だ

 貴族ってマジで面倒くさい

 そして更に十数秒が過ぎ、陛下が口を開く

 周りはざわざわしている


「静まれ。クロノアス卿よ。新しい群れ長とやらも条件は認めたのであろうな?」


「はい。それは問題ございません」


「では問題ないか。対話する相手が変わっただけであろう?」


「いえ・・増えました。そして、対話の為には封印の聖域へ向かっていただく必要がございます」


 この言葉に騒ぎ立てる貴族連中

 お役所関係組もざわざわ

 近衛騎士達は「無礼な!」って雰囲気出してるし、父上に至っては・・あ、放心してる

 そんな謁見の間に、またも陛下のお言葉が響く


「静まれ!・・・クロノアス卿。理由を聞こう」


「現地に赴いていただく理由は二つございます」


「二つか。余の予想とは違うの。して、その理由は?」


「一つは黒竜の大きさにあります。一体だけならば王城でもギリギリ可能ですが、お顔を複数の黒竜達が視認し、覚えていただく必要があります。そうしなければ・・・」


「・・要らぬ被害が出かねぬか。二つ目はなんだ?」


「王都が混乱してしまうのでは?と言う事です。王都郊外でもそれは同じですし、複数の黒竜となれば王城の庭では不可能です。ならば、全ての黒竜にお顔を見て頂き、全黒竜に覚えて頂いた方が・・・」


「・・・手間は掛からぬか。・・余の懸念の一つを、見事に的を得て話したのは素晴らしい・・・が」


 陛下からお褒めの言葉が出るも、満場一致では終わらなかった

 次に陛下の発した言葉は正論だった


「国の頂点がおいそれとは出向けぬ。それは理解しておるか?」


「・・・はい」


「理解しておるなら良い。・・しかし、お主の言う事にも一理あるのも事実。さて、どうしたものか・・・」


「陛下!よろしいでしょうか?」


 ここで軍務卿のファクスラ侯爵が陛下に発言の許可を求める

 陛下は許可を出し、軍務卿が発言する


「今回の件ですが、軍務卿である自分も同伴させて頂きたいと存じます。護衛は、近衛から数名出せば良いかと」


「ファスクラ。お主は話を聞いていたのか?」


「無論でございます。ですが今回は、国防に関わる大きな話であります。でしたら、特例を用いても良いのでは?」


「・・・お主の意見は分かった。他の者はどうだ?」


 そして、やはりと言うか、新興の俺が功績を上げまくってるのを良く思ってない貴族が反対意見を述べる

 但し、その理由はどいつもこいつも変わらず


「陛下の御身に何かあれば大事です!」


 としか言わない

 陛下は・・内心呆れてるな

 表にも雰囲気にも出してないが、眼が「お主等はもう少しまともなことを言えんのか」って眼で見ている

 気付いているのは・・・あ、なるほどね

 これは既定路線なわけか


 騒いでいるのは、貴族派閥の法衣貴族のみ

 役職持ちにも貴族派閥がいて騒いでいるが、王族派と中立派は何も言ってないっぽい

 後、当たり前だが、○○卿の役職持ちは全員が王族派である

 その彼等は一切騒ぎ立てていない


「(裏で話し合いは済んでた訳だ)」


 そう確信して父上を見ると・・・あれ?まだ放心してる

 もしかして、父上には知らされてない?

 え?父上ハブられてる?もしや職場虐め?いや、パワハラか!?

 等と明後日の方向に考えが行きかけたところで


「静まらんか!」


 陛下の一喝

 謁見の間に静寂が戻る

 静かになった謁見の間にて、陛下が決定を下す


「余の決定を伝える。今回は特例事項とし、余と近衛数名に軍務卿、グラフィエルとグラキオスを同伴させる。これは決定事項である!」


 陛下の一喝で採択はなされた


「ヴィンタージ。お主と数名の近衛を護衛とする」


「はっ!直ぐに選抜します!」


 陛下の言葉にヴィンタージさんは選抜の用意を他の近衛に告げる

 同伴も軍務卿と俺は分かるが、何故父上まで?

