第81話 フェリック皇国とウォルドの春

 武術大会が終わり、クロノアス家後継者問題の只中であった頃、我がクランに指名依頼の手紙が届いていた

 ただ俺も後継者問題に対応していたので確認が遅くなってしまったのは仕方ないと思う

 何故このような言い訳をするのか?それには理由がある


 クランに届いた手紙

 その手紙には蝋で封をし、とある家紋が記されていたからだ

 差出人はフェリック皇国皇王陛下ディクラス・モンテロ・フィン・フェリック

 他国からの、それも皇家からの指名依頼であった


 宛名も俺宛になっており、誰も読むことができなかったのだ

 手紙が届いてから1週間ほど放置しており


「なんで誰も言いに来ないんだよ!」


 と叫んでしまったほどだ

 とは言え、確認しに来る時間がなかったわけではない

 自業自得である


 職員達からも「仕方ないですよ」とか「お家問題は噂になってましたから」などと慰めの言葉をもらう

 職員達も気を使ったのだろう

 俺は素直に謝罪してから手紙を受け取り、内容を読んでいく

 手紙の内容は要約すると以下の通りだ


『グラフィエル・フィン・クロノアス殿

 フェリック皇国へ来て欲しい

 この指名依頼は冒険者ギルドを通したもので、正式な国家からの依頼である

 詳しい説明は来訪時に伝えるので、その時をお待ちする


 追伸 出来る限り、早急な来訪を望む』


 簡潔に訳すとこんな感じだ

 本来の文は、もっと長々と書いてあるけどな


 ・・・さて、これを受けるか否かだが

 冒険者としてなら栄誉ある依頼と言える

 しかし貴族としては・・と言われたら、ちょっと微妙


 そもそもの話、各国に冒険者ギルドは存在していて、その国にも高ランク冒険者はいる筈なのだ

 EX予定でこの世界に二人しかいないSSS冒険者に出す指名依頼となれば、国が滅びる可能性のある案件かとても面倒な貴族関係か会ってみたいと言うだけが多い


 そして俺の場合は、噂が尾ひれを付いて色々と流れているし、実際に色々とやらかしてる自覚もある

 いや、自業自得だけどさ

 何故か前世に比べて短気になってるんだよなぁ


 とは言え、このまま無視するわけにもいかない

 父に同行してもらって、陛下に聞かなければ

 最近、本気マジしがらみが増えてきたので、何かあれば王家にお伺いを立てることにしていた



「お主は・・また厄介事に巻き込まれたのか」


 陛下の第一声がそれだった

 俺も厄介事なんていりません!と言いたい

 父が横目で睨むので言えないが

 俺は苦笑いして誤魔化し、父が代わりに説明してくれた


「申し訳ありません、陛下。しかし、今回の件は陛下にお伺いを立てるべきだと、私が判断しました」


 そう言って父は、俺に手紙を見せるように促した


「こちらがお伺いする事になった手紙です」


 そう言って陛下に手紙を見せる

 手紙には蝋の上に押されたフェリック皇家の紋章がある

 差出人は間違いなく皇家だが、ギルドも経由してある

 陛下は手紙を開け、内容を吟味し


「・・ふむ。この手紙から察するにそこまで問題ではない気もするが。いや・・この文面だとな・・・」


 珍しく歯切れの悪い陛下

 どういうことなのだろうか?

