第64話 収穫祭の日々 後編

 6日目、王城に呼び出された

 リアフェル王妃から収穫祭後に雇う執事候補のリストを渡され、その中から1~2名を選んでみては?との事だった

 屋敷も増築か改築しなければならなく、昼まではその話と打ち合わせだ

 後、昼飯は俺が作らされた

 めんどくさかったのでパンケーキサンドにした

 具材が挟まったパンケーキは珍しかった様で、味付けもオリジナルって事もあり高評価であった

 午後はメイドギルドにてメイドの増員をお願いした

 後日、メイド長と共に伺うと告げ、メイドギルドを後にする

 後はいつも通り、のんびりである


 7日目はリリィ、ミリア、ラナと商業区でデートである

 3人の目的は色々な食事である

 この3人、女性にとってはかなり羨ましく、食べても太りにくいらしい

 男の俺でも羨ましいと思うぞ

 で、午後からひたすら色んな店をはしご中だ

 2時間で食べ歩きや屋台の店も入れて既に15軒は回っている

 しかし、未だ食欲は衰えず、別腹~と言って食べて行く

 新しい一面が見れたけど・・怖かったのもわかってくれ

 女性の別腹は恐ろしいと再確認できた1日だった


 8日目、面倒事を片付けようとドバイグス侯爵家へ行く事にした

 今日は徒歩ではなく、貴族らしく馬車で移動だ

 侯爵家の門前に着くと、話は既に通ってるようで中へと案内される

 応接室へ通されると直ぐに侯爵が来て、軽く挨拶をして話を始める

 話の内容は概ねリリィの予想通りであったが一つ予想外な事を言われる

 話の内容は派閥の鞍替え、婚約者の紹介、各国での行動の内容と、ここまでは予想範囲内である

 予想外だったのは帝国の冒険者ギルドからの依頼書であった

 かなり気になり、その場で確認して良いか確認し、許可を取って手紙を開封する


 依頼内容は二つで家庭教師と調査依頼

 家庭教師の方は帝国の侯爵家が依頼人

 生徒は7歳で女の子に魔法を教える内容だ

 調査依頼の方は可能なら原因の排除も含まれていた

 調査依頼の内容は帝国領内のダンジョンから魔物の出現率が増加しているらしく、現在の冒険者数ではいずれ対処不可能になるので、原因の調査と可能なら排除だが、どちらも乗り気しない案件である

 帝国は仮想敵国なので、こちらが助けに行く必要性は特に無いと思える


 しかし現在、ランシェス王国と帝国は終戦条約に向けて話し合いをしているとドバイクス侯爵は話す

 貴族派は徹底抗戦を唱え、王族派は終戦協定を受け入れと真っ二つに割れているそうなのだが・・何故、俺に話す?