 そんな疑問が残るも、謁見の間での報告は終了し、各々出ていく

 そんな中、何名かが近づいてくる

 その中には、放心から回復した父と財務卿、軍務卿の姿もあった


「よう。中々に良い感じだったぜ。初めてにしては合格だ」


「クロノアス卿も、ある意味では災難よな。全く!あの馬鹿どもときたら・・・」


「お前は本当に優秀だが・・・優秀だが!俺の心労が絶えん・・・。とは言え、陛下には感謝しなければ」


 軍務卿、財務卿、父上と順に声を掛けてくる

 3人が声を掛け終わると


「クロノアス卿。陛下からの言伝です『お主も忙しかろう?明日の朝には全部終わらせて帰ると良い。今日は城へと泊り、明朝に出発とする』との事です。部屋の用意が出来ましたら、お呼び致しますので。それでは」


 そう言ってヴィンタージさんは謁見の間を後にする

 そして・・やはりと言うか、初見の王族派貴族が群がる

 人数が多いので覚えきれん!全智神核先生任せた!


『・・・わかりました。確かに多いですね。それに、こんなに詰めかけては覚えにくいのは理解しました。ですが・・次は頑張って覚えてください』


 全智神核先生からのさり気無い宿題

 若干、呆れられた様にも聞こえる

 そんな俺の回答は「次、頑張ります・・」としか言えなかった


 詰めかけ挨拶が一通り終わり「お部屋の用意が出来ました」とメイドが呼びに来たので移動

 そして、部屋の中には俺以外の人間が3人いた

 財務卿、軍務卿、そして父上だ

 席を用意し、メイドにお茶を頼み、全員で一口飲んでから話が始まる


「さて、グラフィエル卿の疑問を解くとするかな」


 そう告げるは財務卿

 俺が疑問を抱いている事を見抜いてきた

 しかし説明は、軍務卿が始めてしまう


「お前さ、何で父親まで同伴にって思っただろ?」


「ええ、まぁ」


 この軍務卿、口は悪いし顔も厳ついんだが、面倒見は良いんだよな

 脳金に見えて貴族様はしっかりやってるし、お腹の中は結構真っ黒だとは思うけど

 そんな考えを悟られない様に、話を続けていく


「お前も気付いたと思うが、裏じゃ話し合いは済んでる。既定路線で間違いないが、色々と手順は踏まんと駄目だ」


「それは理解してますよ。だから何故、父上まで?って感じなんですけど」


「それはだな・・俺の同伴にも関係してるんだわ」


「はい?」


 余計に訳が分からん

 父上も護衛に当たるって意味か?