 陛下は手紙を父に渡して見る様に促す

 手紙を見た父から出た言葉は


「これは何とも言えませんな。ただ・・」


 そう言って陛下と父は思案し始める

 俺には何を思案する必要があるのかわからない

 実はこれが前世の記憶持ちな俺の弊害というか弱点だったりする


 前世でも手慣れた人は、手紙に四季の言葉を入れたりはするが、伝わるように要件を書く

 大抵の人は直球で書くことの方が多いと思う


 逆に貴族社会では要件が伝わるようには書くが、結構遠回しに、相手に真意をあまり悟られない様に書く

 一応そういった教育は俺も受けてはいるが、超絶に苦手なのだ

 本当に貴族とは面倒な生き物である

 そんな思いが頭で通り過ぎた頃


「恐らく、焦ってはいるな。手紙の所々にその様な感じがある」


「私もそれは感じました。しかし、本筋が見えない。故に危険なのでは?」


「危険はあろうな。そもそもだ。この手紙は冒険者ギルド経由なのだろう?で、あれば・・」


 陛下と父は、何か分かった風で話をしているが、俺にはさっぱりである

 その後も二人は考えを言い合い、一つの結論を出した


「さて、グラフィエルよ」


「はい」


「手紙の件だが『行ってみるしかない』と言うのが、余らの結論だ。後はお主が貴族としてではなく、冒険者として受けるか否か決めよ」


 意外な陛下の言葉に少し驚く

 それを察した陛下は


「意外そうな顔をするな。余としては、多分面倒事にはなると思っているが、この案件に王家が口を挟むことは出来んな」


「冒険者ギルド経由だからですか?」


「そうだ。勿論、国家間のやり取りで介入はある。だが今回は、少し事情が異なる様だ。向こうが依頼してきたのは貴族のお主ではなく、冒険者としてのお主みたいだからな」


「・・・何か企んでません?」


 ジッと陛下を見つめる

 陛下も目を逸らさずこちらを見返す

 見つめ合う事しばし、陛下が折れた


「ついでにな、護衛任務を頼みたい。見返りは婚約者達の冒険者登録でどうだ?」


「デメリットしかない気がするんですが?」


「・・後でリリィ達に伝えておくか」


「ひ、卑怯な・・・」


「まぁ聞け。お主の婚約者達は、お主が心配でついていきたいのだ。今までは実力不足として、王家が抑えてきた。しかし、武術大会の結果を見れば、流石に抑えきれん」


 そんな裏事情があったとは

 確かに色々と心配はかけてきたし、無理無茶無謀はしないと言っても、信じてもらえないだろうとは自分でも思う

 身から出た錆か・・・


「シアはどうするのですか?」


 未成年であるシアを出して撤回を図る俺

 しかし!陛下はニヤリと笑う!

 あ・・これ、思考が読まれてるわ


「護衛対象で連れて行けば良かろう。緊急時の参戦は貴族家の娘として例外を通せるしな。ただ全員、ダンジョンと領域への立ち入りは禁止だ」


「・・わかりました。婚前旅行気分で楽しんできます」


「決まりだ。そして護衛対象だが、我が娘ミズレールだ」


「第一王女様ですか?お一人で?」


「無論、兵の護衛は出す。それとリアフェルとジスレールもだな」


「今回は国家としての用事ですか?」


「まぁ、そのようなものだ。いや・・お主には教えておくか。ミズレールの嫁ぎ先がフェリック皇国の第一皇子に決まった」


「おめでとうございます。・・で、良いのですか?」


「勿論だ。王家の娘というのは、中々婚姻が決まらないことが多い。クロノアス家は全員決まったようだが」


 陛下が愚痴を溢し始める

 父も最近まで同じ苦労を味わっていたので他人ごとでは済まされなかった


「話が脱線したな。こちらの人員は護衛の兵10名に近衛3名。それと使用人が複数名だな」


「出来れば使用人の正確な人数を・・」


「10名もいれば事足りるであろう。道中はお主の婚約者達にお相手願おうかの」


「わかりました。用意はいつ頃出来ますか?」


「明日にでも終わる。元々そういう予定だったからの」


 以上のやり取りがあって、指名依頼を同時受注することになった

 そして明日、一行はフェリック皇国へ向けて出発する




 翌日

 王城前には、内部拡張済み馬車4台が並んでいた

 例の如く、時空間魔法で拡張した馬車だ

 先頭と最後尾は兵5名と近衛1名が乗った馬車

 2列目に使用人の馬車があり、王妃様王女様とミリア達は3列目の馬車に同乗

 俺とウォルドは就寝時だけ先頭と最後尾の馬車に乗る


 昼前に王城を出発し、王都郊外へと出る

 そしてそこには


「主。お待ちしておりました」


 人化した六天竜達が待っていた

 代表して声をかけたのはブラストだ


 今回も大所帯なのは変わらないが以前よりは少ない

 違う点はシアを除く婚約者達が冒険者として来ている事

 何かあってからでは遅いので、竜達に護衛に着くようにと言っておいたのだ

 ついでに、空の旅を満喫してもらおうと思う


「皆すまないな。よろしく頼むよ」


「「「「「「はっ!」」」」」」


 そう言って六人は本来の姿へと戻る

 本来の姿へ戻った六竜は馬車を掴み、翼を大きく羽ばたかせ一斉に空へと飛び立つ

 馬は一度置いていき、フェリックに着いてからゲートで連れてくる手筈だ


 この方法にしたのには理由もある

 来月には長女エルーナの結婚式があるからだ

 なので今回は時間制限付きになった


 父はルナエラ姉の婿養子騒動を捌きつつ、式の準備も相手方と話し合って、しっかりと準備していた

 父は凄いと思う

 将来、俺に出来るかは疑問が残るので、今度父に聞こう


 そしてもう一つ

 結婚時のお祝い金の持参だ

 これは、金銭と物品で半々に出す

 金には困ってないが、物品となると心許ない

 なので、フェリック産品を出そうと思っている

 依頼を受けた理由が、結婚式の物品の為だとは、口が裂けても言えないな

 父からのお説教が飛んできそうだし

 そんなことを考えつつ、一路西へ飛ぶ


 空の旅はそこそこ快適だった

 夜は流石に地上に降りて休息を取り、翌朝から夜までひたすら飛ぶ

 3日ほどでフェリック皇国皇都アルモンテまで馬車で2日ほどの場所に到着する


 直接皇都近郊まで行くと、要らぬ騒ぎになるからという配慮だ

 ゲートで王城のうまやへと繋ぎ、馬を確保

 ん?この方法なら俺一人で来てから、ゲートを繋いで呼べば良かっただろって?