 軽く睨み、ほんの少しだけ威圧すると冷汗を流すも説明をしてくれる


 ドバイグス家は元々は貴族派閥だが数代前から中立派閥筆頭になったそうだ

 理由は過去の戦争が原因で、その責任は貴族派閥にあり、一番被害にあったのが国民であるためだと侯爵は話す

 侯爵は人があっての国と言う考えで、どちらにもつかない選択をしたそうなのだが、最近の王族は俺への態度が甘いと貴族派閥が色々と嗅ぎまわっているらしい

 ふむ・・と少し考えて一言


「俺の大切な者に手を出すなら潰します」


 と覚悟を見せる事にした

 俺の言葉に冷汗を拭う侯爵


「ドバイグス家は貴族派寄りと思われているが、内情は暴発しない様に貴族派寄りに見せて抑えているのだよ」


 と内情を明かしてきた

 今回この話をしたのも、俺は王族派でも実質は中立に近いのでは?と判断したらしい

 この話を聞いた瞬間、俺はドバイクス侯爵の観察力が高いと思った

 それと同時に、警戒度も引き上げる

 ほとんど話をした事も無い人間をある程度見抜くとなれば警戒もする

 何処で気付いたか聞くと、リリィと陛下や王妃と話す時の雰囲気が微妙に違うと言われ、納得はしたが敵に回すと脅威だと理解する

 話を戻し、侯爵はどういう考えなのか聞くと、終戦は賛成だが相互不可侵にするか貿易をするかで付く方を変えると答えた


 侯爵の考えだが、終戦と相互不可侵は賛成で交易は反対だと述べる

 帝国では奴隷売買が盛んであり、裏組織もかなりのもので、非合法な奴隷売買も行われており、王国に流入する懸念を恐れているのが理由だ

 それならと、いくつか解決策を出すが条件を付ける

 条件は解決策に納得した場合、実質は王族派寄りの鞍替えだ

 言い換えれば、中立と貴族派閥へのスパイになれと言っている

 そして、ダズバイア侯爵から了承の意を取って解決策を出す


 1、通行証とは別に商売証の発行

 2、限定通行

 3、検問の強化である


 一番大事なのは限定通行だ

 交易品を運ぶ者は何処からであれ、決められた場所以外は入国できなくする

 それ以外の入国はやましいことがあるとみなし


 入国拒否

 通行証、入国証、商売証の停止か剥奪


 こう言った厳しい処分にすれば良い

 密入国した場合には死罪を適用すれば早々入って来ないだろう

 検問の強化は関所人員増加と王都で商いをする場合は王国側領主の紹介状を必要とすれば良い

 王国領内での商いも初めは領村でしか出来ず、村長からの紹介状が無ければ領街での商いは出来ないとすれば、かなり制限できるだろう


 それでも全ての不安要素を抑えるには不可能と侯爵は言うが、狙いはそこではない

 真っ当な商いをしている帝国商人は非合法の奴らを忌み嫌う

 そうすれば、帝国側でも監視の目が厳しくなるだろう

 帝国商人が王国側に不利益な者を監視、告発してくれれば、王国内で非合法の者が勢力を築くのは不可能になる

 結果、利益が上げられないならば王国には来ないだろうとの考えだ

 人攫いに関しても監視体制の強化と万が一に帝国領内で終戦協定後に起これば莫大な違約金を請求するとし、帝国側にも動かざるを得ないように仕向ける


「帝国側も何も無ければ問題ない条約だと説明すれば飲むのでは?」


 と聞くと、そうでも無い様だ

 帝国内で一部の軍人や貴族が不穏な行動をしているそうだ

 実態がわからないので何とも言えないが最悪クーデターが起こる可能性もあるらしい


「これ以上の解決策は無いのでは?」


 と聞くと、流石に唸る

 そこでダメ押しをしてみる事にする

 帝国臣民も王国民も同じ人なのだからある程度は信じる事も大切だと言う

 唸ってはいたが、少なくとも一度貴族寄りからは距離を置くと侯爵は約束してくれた


 次に婚約者の話だが、侯爵には遅くに生まれた娘がおり、どうだと言われる

 断りを入れようとするが、その前に遮られて


「会って、見て、話してからでも遅くは無いだろう?」


 と言われ、渋々了承する

 紹介されたのは・・・7歳の女の子

 おい!おっさん!!これはいくらなんでもダメだろうが!!

 心の中で罵倒しつつ、表情は冷静に女の子を怖がらせないようにしないと


「こんにちわ。グラフィエル・フィン・クロノアスです」


「初めまして、クロノアス辺境伯様。私はダズバイア・フィン・ドバイグス侯爵の娘でノスシア・フィン・ドバイクスです」


 見事なカーテシーで挨拶をするノスシアちゃん

 その横でニコニコ顔のダズバイア侯爵

 心の中でため息を吐きつつ、座りましょうと言うが、彼女は俺をじっと見たまま驚愕の言葉を口にした


「お父様・・グラフィエル辺境伯様の周囲にいくつもの光が舞っています。とても綺麗で癒されます」


 その言葉に俺は驚きを隠せなかった

 何故それが見えるんだ!?見えているのは精霊かそれとも・・・

 俺は彼女のステータスを見るか迷った

 実は鑑定に神力を纏わせ、神眼とすれば相手のステータスを見る事が出来る

 何故それが出来るのか?は幼少期にまで遡る


 子供の頃、色々と試していた俺はふとルリとハクに神気込みの鑑定を使ったことがあった

 その時に2匹のステータスが見えたのだ

 ただ、俺と魔力パスでも通っている為かな?と思い、父に内緒で実験をしていたのだ

 実験を父にしたのにも理由があった

 父は以前にステータスを見せてくれてたので、罪悪感があまりなく実行できたからだ

 全く無いわけではないが、他の見てない人よりはって事で実験した結果、見えてしまった

 以降、この力は封印していたが、流石に今回はと実行に移そうとして思い留まった


 思考加速と全智で今の言葉から推察できる事柄を読み解く

 すると、全智から答えが返ってきた


『憶測ですが二つの可能性があります。魔眼か精霊眼のどちらかと思われますが、恐らく後者だと思われます。魔眼では光が舞うと表現できない可能性が高いと思われますが、確認されるた方が良いでしょう』