 そんな考えを呼んだかの如く、財務卿が話始める


「これは新興貴族家に良くある話でな。まぁ、ぶっちゃければ〚出しゃばり過ぎ〛と言う事じゃな。だから、何か理由付けして納得させねばならん」


「功績の独占を防ぐですか?」


「今回の場合は、陛下御自らが足を運ぶ。そこにお主と陛下だけだと納得しないようにして、別の企みがあったのだ」


「言っちまえば、危険になった時にお前が一人で逃げ出す事を期待してたんだよ。奴らは」


「・・・あほらしい。逃げる必要性なんか無いのに。そもそも、黒竜達との話し合いは既に終わってると報告しただろうに」


「話を事前に聞いてなきゃ信じねぇよ。俺だって未だ半信半疑ではあるぞ。だから、俺が立候補したわけだ。ついでの用事もあるしな」


「軍務卿のは何となく理解してましたよ。訓練の日取りとか方法とかでしょ?」


「話が分かるじゃねぇか・・じゃ、肝心の親父さんについてだが」


「そこからは、自分が話しましょう。父として、教育不足だったのを痛感したので」


 そう言って話を引き継ぎ、父が説明し始める


 クロノアス家は古い貴族家だが、俺自身の家は新興貴族家になる

 新参者なのであまり目立ちすぎると、当然だが嫉妬の対象にもなってしまう

 それを緩和するために、敢えて父を同伴させたと言われる

 その理由としては


 父親を置いて逃げはしないだろうと考える者

 父親を逃がすために犠牲になればと企む者

 父親が同伴ならばと納得する者


 と、新参者の貴族には周りへの配慮が必要なわけだ

 特に俺は、辺境伯家の三男で貴族の子弟だが、既に侯爵家の地位まで上り詰めている

 更に冒険者の間では【蹂躙者】と呼ばれており、武芸でどうにかするのは不可能

 結果、貴族の武器を使うしかないわけだが、新参者への配慮として、功績の分配をしてしまえば被害は最小限になるというわけだ


 めんどい・・・面倒くさ過ぎる

 もう、貴族辞めたくなってきた

 辞めさせてもらえないけどさ・・・


「正直、陛下が私を指名して下さって助かったと思っている。今のクロノアス家でも、貴族派閥に表立って敵対したくはないからな」


「そんなに厄介なのですか?」


 今の我が家なら、そこまで厄介ではないと思うのだが


「お前は知らんだろうが、前王には隠し子がいてな・・その隠し子が・・」


「ああ、貴族派閥にいる貴族家の者なのですね」


「本人は王になどなりたくない様だがな。爵位も法衣騎士爵だしな」


「と言うか、フェル殿下がいるのに、王位継承出来るわけが・・」


 そこで軍務卿と財務卿が俺の言葉を否定する


「それが今なら出来るんだよ。殿下は確かに王位継承権第一位だ。しかし、まだ未成年だ」


「そしてな、隠し子は継承権第二位だ。ヴィルノー先代が第三位。そして二人は成人している。この意味が分かるだろうて」


「ですが、過去にも未成年のまま継承した事例がありますよね?」


「それも絶対じゃねぇからなぁ・・奴らの企みは当然、確率の低い賭けになるが・・」


「分の悪い賭けに酔っておるだけよ。お主が貴族派閥のスパイでなければな」


 最後にジャブを仕掛けてくる財務卿

 貴族は面倒で、出来るなら今すぐ辞めたい位(辞められないけど)なのに、そんな面倒なことするわけがない

 ただ、父の前で疑われたのは、ちょっと気に入らない

 なので、逆撃します


「俺が貴族側のスパイ?寝言は寝てから言って欲しいものですね。良く父上の前で言ってくれましたよね?それって、父上もスパイだと言いたいのですか?寧ろ財務卿がスパイだったりして。仲違いさせてるようにしか聞こえませんし」


 貴族のあれこれで、かなりストレスが溜まっていたらしい

 思いっきり言ってやったわ

 財務卿は、青筋立ててめっちゃ睨んでくる

 軍務卿は、口を押《おさ》えて顔を横にずらし笑いを堪えている

 父は俺を怒りたいが、ここで怒ると今のやり取りに意味がなくなるし、財務卿の言い方には少し腹も立っていたようなので、敢えて何も言わないでいた


 睨み合う事、数十秒

 遂に耐えきれ無くなった軍務卿が笑いながら


「ぷっ!もう無理・・わははは!お前の負けだよ!ザイーブ」


「バラガス・・お前は・・・」


「今の言い方はお前が悪い!俺でも怒るわ」


「・・・そうだな。少し言葉が過ぎた。両名ともすまなかった」


「いえ、俺も言い過ぎました。つい、カッとなってしまって」


「私も息子と同罪ですな。止めも怒りもしなかったのですから」


 そして和解

 その後は・・貴族としての勉強会に発展

 小1時間ほど、先輩貴族の父、財務卿、軍務卿から要注意人物やちょっとしたお小言をもらい解散

 3人は最後に一言


「お前はお前の思う通りにやれば良い。家族はいつまでも家族で味方だ。ただ、王国の利益は考えろよ」


「俺はお前さんが気に入った。今度婚約者達も連れて来い。美味い店で奢ってやる!」


「お主は貴族家の子弟だが、新興貴族でもある。多少の型破りは立ち上げた者の特権とも言えるな。あまり度が過ぎぬようなら、少し位は目を瞑ろう」


 それだけ言って各々帰路に着く

 部屋には俺一人

 誰もいなくなった部屋の中、俺はベッドにダイブし


「貴族って・・マジめんどくせぇー!」


 声が漏れないように、枕に顔を押し付けながら大声を出す

 そしてそのまま、深い眠りに落ちる

 次に目が覚めたのは何時もの時間

 出発までにはまだ時間があるのでいつもの鍛錬をし、朝食へ


 モグモグ・・モグモグ・・


 ・・・ん~、美味しいんだけど何か物足りない

 さっさと終わらせてミリア達と食事がしたい




 そして時間は進み、出発の時間となった

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