 そこはほら、普段経験出来ないからってリアフェル王妃様がね

 この人は遊び心満載なお方ですから

 陛下もね、リアフェル王妃には弱いんですよ

 その分、依頼料はお高めになってるし

 陛下、父、俺のリアフェル王妃への共通認識は〖逆らうと後が怖い〗ってのもあるけどさ・・


 まぁそんなこんなで、馬で馬車を引き、皇都へ向かう

 6竜達は人化して、兵達の馬車へ分散して乗る

 リュミナだけは女性なので王妃様方の馬車に同乗

 残り2日の道中は女子会になっていた




 2日後、皇都アルモンテ到着

 この都の在り方は少し面白かった

 何が面白いかというと、まじない的な意味合いもあるのかはわからないが、区画の割り振りが五芒星になっている


 中心地に王城と貴族街

 区画は5つに分かれており、商業区、鍛冶区、居住区、冒険者区、歓楽街となっている


 皇都へは商業区、冒険者区、歓楽街の3ヶ所から入る事が出来る

 俺達は商業区から都へと入る

 見た目かなり整理された都だが


「(都の拡張時には苦労しそうだな)」


 そう思えるような街並みだった


 商業区から貴族街へ向かう境目で、城からの出迎えが来る

 この後は騎士達が先導してくれるようだ

 そう言えば、この後の予定はどうなっているのだろうか?

 リアフェル王妃に聞いておかなければ


「この後の予定ですか?今日は迎賓館で宿泊し、私達は明日、謁見しますよ」


「それでしたら、冒険者ギルドへ向かいたいのですが」


「迎賓館に着いた後なら良いですよ。一人で行くのですか?」


「いえ。ウォルドを連れて行こうと思います。彼の顔は広いですから」


 王妃と迎賓館到着後の打ち合わせをし、特に問題もないと言われたので冒険者ギルドへ向かうことにする

 ウォルドの予定?そんなものは全却下である

 お仕事優先です!

 ・・・・・俺はいつから社畜になったんだろう?


 騎士達に先導されて迎賓館に到着

 暫くは滞在するので、使用人達が馬車から荷物を運び入れる

 んん?使用人の中に見たことがあるメイドが一人・・・

 え?何でナリアがいてるの?

 思わぬ人物の登場に、目を丸くする俺


 リアフェル王妃に・・って、もういねぇ!

 ・・・後で追及しよう

 いや・・ウォルドに追究しよう!そっちの方が手っ取り早い!

 ウォルドを呼び、冒険者ギルドへ向かいながら尋問した


 何故ウォルドに聞いた方が早いかって?

 実はウォルドとナリアは結婚を前提にお付き合い・・ではなく、婚約しているのだ

 収穫祭前に式を挙げる予定だ


 主君より先に?と思う人は大勢いてる

 だが、それは仕方のないことだ

 ナリアは来年30歳で行かず後家の仲間入りになってしまう

 ナリアも『子供は欲しいですね』と言っていたのでウォルドを紹介した

 その時のウォルドは


『うおぉぉぉ!俺にも春が来たぁぁぁ!』


 めっちゃ喜んでいた


 ナリアは結構童顔で、身長も体型も普通

 見た目20代前半にしか見えない

 後日、ナリアの年齢を聞いたウォルド曰く


『実年齢より若い奥さんとか最高じゃねぇか!家臣になれて、嫁さんもゲット!ラフィ様様だぜ!』


 そう言っていたほどだ

 ただ、ラフィ様様をナリアに聞かれていたらしく、後日『御館様です。言い方には気を付けてください』とこっぴどく怒られたと言っていた


 そんな経緯があるので、何か知っているはずと踏んだわけだ

 そんなウォルドの言い訳は


「いや・・ナリアに秘密にするように言われててな。リアフェル王妃様からそのように言われたらしい」


「・・・あの人、俺の反応見て楽しんでるよな?」


「ノーコメントで」


 というやり取りをしつつ、冒険者ギルドへと向かった

 口調が砕けているのは、冒険者として動いているためだ

 ウォルドはちょくちょくナリアに『言葉づかい』と怒られているらしい

 早くも尻に敷かれているみたいだ



 その後は他愛のない話をし、途中買い食いをしつつ、俺達は冒険者ギルドへと入った







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