 全智は確認推奨か

 仕方ないと割り切り、直接聞くことにする


「もしかして、その眼は精霊眼かい?」


「はい。でも、なぜわかったのですか?」


「光が舞うって言葉にしたでしょ?魔眼じゃ、そう言う表現は出来ない可能性が高いから、恐らくそうだろうと思っただけだよ」


 言葉を交わしているが、一番驚いていたのはダズバイア侯爵であった

 娘の言葉にも驚いたが、俺が眼の事を言い当てたのにも驚いているようだった

 侯爵は少し咳をしてから話始める


「流石SSSと言う所か・・しかし察しが良すぎだな」


「あくまで可能性が高い方を言っただけですよ。答えてくれたのは、彼女なりの誠意なのでは?とても賢い子だと思いますよ」


 お互いその言葉だけを話し、無言で席に座る

 ノスシアちゃんもダズバイア侯爵に言われて席に座る

 そこでふと疑問に思う・・帝国の家庭教師ってこの子にはついてないのか?

 魔法に関してなら相当なアドバンテージがある筈なんだが

 少し考えこみ・・あ!そう言う事か!と納得してしまった

 さて、問題はそれを言うか言わないかなんだが・・・

 更に考え込み・・言う事にした


 ノスシアちゃんは・・まぁ、無邪気さもあって言ったんだろうが隠し事してないしな

 俺も言うべきだろう

 だが、確認は必要だ

 そう決めて、ダズバイア侯爵に先程の依頼について再度訪ねる

 やはり、何かおかしい・・なので単刀直入に聞いた


「先ほどの家庭教師の依頼ですが・・本当は無いのでしょう?いや、家庭教師の依頼はあるが対象者が違うですかね」


 とぼけるダズバイア侯爵だが、俺は崩しにかかる


「そもそも国民第一の人間が帝国貴族と懇意にあるのがおかしい。冒険者ギルドは別としても、ギルド側がわざわざランシェスまで依頼を出すのがおかしい。次にノスシアちゃんの事です。彼女は魔法属性の相性は悪くないはずだ。なのにそう言った家庭教師の気配が無い。他の家庭教師はいるのにね」


 ここまで言って観念したのか、正直に答えだすダズバイア侯爵


「察しが良すぎるのも考え物だな」


 と愚痴を零しつつ、本当の事を話す

 先ず依頼については全部嘘・・但し、情報は全て本物

 冒険者を雇い、帝国で情報収集をさせているそうだ

 ランクはAで潜入などが得意分野


 ノスシアちゃんの魔法適性は5属性で火と雷と無が無いそうだ

 時空間は適性の話に基本いれないので5属性になる

 俺は彼女を見て、もしかしたら行けるんじゃないか?と思い念話を試してみる

 相手は精霊で、一応確認の為に聞くと可能性はあるそうだ

 これはちょっと面白いかもと思いダズバイア侯爵に提案する


「もしかしたら、この世界で俺以外に唯一使える魔法が覚えられるかもしれませんがどうします?」


 この言葉に侯爵は腰を浮かせ食い気味になった

 但し、条件があるのでそれは聞いてもらわないといけない

 その条件とは、授業中は誰も近寄らない事と何も聞かない事

 約束を違えればそれまで

 期間は収穫祭が終るまで

 これがこちらが出した条件だ


 侯爵はそんな短期間で大丈夫なのかと聞いてくる

 適性はあるが1週間で変化が無ければ不可能だと説明する

 この魔法は修得ではなく適性のみが全てであるからだ

 それを告げると侯爵は条件を呑んだ


「では、明日からにしましょう」


 と言う事で話は・・終わらなかった

 婚約者の話がこの後出てきたのだが、流石にまだ年齢的にも早いし、本人の気持ちも大事だろうと伝え、何とか保留迄持ち込んで終わらせた


 侯爵家を後にし、王城へ向かいリリィを呼んで話をする

 とりあえず婚約者の部分は置いといて、家庭教師については特に言う事は無いそうだ

 こうして残りの収穫祭は家庭教師をして終わりを迎える事になった

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